第25話「なんてこった、殲滅した!」

 ポポポ♪ ポィ♪ ポイン♪

 

 ドロップ品が盛大に沸きだし、墓所を明るい音楽で満たす。


 ダークスケルトンどもから大量のアイテム──! うおぉぉ……、圧巻だなッッ!!


 床には骨に混じり、妙なアイテムがところ狭しと溢れかえる。

 いつもならじっくり吟味するところだが…………。


《ィィィイイ…………!》

 ──っと、それどころじゃない。


 さぁ、残るはダークファントムのみ!

 ここの最後の障害だ。


 勢いは俺にある。戦いの主導権は手放さないぞ!

 このまま一気に畳み掛ける────。


「浮いてりゃ届かないと思ったか!!」 

 フワフワと中空を漂い一塊になって盛大に青く燃え盛るダークファントムども。


 ハッ!──まとまってくれるなら好都合!


 オレの浄化攻撃が近距離でしか効果がないと思っているな……?

 甘いぞ……アンデッドどもめ。

 

 荷物の中から聖水の大瓶を取り出すと、栓を弾き抜く。

 それを片手に、もう片方の手には「水矢」を作り出す。


 いきなりの高圧縮ではなく────まずは、通常の「水矢」サイズの水球を作り出すとそこに聖水の瓶から中身を注ぎ込む。

 どちらも透明ため色の変化はなく、ダークファントムの生み出す明かりに不気味な陰影となって浮かんでいる。


 だが、体積は明らかに膨張。

 「水矢」に聖水の中身が移ったのは間違いないようだ。


「──聖水がもったいないけど、出し惜しみしてる場合じゃなさそうなんでね」


 そうとも、一刻もはやくエミリィを──!!


「溶け落ちろッッ!」


 「水矢」────高圧縮!!!


 ビシュン!


 弩弓のように空気を切り裂いて疾駆する高圧縮された聖水入りの水矢。


 最初は空気を切り裂くように凄まじい速度と威力だったが、あっと言う間に勢いを失い小便のようにヘロヘロ──と。


 それは飛距離故に威力が減衰するようだが……。


「届けば勝ちだ!!」


 ジュバァァァァ!!


 最後の方は本当に小便なみに勢いを失っていた。

 だが、中身の聖水は本来の水矢とあわさり多少薄まったとはいえ──────健在!


 それが容赦なく一塊となったダークファントムに降り注ぐ。


《ィィィエェェェェエエェェェ》

《ロォォォォォオオオオオオオ》


 ボロボロォ……と空中で崩壊していくダークファントムども。

 一瞬だけ水を弾いたように見えたが、それはビィトの魔力由来の水矢の部分だろう。


 だが、弾いたとて聖水が消えてなくなるわけでもない。

 むしろ「水矢」の魔法由来の部分を吸収したおかげで、聖水をもろに被ってしまったようだ。


 断末魔の叫びをあげ、崩れていった…………。


 聖水はその強力な浄化作用でダークファントムを溶かしていき、即死しなかった個体も浮力を失い地面に落下。……まるで、死にかけのせみのように、青白い炎をパチパチて点滅させて身じろぎしている。


 放っておいても無害そうだが、油断はできない。

 とは言え、敵はこれでほぼ全て殲滅できだ。


 空中にいたダークファントムはもれなく消滅するか、地面に転がっているのみ。

 


 ……とどめ!



 ダダダと、足音も荒く近づくと棍棒を槍のようにして突き出す。地面に転がるダークファントムなんてただの虫と同じだ!


 滅びろぉぉ!


 ガスッ! っと骨を突き破る嫌な感触を感じた瞬間、すかさず神聖魔法を発動!


「死ねッ!」


 棍棒の先が眩く輝く────神聖魔法「破邪の灯」!!


 ────カァッッッ!


《ロォォォオオオオオオ……!!》


 あっという間にボロボロと崩れていくダークファントム。

 元々瀕死だったものだから消滅が早い。


 そのまま、残りのダークファントムを仕留めていく。

 やはりゼロ距離からの神聖魔法はアンデットにとって強力に過ぎる。


 数秒と掛からずにとどめを刺し終えた頃には、生き残った残ったダークスケルトンがようやく追いつきてきたところだった。


 ポイン♪ と、ダークファントムから湧き出したドロップ品の音を聞きながらビィトはダークスケルトンに向き直る。


「……残念。もう遅いッ。────仕上げに、あと1分」


《ギギギギギギギギギ……?》


 スッと棍棒を構えたビィトは躊躇なく小爆破を放つ。


 もう対処さえ分かれば怖くはない。

 魔法に耐性があっても物理を挿めばそれは意味をなさない。

 魔術師が魔力と魔法だけでしか戦わないなんて誰が決めた?


 そんなもん……ただの偏見だ!!


「ぶっ飛べぇぇぇえ!!」




 ズドドドドドドドドドオン!!




 多数の瓦礫と散らばる骨が、小爆破の破裂を受けて散弾となりダークスケルトンを襲い、あっという間に殲滅してしまった。


 彼らがビィトと対峙するには条件がある。つまり障害物がない所でないと勝ち目はないらしい……。(逆に言えばビィトも障害物がない所では苦戦するという事でもあるのだが……)


「俺の邪魔をするなッ!」

 ──うおおおお!!

