第23話「なんてこった、倒せるじゃないか?!」

 ──ダークファントム……。


 この野郎は、物理も多少は効く・・・・・が、パッと見して骨に見える身体なのだが……、あれでじつは霊魂とか──なんだかの姿らしい。


 要するに、よくわからん連中ってことだ。

 分かっているのは物理に強く。ダークの名が冠するように、魔法を吸収する瘴気を纏っている。

 つまり、無敵? ……いや、まさか。


(ち……!)


 魔法も物理も弾くとか……本当かどうかは知らないが、こいつが一番厄介だ────。


 ふと、気配を感じたビィトが左隣に視線を転じると、

「に、二体目?!」


 そこに、不気味に燃え盛るダークファントムがもう一体!


 ダークスケルトンと違い、空中をフヨフヨと漂うことのできるファントムは、地形に左右されない。

 ゆえに、骨が散らばっていようと、ダークスケルトンが押し合い、へし合いしてい居ようともファントムの野郎は好きなタイミングでビィトを攻撃できるのだろう。


 にわかに奴らの炎で周囲が明るくなるが、それは不気味な明かりに他ならない。


 青い炎の中に浮かぶ骸骨の姿が、実に気味が悪く見えた。


「くそッ!──邪魔をするな!」


 振り切ろうと走るも、連中────存外早い!

 それに逃げ回ってばかりでは他のファントムにも同時攻撃されるだろう。

 この階層でのファントムは少ないとは言え、1体、2体では済まない。


 だけど、今は構っていられない。……時間がないんだ!


 ──退けぇぇえ!!

「お前らぁぁぁあ────邪魔だぁ!」


 こんなとこでグズグズしてられない!

 仕掛けが────!!


 チィィ!

「これでも食らえッ!─────うらぁぁっぁ!」


 ビィトは勿体ないと、想いつつも腰の物入れから聖水の小瓶を取り出すと手近にいたダークファントムにぶっ掛ける。


 散布する暇もないので、瓶の中身を全部だ。


 ブシュュゥゥウウウ───!

《ッッッ─────ェェェッェエエエ!!》


 当然効果はてきめん。

 恐らく、初めて食らう浄化の効果。その威力にダークファントムがのた打ち回りボロボロと崩れていく。

 

「うお、……き、効き過ぎだろう!」


 ここのアンデッドはどうも浄化に滅茶苦茶弱いらしい。……というか、痛みに弱いのか?


 上位系のアンデッドとはいえ、コイツらの場合は時間をかけてこじらせた上位種だからだろうか。

 痛みや刺激に無縁の生活を何年も過ごしていたせいか、ちょっとした刺激にも耐えられないらしい。


 これはもしかすると…………、ちゃんと準備を整えて攻略すれば案外あっさり攻略できるかもしれない。

 ……もっとも、今はその準備もないし、攻略する気もない。


 そもそも、ここにボスがいる保証もない。


 『石工の墓場』のゴーレムがいた通路では、こういった封鎖箇所をたくさん見たが、その全てがこの手の墓所の可能性もある。

 この墓所も『石工の墓場』の一部なので、本格的に攻略するなら、通路にあった封鎖箇所も全て調べる必要があるだろう。


 それでも、タダの脇道かもしれないし、ボスがそのどこかにいる保証もない。

 そうすると、探索とボスの捜索だけでどれほど時間を要するか……。


 広大なダンジョンにおいて、こと未踏破の場所というのは簡単に攻略できるものではないのだ。


 あの『嘆きの谷』でさえ、何年もかけて攻略されているという。


 ゆえに、そんな面倒なことをやるつもりもないし意味もない。


 この派生ダンジョンは、効率が悪いので誰も見向きもされないのだ。

 ……それでいいと思う。


 ──こんな不気味な場所は忘れられるべきなんだ。


 ドロドロと溶けていき、半死半生状態のファントム。

 これならいけるか?


