三角と資質

ミタカミシロ

第1話

世界が捻転し、うつむいた月が蜜のようなアスファルトを見下ろしている。


握りしめた拳で目の前の男を殴りつけ、腹部に強めの蹴りをいれた。


初老らしき男は地面でずるずると道路と服を必死にこすり合わせ、うう、うう、とうめき声を漏らす。


「なぜ殴った、あとお前はだれだ」


男がミツバに問いかける。


暴力に理由はない、ただ目の前に男がいただけだ、内臓から押し出そうな欲望の塊と精神が大きな闇に飲み込まれぬように、ただ、殴った。


「わからない」


ミツバはそう答えると男の足をつかみ、腰のあたりのポケットに入れているカッターを取り出し、アキレス腱に突き立て、グッと押し込む。


逃亡が一番恐ろしい、逃がしてはならないのだ、この男は。己の闇に飲まれた精神が知らぬ何かに触れたのならば、知らぬそれも浸食の渦に飲み込ませ、深い海へと突き落とさねばならない。


男はかなり大きな声をあげ、抵抗し、わめく。


カッターナイフを右や左に、手にはカレー鍋をかき混ぜる感覚が伝わる。


手には血が付き、目の前には大きく開いた傷口から脂肪が見え、ゴムのような管が見えた、だが、その傷口が動くたびに己を睨みつける目として瞬き、少しばかりの奇妙さと恐怖心が絡み合い、つぶされる感覚を覚え、握る手を何度も憎たらしい肉体の目に打ち付けた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

三角と資質 ミタカミシロ @mitaka_3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