 吐き捨てるようにいうと、辛うじて生きていた一体の頭蓋骨しゃれこうべをガシャンと踏み抜く。

 その後は、一度だけ周辺警戒……。


 敵影無し。

 周囲異状なしオールクリア────。


 いや、敵はいる。

 だが、……いたとしてもここからはずいぶん遠いな……。


 うん、これなら大丈夫だろう。

 やはり探知範囲が狭いのかこちらに気付いていないらしい。


 あとから沸いてきたとおぼしきダークスケルトンは、すっかり静かになった戦場でビィトを見失ってボンヤリと佇んでいる。


 音や光、そして生体反応が激しく暴れない限り奴らには気付きようがないのだろう。

 ……好都合だ。

 全滅させることが目的なのではないのだから無理に相手をする必要はない。


 それに、この階層は比較的広い。迂回していけば問題なさそうだ。

 少数の敵なら、放置しても包囲される心配も少ないだろう。


「エミリィ……今行く!」


 ドロップ品には目もくれず、ビィトは脱兎のごとく駆け出す。

 遠くに見えるダークスケルトンの探知距離に触れないように、闇を拾うようにして進む。


 今はまだ明るいが、そのうちに残光のように燃え残っているダークファントムの光も消えて──ここは完全な闇に落ちる。

 もちろん、ビィトなら魔法によって明かりを生み出すことができるが……。敵の注意を引きかねないので、なるべくそれは避けたいところ。


 なんとか、それまでにあの扉に到達しなければ!


 死者の生み出した青い炎が消えていく中、死者の街にて骨を踏み砕きつつ、なるべく・・・・静かに駆けていく。


 いますぐにでも、魔法による照明を放つことはも可能だが、ダークスケルトンに探知される可能性があがる。

 最大の集団は殲滅したとはいえ、まだまだ母数は奴らの方が上だ。


 無駄な戦いは避けるほうがよい。

 いかな器用貧乏のビィト戦い続けるにも限界がある。

 ビィトもれっきとした人間だ。魔力が尽きる兆候は今のところ全くないが、体力のほうはまた別問題。


 消耗品とて無限にあるわけではない。とくに、今は聖水の消費が半端じゃない。


 元々野営時の結界の補助に活用したり、用途は様々。

 つまり、アンデッド対策委持ち込んだわけではないので、ここで使い切ってしまうわけにもいかない。


 だから、避けられる戦いは避けるべきだ。


「どけッ!」


 それでも、進路上──排除しなければならない敵も多少はいる。


 そんな奴には静かに近づき、棍棒で思いっきり殴り抜くか、超至近距離で神聖魔法をぶっ放してやった。

 物理攻撃はもちろんのこと、至近距離でなら神聖魔法も下級とはいえ十分に威力を発揮している。


 その中でも、とくに棍棒を使った物理攻撃は強力無比だ。


 ビィトは『身体強化』の魔法により全身を強化しており、並みの冒険者よりも遥かに強くなっている。

 ……もっとも、ビィト自身はそれほどの実力が自分にあるとは微塵も信じていないから、現状では彼を客観視して強いと評することができるものはダークスケルトンしかいない。


 そして彼らがビィトを称賛することは当然ながら、ない

 だが、彼らは自身の身をもってビィトの強さを知る。


 さっきの階層では一体にあれ程苦戦していたビィトが、強化した脚力と腕力を生かして襲い掛かるのだ。


 一足飛びで高速移動するビィトをダークスケルトンは捉えきれない。

 いや、そもそも彼らの探知範囲は非常に狭い。


 ビィトが骨を踏み砕いて躍りかかった時にようやく気付いている始末。


 得物を手にしていたとて、それを構えそうとしたその瞬間にはビィトは既に目前にいるのだ。

 そして、まずは強化に次ぐ強化を重ねた脚力を生かした蹴り抜き。


 ──ガシャアア!


 腰骨付近をを蹴り抜かれて崩れ落ちるダークスケルトン。

 その拍子に武器もすっぽ抜けていくが、彼がそれを気にする間などない。

 ──蹴り抜き、ダークスケルトンの上に着地したビィトが棍棒を振り上げて頭蓋骨に振り下ろす姿を最後に、ダークスケルトンは長い永い不死の呪縛から解き放たれていった。


 パカァァァアン! という小気味のいい音がダークスケルトンが最後の聞いた音だ……。


「──ふー! ふー! ふー…………。もう少しだ、エミリィ……待ってて!」


 ほとんど闇に落ちている空間のなか、ビィトは目指していた扉に近づいていた。

 そこにエミリィがいる保証など全くないが、いないという保証もないのだ。


 こういったとき、ダンジョンでは先に進むしかない。

 立ち止まっては魔物に殺されるだけ……無謀と知りつつも前へ前へと進まされる。それがダンジョンというもの。


 そうやって冒険者を──人間を喰らっているのがダンジョンなのだ。

 

 いや、

(──エミリィをそんな風に死なせてなるものか!)


 ガシャ……。


 最後の一歩を歩き抜き、満遍なく敷き詰められていた白骨を踏みしめたビィトはようやく扉の前に立っていた。

 ダークスケルトンどもは多少なりとも背後で蠢いているが、ビィトに気付いている個体は今のところいない。





 そして、ついにダークファントムの火が消える……。

 青い残照が消え失せ──本当の闇が訪れた。



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