 聖水の効果は浄化魔法と比較すれば、中級程度のものに相当する。

 もっとも品質も様々なので一概には言えないが、高位の聖水なら上級の浄化魔法に相当し、ギルドで卸すような普通の聖水なら中級魔法程度。


 だが、ビィトが使っているのは、例の店で買ったバルク品の怪しげな聖水。

 ……とは言え、威力も効果も普通より上だと経験上知っている。

 だから買っているわけだが……。


 多分、中級のなかでも上級寄りの聖水だろう。


 それでも、上級の浄化魔法程の効果はないはずだが……。

 だが、この威力と効果。


「なら、こっちはどうだ!」


 得意ではないものの、神聖魔法も使えるビィト。当然、熟練度は下級とはいえ最大値!────魔力を籠めつつ、瞬間的かつ範囲を限定すれば上級魔法にも匹敵するはず・・────『破邪の灯』!


 下級の神聖魔法の『破邪の灯』────神官ならだれでも扱えるもので、弱い魔物を遠ざけ、下級の・・・アンデッドを浄化する魔法だ。


 それを棍棒の先に集中させ────ダークファントムを貫くッッ!

(──瘴気によって、魔法を吸収できても、……内部からならどうだ!!)


 ハァァぁぁ……!!

「──てりゃぁぁぁぁぁあ!!」


 槍兵のように棍棒を突き出しダークファントムを貫くッ。


 バリッ……と肋骨を突き破り、青い炎の中に突っ込まれるダークスケルトンの棍棒。


 その先端から──発射!!



 ッッカァァ!!



 白く輝く閃光が、まるで高圧縮した『水矢』の如く発射されたかと思うと──ダークファントムを内側から切り裂いた。


《────ィエェエェェェエェエエ!!》


 ボロォォォ……。

 そのまま、白く輝き朽ちていくダークファントム。


(やはり効いた……!)


 ダークスケルトンもダークファントムも魔力を吸収する瘴気を纏っているが、……それは表面だけなのだ。

 あくまで仮定ではあったが、内側から魔法が効くのではと思い発動してみれば……なるほど!──確かに効くじゃないか。


 聖水の手持ちがもうほとんどないから、ある意味で賭けではあったが、これなら接近戦で倒せる!


 ビィトの使う魔法は、下級とはいえ高度に魔力を籠めた『破邪の灯』。

 それはダークファントムを溶かしていき、完全に浄化してしまった。


 その威力たるや、聖水をぶっかけるよりも強力だ。


 しかし、それが瘴気の表面から効くかまでは分からない。

 試してみてもいいのだが、如何いかんせん敵が多く疾走中に使うものでもない。ビィトは今も駆け続けているのだ!


 そして、当然ながら無茶な実験ができる状況でもない。

 さっきの接近戦もやむを得ず、だ。


 聖水が無限に使えればあんな無茶はしない。


「──よし、邪魔がいなくなれば……!」


 ダークファントムどもといえども、近接なら倒せることがわかり、ビィトは最後の仕上げに行く。


 そうとも、最初にぶん投げた、頂きもののスクロール・・・・・・・・・・を一本丸々無駄にするのだ。


 ──その威力とくと味わえ!


 カウントダウン……。


 58…59…────60秒……!


「ッぶね!! ま、間に合うか?!」

 ここは、駆け抜けるッッッ!!


 最後のひとっ走りと言わんばかりに駆け抜けるビィト。

 ダークスケルトンは奥からも続々とやってきているが、ビィトがわざと大声を出して集めたため、探知していなかった連中も動き出した仲間につられて前に出ていたのだ。


 なまじ知恵があるだけに、これだ。


 完全に心のない人形であれば、仲間につられることも無かったろうに……。


 ビィトが通りを駆け抜けたのは、この死者の街──その中間地点。


 この死の街のシンボル。水の出ない噴水があるそこを飛び越えた頃には、奥にいたダークスケルトンどもも間近に来ていた。


「南無三ッッ!」


 ギリギリで駆け抜けるビィト。

 狙い通りに、この通りにいるスケルトンどもの大半がビィトが顔を見せた入り口付近か、奥から増援に連中も中央付近にまで来ている────。


 そうとも、ビィトの罠に嵌ったのだ!


 すぅぅぅ……、

「──とっておきの花火だ!!」


 チカッッ! と輝くのは、天井付近にぶん投げたスクロール。

 それは魔法で言うならば上級魔法の『大爆破』!


 今、ビィトの仕掛けた例のスクロールが起爆したのだ。





 ッ……──ズドォォォォォオオオオン!!

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