第10章
翌日の夜八時に、俺は鉄道の高架に隣接する公園に行った。約束の時間、約束の場所だ。俺は公園のベンチに座って葵を待った。それほど広くなく、ベンチと生垣と水飲み場があるだけの公園では、高校生たちがダンスを踊ったり、カップルが肩を寄せ合ってひそひそ話をしたりしていた。隅のほうで男がギターを弾いている。紙袋から包装された小さな箱を取り出し、試しに耳を当ててみたが、何も音は聞こえなかった。再び袋の中に戻す。
九時まで待ったが葵は来なかった。俺はただ待つことに飽きて、公園の向かいのビルの二階にある喫茶店に場所を移した。窓際の席が空いていたのでそこに座った。そこからなら公園の様子も見て取れたし、冷えたコーヒーもあった。俺はそこで葵が現れるのを待つことにした。
ひそひそ話のカップルが去り、高校生たちが去った。そしてすぐに違うカップルが来てひそひそ話を始め、違う高校生たちがダンスを始めた。ギターの男は相変わらず規則的に右手を動かしていた。
どのくらいの時間が俺とその公園の間に流れただろう。やがて細身の女性店員がやって来て言った。
「申し訳ございませんが、そろそろ閉店の時間ですので」
俺のほかには会計をしているサラリーマン以外に客の姿はなかった。俺はカウンターの奥の時計を見た。十時半を少し回ったところだった。カウンターの中では、すでに片づけが始まっていた。
「わかりました」と言って俺は席を立った。「あの、すみません。テイクアウトでアイスコーヒーを一杯いただけますか?」
「はい、かしこまりました」と女性の店員は嫌な顔一つせずに言った。そのおかげで俺は少し気が楽になった。
コーヒー四杯の代金と不毛な一時間半を清算すると、俺はアイスコーヒーを持って再び公園に戻った。夜は一段とその深さを増していたが、空気はいまだ蒸し暑く、狭い公園に人は減るどころか増えていた。そして高校生はさっきよりも激しく踊り、カップルたちは大きな声で笑った。俺はほとほと嫌気がさした。この街はどうかしていると思った。それでも俺は待ったが、葵は一向に現れなかった。
やがて俺は諦めて帰ることにした。時計はもうすぐ一日が終わろうとしていることを示していた。それでも彼らは狂ったように笑い、踊っていた。公園の片隅では今もって男がギターを鳴らしていた。何が彼をそれほどまでに掻き立てるのか、俺は不思議に思った。公園を出る時にふと振り返ると、彼と目が合った。
雲一つない夜空には、しかし星は多くなかった。足取りは重かった。ひどく疲れていたが、コーヒーを飲みすぎたせいで眠れそうになかった。
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