第77話「なんてこった、こりゃひでぇ」

 ───おるぁぁぁぁああああ!!!

 数で押しつぶせると思うなよぉぉおお!!


 ビィトの十八番おはこ!!

 連射からのーーーーーー!!


 ──────「小爆破」ッッッ!!!


「ぶっ飛べやぁ!! 氷混じりの爆発ショーだ!!」


 ドンドンドン、ドオッッ!!

 ドドドドドド、ドンッッッ!


「ぐるあぁぁあ!!」

「ごぁぁぁああ!!」

「ぐぉぉあああ!!」


 小爆破が混じったことにより、氷の足止めが少し弱くなった。

 だが、それは弱体化ではない。


 むしろ、滅びの終局───。

 小爆破など、怖くないわ! と、嵩にかかってオーガが責め立てるも───。


「終わりだ。……下の連中も、腹ペコらしいぞ」


 あばよ。



 ミシ───。


 ズボォォオオオオオン!!



「「「ごるぁぁぁぁあ───?!」」」


 梁と壁に挟まれる形の床板。

 タイルと古い木材で作られたそれは、ついにオーガどもの体重を支えきれずに一気に抜け落ちた。


 余りの勢いと出来事にオーガ達は、驚愕の叫び声をあげつつ、床板とともに暗い湖の中へ───……。




 ドッ───パァァァアアアアアン!!!!




 回廊全部にひしめき合っていたオーガが、全て湖へ……。

 一方で回廊はといえば、天井と壁だけ残して床板が全て消失していた。


 なんて、奇妙な空間。


 長い廊下を支えるためバランスを重視して、梁を一本だけ端から端まで通し、そこに回廊の構造をぶら下げるというもの。


 ゆえに床板は梁と壁によって支えられているだけで、そりゃそんなところにギッシリとオーガさん達が押し寄せたり、爆破魔法を使ったりすれば、当然床が抜けるというもの───……。


 ビィトは腕だけでロープにぶら下がり、プラーンと浮いていた。


 パラパラと乾いた音をたてて、構造物が名残惜しそうに湖に落下している様を何気なく見送って、真下の暗い水面を見る。


「す、すげぇ……」


 プカプカと浮かぶ木片に混じり、大量のオーガが溺れそうになってバシャバシャともがいているが……。


 そこに加わるバシャバシャとした水柱はオーガのもがくそれだけではない───。


 ザバアァアン!!


「ぐるお─────────ぶしゅ」


 巨大な化け物魚───アリゲーターフィッシュが何十と群がり、オーガを貪り食っていく。


 今までは、オーガに一方的に食われていたであろうアリゲーターフィッシュも、今日ばかりはご馳走にありつているというわけだ。



 それにしても、何匹いやがるんだか……。



 暗い地底湖にウジャウジャといるアリゲーターフィッシュを見てゾッとするビィト。

 ダンジョンの恐ろしい現実を見た気がした───。


 決してオーガは食物連鎖の頂点というわけではないらしい。

 ただ、戦う場所が陸か水面か、そのどちらかというだけ……。


 あのオーガ達は早晩全滅するだろう。


 ロクに泳げないオーガどもが次々に水中に引きずり込まれていく。

 何体かは、プカプカと浮く回廊の残骸に登っているが、一匹、一匹とアリゲーターフィッシュに残骸ごとひっくり返され食われていった……。


「お、お兄ちゃん……」

「あ、あぁ……終わったよ───」


 いつまでもぶら下がってはいられないので、ロープを手繰って必死に上るビィト。

 頑丈なロープだと思うが切れたら一巻の終わりだ。


 ギィリギュリと、ロープを軋ませながら梁に上がるとドッと汗が噴き出した。


「だ、大丈夫?」


 ビィトを気遣うエミリィが皮の水筒を差し出してくれたので、礼を言って一気に飲み干す。


 ほとんど汗になってしまうのだろうが、今更ながら無茶なことをしたと震えが来た。


 あれ程騒がしかった回廊が、今は静寂に包まれている。


 まだ水面では、バシャバシャとアリゲーターフィッシュが饗宴を続けているが、すぐに静かになるだろう……。


 その光景が、目に焼き付いて離れないビィト。

 一歩間違えれば、自分がああなっていたかと思うと震えが止まらない。


「大丈夫───大丈夫だよ……お兄ちゃん」


 ソッとビィトの頭を抱き寄せて、軽く撫でるエミリィの優しさに、不意に泣きだしたくなるビィト。


 でも泣かない……男の子だもん。


 それでも、ビィトの震えが止まるまでエミリィはポンポンと、優しく背中をさすり続けてくれた。




 しばらく……。ずっと───……。

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