★第86話★「なんてこった、こいつムカつく!!」

「ジェイク……ジェイク……ジェイク……」


 ボキボキと手をならしながら、ビィトがユラーリと進む。

 未だ床でピクピクと震えているジェイクに向かって───。


「ほんと、いっつもそうだよな」


 一歩、


「なーーーーーーーんか、あるとすぐ俺のせいにするし、」


 二歩、


「なーーーんでか知らないけど、俺のこと見下してるし、」


 三歩、


「なーーーーーーーーーーーにしても、ケチをつけてくる」


 ジェイク。


「なぁ? 俺の何がそんなに気にくわない? 俺がお前になんかしたっけ? 俺がお前の不利益を与えたことあったか?」


 そうとも、

 利益にはならなかったかもしれないが、少なくともパーティの仲間で分けるお金分くらいには働いてる。


 仕入れも俺。

 荷担にかつぎも俺。

 見張りも俺。

 料理も俺。

 掃除も俺。

 洗濯も俺。


 そんでもって救出も俺。

 わざわざ食料持ってきたのも俺。

 そもそも、緊急信号を出せたのも俺。


 「鉄の拳」とやらを退けたのも俺。 


 俺、俺、俺、俺、俺、俺、俺、俺、俺、俺!!!


 全部オレだろ?!

 なあ!?


 いちいち恩着せがましく言う気はないけどさぁぁぁあ!!


「───俺だって、やれることやってるだろうがぁぁぁああ!!!」

「んなこたぁ、知っとるわぁぁぁあぁぁぁぁぁぁアアアア!!!!」



 ジェイクにトドメを叩き込もうか逡巡している隙に、ジェイクがガバチョと起き上がる!!



 その面といったら、もうパンパンで、見れたもんじゃない。


「ブフッ!! ひっでーーーーーー面だぞ、ジェイク!」

「お前に言われたくはないわぁぁぁぁぁぁぁああ!!!」


 ビィトの面もパンパンのボロッボロ!

 そりゃそうだ。


 だけど、

「お前が殴って来たんだろうが!!!」 

「お前が間抜けだからだ!!!!!!」


 だから、それが意味わかんねぇぇぇぇぇええんだよ!!!


 こうなったら、

「とことんまでやってやらぁぁぁぁぁあああああああ!!」

「ああああああああああああ、かかってこぉぉぉぉい!!」


 うおりゃぁぁああああああ!!


 と、ジェイクとビィトが同時に飛び掛かり、ゼロ距離でぶつかり合う!

 

 取っ組み合い、取っ組み合いだ!


 もう互いの拳を振るう隙間もないから、頭突きだとか、髪を掴むとか、引っ掻くとか、噛みつくとか、もう──────アホかこいつ等?!



「「いででででででっでででで!!」」


 ギニューーーーと伸ばされるジェイクの頬に、

 びよーーーーーんと引っ張られるビィトの鼻。


「いってぇな、この野郎!!」

「噛むな、ばーーーか!」


 ゼロ距離でもみ合う、もみ合う……!!

 噛みつき、引っ掻き、デコピン、チョップに───なんでもありだ!!

 

 そのうちにガップリと組みつき、両者動けず───!!


 いや、まだだ!!

 このアホどもはまだまだやる────!!


 ───だってバカだから!!


