第6話「なんて言うか、ギルドマスターに面会しよう」
テリスからの挑戦的な物言いにもビィトは不思議と苛立ちを覚えなかった。
それよりも──。
「ギルドの特殊依頼────聞かせてくれ!」
ドン! と窓口に身を乗り出す様にしてテリスを真正面から見据える。
それを仰け反って体ごと逃げるテリスだったが、
「ちょ──、窓口に入るんじゃないわよッ!」
すぐ気を取り直してビィトを押し戻す。
「いい!? ──アンタは仮免許。そして、ここは曲がりなりにも大手のギルドなのよ!? アンタみたいな中途半端な奴がいること自体そもそも間違って──」
「そんなことはどうでもいい! 早く聞かせろよ」
グチグチとビィトに対する不満を述べ始めたテリスを遮り、ビィトは食って掛かる。
この女の態度が悪いのは理解できたが、今はそんな愚痴を聞いているのも苦痛だった。
「あなたねぇ! 仮免許が──」
「テリス。やめろ」
まだまだ言い足りないと言った様子のテリスが、背後からかけられた声にビクリと背を伸ばす。
「ま、マスター!?」
そこにいたのは、ゴッツイ体の禿親父。
禿は禿でも、ツルッパゲ。
ベンの禿とはまた一味違う。
禿は禿でも……カッコいい禿だ!
ベン?
あれはダメ禿だ。っていうか、禿デブだ。
ッと、ベンはどうでもいい。
今重要なのは、この人――。
このギルドのマスターで、パッと見だと僧兵にしか見えないが……。
「ビィトだな? 噂は聞いている。ま、色々とな」
ジロリと視線を向けられると、まるでダンジョン奥地で強敵に遭遇したような感触を覚えた。
その視線をうけて、じっとりと汗がにじむ。
「噂……ですか?」
「あぁ、まぁ今それはどうでもいい事だったな────で、依頼に興味があるんだな?」
「も、もちろん────その依頼は、」
ここで聞き出そうとするビィトをみて、顎でしゃくって奥へ来いと言ったジェスチャーのギルドマスター。
それを見て思わず口を紡ぐ。
「受ける前提でなら、話してやる────そのちっこい嬢ちゃんも一緒だな?」
「そ、そうだ。彼女は俺の仲間です!」
ここでようやく口の端を笑みの形に歪めると、
「いいだろう。来なッ」
それだけ言うとさっさと先に立って歩き出していってしまった。
その姿を見て、慌てて後に追従するビィト。
「エミリィ! 行こう」
「う、うん」
カウンターの仕切りを一つ跳ね上げると、そこから中へと通される。
初めてギルドのカウンターの中に入った気がするが、意外と見たこともないものがいっぱいあってビックリ。
チラッと視線を寄越した先。
ギルド受付の――カウンターの下がありありと見えて、中々新鮮だった。
そんな不躾なビィトの視線を遮る様に立ちふさがったのは、やはりテリスだった。
「関係者以外、ジロジロ見ないでください。目隠しされたいんですか?」
メラァ……と黒い炎を灯した状態で睨み付けられるとビィトとしてはすごすごと引き下がるしかなかった。
っていうか、なんで本当にこんなに嫌われてるんだろう。──わからん。
……もっとも、今更隠しても遅い。
ギルドマスターの部屋へ向かう途中ではあるが、ギルドカウンターの下が見えてしまったのだ。
見ちゃってから……ビックリ。
正面から見ていただけではただのカウンターだったが……。
反対のギルド側から見ば実に様々な道具やら仕掛けがあった。
売り物らしきポーション類や換金用の札や、小額の金貨や銀貨はまだわかる。そう、何となくわかるが……。
何だよあの凶悪なデカさのボウガンとかウォーハンマーは!?
おいおいおい……あれは、殲滅魔法のスクロールじゃない!? ちょ、ちょっと~ギルドの裏側って超怖いんですけど。
なんなのよ? 暗殺者ギルド? えー引くわー。
まぁ……粗暴な冒険者対策なんだろうけど……。あんなおっそろしいもの見た後はなんか今までみたいに窓口に立てる気がしない……。
「なにしてる? 入るならさっさとはいれ」
ヒョコっと奥の部屋から顔を出したマスターに促されて慌ててビィトとエミリィは奥の部屋へ消えていく。
ざわざわとさざめく冒険者ギルド。
「お、おい……あれ器用貧乏だよな?」
「あぁ……ギルドマスターに直に呼ばれてたぜ……」
「ざ、雑魚なんだろ?」「そう聞くけど……違うのか?」
「わからねー……なんかやらかしたとか?」
「いやー……あれじゃね? 『
「かもな~……ジェイクとかはともかく、リズたん……」
ギルドマスターに呼ばれて奥に消えていくビィト。
その姿を多数の冒険者が意外そうな目で見ていたが、すぐに彼らは日々の冒険の依頼奪取に追われてビィト達のことを意識の外へと追いやってしまった。
彼らは彼らで大変なのだ。
華々しい話とは裏腹に、危険の割に見入りの少ない冒険者稼業。
日々働かねばすぐに干上がるのがこのヤクザな商売の辛い所。
今日も今日とて、彼らは実入りのいい
一方でテリスはと言えば、ガルルルルル……と、ビィトを最後まで威嚇したまま、ギルドマスターの部屋に消えていった彼を見送ったあと、「ふん!」と鼻息荒く一息ついた後肩をいからせて窓口業務に戻る。
しかし、傍目にも機嫌の悪そうな彼女の前にワザワザ立とうとするのはよほどの気紛れものくらいな者……──というかいなかった。
ほんと何なのこの人。
「……ホント、あのロリコンめー……。鬼畜貧乏ロリコンめー……私のエミリィさんに何かあったらタダじゃおかないんだから!」
いや、ほんま何なのアンタ?
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