第69話「なんか殲滅しました3」


 ──スライムの煮物……完成だッ!



 池の底は黄金には一面の絨毯のように広がっていたはずのゴールデンスライムの主個体だが、

 それが所々で切れた千切れた塊が海に浮かぶ島の様に、小山をつくって沈殿していた。


(仕留めた──よな?)


 もはやピクリとも動かない。


 やはり、間接的に攻撃すれば倒せる。

 そう、魔法攻撃も有効なのだ!


 だが、時間をかけすぎている……。急がないと!

 エミリィを助けられない、だから────。

 早くッ!



 ッッ!



 ──もぉう一匹はどこだぁ!!!




 恐ろしく狂暴な気分で、ビィトは洞窟内を走査。

 エミリィを救いたい一心で鬼のような形相で残りのスライムを探す。


 主個体は躊躇なく池に飛び込みビィトを追っていたが、分離個体はまごついていた・・・・・・・のを確認していた。

 だから、池の外にいた可能性が────。


 どこだ……


 どこだ!


 どこ……、


 ッ!



 く、



 上かぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ!



 視界の隅に金色のゲルが映り込む。

 それは天井に広がっており、まさに強襲せんとする体勢だ。


 見えた瞬間にはもう遅い──。


 なるほど、ずいぶん狡猾な個体らしい。

 だけどなぁ……二度も同じ手をくうか!!


 最初にベンを襲ったときのように、隙を付いて天井に移動。

 油断を誘って──パクリ。それが奴の行動パターンらしい。


 ……甘いなッ!


 さっと身をかわしたビィトの目の前にボチョンと落ちるゴールデンスライム。

 形状が一瞬ペチャンコになるが、ウゾウゾ動いてまたスライムらしい形をとる。


「お前の母ちゃんは仕留めたぞ……」


 ビィトは少し距離をとると、洞窟内の転がるいくつかの岩を持ち上げる。

 ゴトンゴトン……と、それを目の前に積んでいきゴールデンスライムとの間に壁を作ってやった。


 その間にも、スライムの野郎はヌルルーと迫りつつある。


 この個体は比較的小さいがそれでも人を一人飲み込めるだけの大きさはある。

 ビィトが築いている壁など物ともせず乗り越えてくるだろう。


 その実、奴はウゾゾゾゾゾと蠢き、壁を乗りこえんとするが──ビィトの目的はバリケードではない。


「魔法耐性があっても、間接的に攻撃すれば効果あると分かったら──」

 もう、負けないッ。


 両の手を構えると──……積み上げた岩に向かって、小爆破!!


 ボォン!!


 狙いは積み上げた──岩ッ!

 間接…………石礫の散弾だッ!!


 当然ビィトにも破片は飛び散るが、顔さえ守れば致命傷には至らない。

 そも指向性は正面に向いている。


 そして、破裂した岩は様々な破片に別れてゴールデンスライムをズタズタに引き裂く。

 これならどこに核があるが知らないけど、数打ちゃ当たるだろう!!


 小爆破、小爆破、──小爆破ッッ!!!!!


 ドォン、ボォン、ボォン!!


 破裂に次ぐ破裂、

 石の塊は対面にいたゴールデンスライムをこれでもかと言うくらいに潰す。


 奴の外膜は人間が飛び込んで入れるほどの柔らかさだ。

 内膜は強固なのかもしれないが、爆破による破片効果は防げまい!


 まだまだぁぁぁあ!!


 小爆破、小爆破、小爆破……小爆破──小爆破ッ

 ドォン、ボォン、ボォン……!!!──!!!!


 ……ォォォオオオン────。


 ひとしきり破壊し終えると、ゴールデンスライムはそこらに飛び散りグッチャグチャーの……デロ~~~ンと地面に広がっていた。

 近づいてみても、一切動かない。


「…………エミリィの分だッ」


 そのうちの一際大きな塊を見ると、ダンッ! と思いっきり踏みつける。


 グリグリ……ブチュ。


 って、エミリィ────!?

 くそ、意趣返ししてる場合じゃない!!



「エミリィぃぃぃぃぃぃ!!」



 大声で叫び洞窟を飛び────、



「うるっせぇ!」


 ドンとベンのデブッ腹にぶち当たる。


「ブっ! ……べ、ベン! エミリィは!?」

「ほらッ」


 ネットリとしたスライムの体液にまみれたままのエミリィがビィトに押し付けられる。


「え、エミリィ!」

「お、にぃちゃ…………」


 い、生きてる!


「スライムの体液を飲んでたからな。吐き出させといたぜ……おめえの奴隷だろ。これは、貸しってとこだな」


 アンだと……この野郎ぉ! 元はと言えば────。


「あ、ありがとう──べ、ンさん」


 エミリィはうっすらと目を開けてベンに礼を言う。

 ぐむ……。


「あ、ありがとうよ。ベン」

「へ……」



 っていうか、エミリィさんや。アナタなんかベチャベチャですやん!?


 しかも溶解液のせいで、服……半裸というか、ほぼ? え、ベンさんや、不埒なことしてないよね?


 確か、もうちょい服多かった気がしたけど────。

 い、いや。考えるまい!


 それにしても、エミリィさん。

 辛うじてヤバい所が隠れているだけの、……すんごい恰好。


 しかも、ベチャベチャ…………というか、

 なんか、怪しいお店のような……ヌル(ゲフンゲフンっ!)


「お、お兄ちゃん──その、」

 モジモジするエミリィ。

 ベンに押し付けられたまま、凄い恰好の女の子をお姫様抱っこしてるんだけど、……うおぅ!?


 エミリィちゃんも顔真っ赤にして自分の格好を気にしている。


「おい! さっさとしろ! ゴールデンスライム倒したんなら素材回収するぞ!」


 ベンはそんな二人など気にした風もなくマイペース。


 ビィトは慌てて洞窟に放置した荷物から、タオルなんかをだしてエミリィを巻いたり隠したりする。


 エミリィはエミリィでモジモジしているし……。

 なんかベチャベチャだし────なんか、やばッ!





 ヤバいですよぉぉおおお!!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る