『隣の席のカッテ君』
グリップダイス
『隣の席のカッテ君』
私が次の授業の準備をしていると、隣の席の男子が唐突に話し掛けてきた。
高校に入学して1ヶ月、今までほとんど話したことがない、地味目な男子が。
「キミはボクのものだよ」
あまりの事に、私はバカみたいに聞き返した。
『……は?』
「正確には、キミはボクの夢の中の登場人物なんだ」
うわ、キッモ……。
高校1年の連休明け、隣の席のヤツがヤバイヤツだった事が判明した。
マジどうすんの、これ?
答えかた間違ったら私、殺されたりするわけ?こいつに。
かんべんして欲しいんだけど……。
『…へ、へえ?そうなんだ?』
「うん。だからボクが目を覚ますと、キミはパッと消えて無くなっちゃうんだ」
ヤツは自分の机に片肘をついて、深刻な顔でそう言って、私を見た。
いや、まあね、そういう想像したことはあるよ、確かに。
小学生の時だけどな。
「あれ?おかしいな?怖くないの?」
『何が?』
「だって、次の瞬間にもボクが目を覚ますかもしれないよ?
そうしたらキミは、無くなっちゃうんだよ?
キミが今までやって来たことは全て無駄になってしまうし。
楽しかった思い出も、将来やりたかった事も、全部一瞬で消えてしまうんだよ」
自分の夢の登場人物に対して、ずいぶんと親切だな、こいつ。
『…まあ、そうだね』
「あ、それとも実感が湧かないのかな?急にこんな事言われても」
そう言ってヤツは、少し気の毒そうに私を見た。
イヤ、気の毒なのは多分、お前の方だけどな。
『ハハ。
別にこの世界があんたの夢だったとしても、私のやる事が変わるわけじゃないし。
私は私のやりたい事やって、私の考えたい事考えるよ。
あんたが目を覚ますまでね』
するとヤツは、びっくりしたように私を見た。こっちが驚くほど、あっけにとられて私を見ている。
イヤ、そんなにおかしい事、言ってないでしょ?
それから次の瞬間、急に右手で自分の胸を抑えて、顔をゆがめた。
「つっ!な、なんだ、急に胸が!?」
『はあ?ちょっと大丈夫?顔、真っ赤だよ!?』
「い、今、とても肝要な事に気付きそうだったのに!真理に近付く何かにー!」
『ええぇぇ…?』
「今、目覚めてはダメだ。しかし、こんなに胸が高鳴っていては、目が覚めてしまうかもしれない。
……キミ、すまないがボクは少し考察に入るから、ボクの事はしばらく放っておいてくれ」
…ハイハイ。
この、勝手に話し掛けてきて、勝手に話しを切り上げる自分勝手な隣人に、とりあえず私は
『カッテ君』
というあだ名を、心の中でそっと付けた。
『隣の席のカッテ君』 グリップダイス @GripDice
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