◆第12話◆「なんだかなぁ、なんでアンタがでるんだよ?(前編)」

 ピ───。


 無造作にスイッチを押したジェイク。

 声が全員に聞こえるように床に置くと、まるで見下す様に高い目線で見下ろした。


 どんな奴が出るのか見届けてやるとばかりに──────。



『───ちょっとアンタたち!! もう、降参しなさいッッ! ダンジョンからは逃げられないわよ!』


 キーーーーーーーーーーーーン!!


(うるせぇッ!!)


 キンキンと響く声が通信魔道具から飛び出してきた。

 あまりに声量にジェイクが仰け反っている。


 って、この声──────!!


「テリス?」

「テリスさん?」


「あー……。あの受付嬢か───」


 久しぶりに聞いた声に全員が驚く。


『そうよ! ギルドの不正対策委員の一人、テリスです! もう、あなた達の目論見は見破──────…………エミリィさん?』


「え? あ、はい」


 キンキン声のテリスが途中でエミリィに気付いたのか、声のトーンが明らかに変わる。

 その声の向こうで、ガタンガタッ! と椅子でも倒れるような音が響いていた。


『ちょ、ちょっと!? どういう事……??──────ま、まさか、「鉄の拳」の捕虜になったんじゃ?!』


「へ? いえ……違いますけど」


『くそッ! なんて連中! 聞きなさい、豚ども! 私のエミリィさんに手を出したら、その貧相なものをハサミでちょん切ってやるからねッ』


 おうふ。

 玉ヒュン──────!!


 なぜか、ジェイクも若内股気味になっている。


「ちょ、違いますよ! テリスさん落ち着いてください、ムビュ」


 エミリィがアワアワとしながら床の通信魔道具に話しかけているところに、ジェイクが顔面を掴んで脇にのけた。


「───どいてろ。話が進まん」

『ちょっと、アンタ誰よ! 私のエミリィさんの至福の時間を邪魔すんじゃないわよ!』


「……阿呆ぅ。俺だ。『豹の槍パンターランツァ』のジェイクだ」


 ガッッターーンッ!!!


 さらに激しい音が、通信魔道具越しに───……。

 ずいぶん忙しい人だな。


『ジェイクさん?! 嘘ッ……い、生きてたんですか?!』

「勝手に殺すな阿呆ぅ!! そっちの状況が分からん。あの裏切り者どもを含め、お前らギルドが連中を送り込んできたんじゃないのか?───オマエら、俺を嵌めただろう?」


 ド直球なジェイク。

 だが、それに対して以外にもテリスは無口だった。 


「───現状、俺は『悪鬼の牙城』で足止めを食らってる。お前らの寄越した貧相な救出パーティはほぼ全滅だ。それこそ、お前らがよこした『鉄の拳アイアンフィスト』によってなッ!」

『…………現状はこちらも認識しています。そして、ギルドが噛んでいたことも事実です』


 え?!

 ま、まじ?!


『ですが──────。その勢力は既に一掃されました』

「ほう? それを信じろと? 都合のいい話だな。それになんだ?───ギルド内のいざこざが原因だったと?」


 ジェイクのなじるような口調にも、テリスは常に冷静だった。


『そうですね……。我々に原因があることは事実です。そのうえで、当事者であるジェイクさんにはお伝えします。───はっきり言えば、原因はギルドマスターにあります。いえ、元ギルドマスターですね』 


「なんだと!?」


『えぇ、お怒りは分かります。ですが、直接的な原因は確かにギルドマスターにあります。ですが、……彼をそそのかした連中は外部の者です』


 …………外部?

 ギルドマスターが裏切り者?


 ───全然ついていけない……。


「え、どういうことな───」

「黙ってろ間抜け。──……おそらくだが、王国の外交部の仕業だな? いや、今は共和国だったな」


『お察しの通りです。外部から、かなりの資金と人員が動いています───現在把握している所では、ジェイクさんたちの故郷である共和国ではクーデターが勃発……。旧王国勢力が盛り返しているそうです』


 ええ???

 全然意味が分からない……。


 ビィトは顔中にハテナマークを付けているがそれはジェイク以外全員だった。


 当事者の一人であるリスティは、これ幸いとばかりにチーズフォンデュを独り占めしてムッシャムッシャと……。


『なるほど……。大体の事情は読めてきた。……旧王国派の復権とともに古い派閥抗争が再び起こっているというわけか……』


 派閥抗争──────?


 え?

 まさか、もう御家の再興が起こっているのか?


「ジェイクもしかして……」

「そうだ──────。旧貴族が盛り返して、王国復帰を考えているらしい。……そして、その後を見越して旧貴族の中でも勢力のデカイ俺の家が邪魔になったんだろうさ」


 そ、そうか……。


 ジェイクの家は元大貴族。


 王国の中では中核を占めていたけど、今はその影もない───。


 だが、旧王国派が復権したとなれば権力も再び復活する可能性がある。

 ならば、今のうちに芽を潰しておきたい旧貴族の反勢力もいるという事……。


 そいつ等が、強者かつ血筋のいいジェイクをダンジョンで屠ろうと考えるのは自然な流れか───。


『はい。我々の情報部門の認識ではそうなっております。……元ギルドマスターはそれほどの人物ではありません。金と地位に目が眩み、「鉄の拳アイアンフィスト」をあなたに紹介し、救助隊の活動を阻害してしまいました。……おかげで、既に数十のパーティが全滅ないし行方不明になっています』


 そ、そんな?!


『あまりの惨状に、戦力の逐次投入ではないか? と査問が開かれ───そこでようやく事実が判明しました。これは、我々ギルド側の落ち度ですね。……まことに申し訳ありません』


「謝罪はいい。それよりも、問題は未だ『鉄の拳アイアンフィスト』どもが戦力を維持していることにある」


『はい……。確認しているだけでも、一個中隊規模の旧王国の特殊部隊がダンジョンに潜り込んでいます』


「よく調べたな。ま、もともと、お前らの制度がガバガバのせいだがな」

『───おっしゃる通りです。わざわざ冒険者証を発行して、新人パーティのふりをした連中に気付くのが遅れました』


 通りで……!

 『鉄の拳』どものあの数は、全部王国の兵士だったのか。


 確かに、統制の取れた連中だとは思っていたが……。





「───で、対策は?」

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