桃が二つ流れてくるところからお話は始まります。
おばあさんに拾われた桃から生まれた男の子は「桃太郎」に。拾われなかった桃は、どんぶらこと流れ続けて鬼ヶ島へ。その桃から生まれた女の子は「鬼子」と名付けられ、鬼の子供として育てられます。
そして『桃太郎』のお話の通り、鬼退治が始まるのですが、犬、猿、キジが軍隊編成となって鬼に襲いかかり、桃太郎は優秀な兵士としてそこに参加して……。
これが鬼目線で進んでいきます。やられる側として鬼退治が描写されるので、本来の『桃太郎』では正義であるはずの鬼退治も、酷く残虐な仕打ちとして読み手に迫ります。
しかし一方の桃太郎にも、作者さまは完全な悪を背負わせることはせず、桃太郎にとっての正しい信念を持たせて戦わせています。
火がついたまま走り続けるような物語展開を駆け抜けて、桃太郎自身が自分の掲げる正義に疑問を持つ場面へと行き着きます。
それはそのまま読み手へと突き付けられる疑問であり、それがこの物語のテーマであり作者さまが桃太郎や鬼子を通じて書きたかったことなのかなと思いました。
最後には、その疑問へのひとつの答えが提示されます。作者さまが登場人物たちに託したこの答えはとても優しくて力強いもので、読んでいて胸が熱くなりました。
鬼気迫る戦いのシーンでは息を飲んで、かっぱえび(かっぱとえびの姿をした物の怪)さんには癒され、鬼子と桃太郎が出した最後の決意を見送っての完結。大満足です。
令和時代の『新・桃太郎』。ぜひ読んでみてください。