「ばーかばーか!」

「おまえのほうがアホぅだろうが!!」

「傲慢!」

「卑屈やろう!」

「短気!」

「脳足りんが!!」

「上から目線で物ばっかり言いやがって!」

「当たり前だ! お前が間抜けだからだ!」

「てめぇこそ間抜けだろう! すーぐに借金作りやがって!」

「お前みたいにセコセコ金を使っても、安物買いの銭うしないっつーんだよ!」

「はっ! 服のセンスもないし───なにそれ? お?! かっこいいの?」

「んな?! お、おおおおおおおおお、おまッ!」

「へへーん。リスティも、「ありゃないわ」って言ってたぞ?」

「んなんだと、あのクソアマ!! あとでぶっ殺す!!」

「あ、バカ!! チクるなよ!! リスティに殴られるじゃんよ!」

「いーーーや許さん!! 俺の服のどこがダサい!!」

「全部だ! 全部!! サイズ、色、形、あと……何、なに? 肩のとこ破れてるけど、ププ、なにそれ?───まさか、ファッション?! ねぇねぇ?!」

「ちゃ、ちょ、ちゃ……。ちゃうわ!! ま、ままま、間違って破れたんだよ!!」

「へーーーーーーーーーーー。じゃ、縫ってやるよ。貸せよ?」

「ふざっ!! こ、これは、その、ほら、そのぉ、あれだ!! ファッションだよ!!」

「ファッショーーーーン?? ブッハッッッッ。だっせーーーーーーーー!!」

「ぶっ殺すぞ!! この童貞がッッ!!」

「ど、どどどどどどどどどどどどどどど、ドーテイちゃうし!!」

「童貞」

「ちゃ、ちゃ……ちゃう、し」

「童貞!! おーい、全ダンジョンの皆さーん! ドーーーーーーテイ野郎がここにいますぅぅぅううう!!」

「ちょ、やめ! こ、声大きい!! ドーテイちゃうって!!」

「ほーーーーーーー? じゃ、相手誰よ? あの奴隷のガキか?」

「ちょ!! え、エミリィはそういうんじゃないわ!!」

「ほーーーーーーー? じゃ、誰よ?」

「お、おう…………。その、おう。そ、あ、じぇ、ジェイクの知らない人だよ」

「ほーーーーーーー? 名前は?」

「いや、ほら、し、知らない人だ、よ」

「ほーーーーーーー? 俺の知らない人ねーーーーーー? 娼婦ぅう?」

「ちゃ、ちょ──────あ、おう。そ、そうだったか、な」

「へーーーーーーー!? 初めてが娼婦かぁぁぁああああ!! あっはっは!」

「な!! ちゃ、ちゃうわ! ちゃうって。そう、ち、違う───」

「だから、誰だっつーの? 名前言ってみ、ん?」

「あ、おう…………じゃ、ジャスミン??」

「ぶっは!!! めっちゃ今考えた名前って感じじゃねーーーか! ぎゃはははははは」

「ムッキーーーーーーーーーー!!! お前みたいなヤリチンと一緒にすんじゃねぇぇえ!!」

「童貞野郎が吼えてもなんも怖くないわ!」

「うるせーーーーー! ダンジョン内でも、隙がありゃ、人の妹とイチャコラ、イチャコラしやがって!!」

「あ? リスティはいんだよ。どうせ、お家を再興したら、ありゃウチの家に入るってのが昔から決まってることなんだよ」

「あ? 俺そんなこと聞いてねぇぞ?!」

「お前がそんなに間抜けだから、誰も言わねんだよ!! お前がボケーーーーっとしてる間に、革命が起きてんだよ! お国が共和国だか、なんだかになっちまったこともよくわかってないんだろが、おまえは!」

「んなことチッとは知っとるわ! それと、妹とダンジョンとか宿屋とか、リズとか俺がいる前でナニするのとは話が違うだろ!! ちっとは場所をわきまえろバーーーーーーーカ!!」


「お前がアホだ! リスティみたいな、頭空っぽ女の使い道なんてそんなくらいしかねーーーーだろが!! あ、リスティ?」


「人の妹になんてこというんだ、確かに色気と頭の悪さしか目立ったところはないけど──────……あ、リスティ、さん?」



 ボッコボコと、殴り合いと舌戦を繰り広げて床をゴロゴロ転げまわっていた二人の元に、般若のような面をした、美しーーーーーーーーーーーい、リスティがそこにいた。


「い」


 い?


「───いい加減にせんか、このボケどもがぁぁぁぁぁあああああ!!」


 錫杖メイスを振りかぶって─────……!!


「ちょ──────!」

「ちょぉぉぉおおお!」




 強打スマッシュッッッッッ!!



 

「「ふげらぁぁぁあああああああああ!」」

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