第67話「なんか泳ぎました」
──し、心臓がッ!
「おい! 器用貧乏それどころじゃねぇぞ!!」
ベンっっ! テメェ言っていいことと悪いことがあるだろう!
云うに事欠いて、それどころじゃないだと!
怒りに任せてベンを殴り飛ばしそうになるが、
くっ!
なるほど……ゴールデンスライムは無傷。
しかも、獲物を吐き出したため、再び捕食動作に移行しつつ────、
「くそ、後ろからも戻ってきたがった!」
さっきベンが
絶体絶命。
雑魚で……驚異にもならないと言われてきたゴールデンスライムだが、実際にはこの強さ。
以前ここを踏破した連中はどうやって倒したんだ?
いや、そも──────倒していないのかッ!?
嘆きの谷のエリアボスはグレーターゴブリンのキングだった。ただのグレーターゴブリンですら強敵だというのに、その上位個体のキング。
多分、ダンジョンの外にいる普通のゴブリンキングなんかとは比べ物にならない強さ。
……たまたま倒せたから良かったものの、本来もっと苦戦していてもおかしくはなかった。
だが、倒せた────ゆえにこのダンジョンはクリア。
奥にあると思われる魔法陣を起動させれば入り口に戻れるはず。
……だから、本来なら無理してこいつらゴールデンスライムを倒す必要なんてないのだろう。
きっと以前にここを踏破したパーティもゴールデンスライムは無視していったんじゃないのか?
でなければおかしいだろ?
まともな情報がないなんてことあるかよ──!
クソぉ、ギルドめ……いい加減な情報をッ!
おそらく、ここにいるゴールデンスライムは進化種。
先のグレーターゴブリン同様、ダンジョンの環境にあわせて進化した特殊個体だ。
なるほど……金も食べるが、動物も好んで襲うわけか……。
オマケに魔法耐性はべらぼうに高い。
無茶苦茶だ。
スライムを倒すのは魔法で倒すのがセオリー。
だが、その魔法が効かない……。どーしろってんだよっ!
「器用貧乏ッ、ガキは後回しだ! まずはこいつを倒せ!!」
簡単に言うな!!
「考えろボケ!!」
うるッさい!!
……くそ! ベンのいうとおり、エミリィを救命している時間も暇もない……か!
撤退したいところだがこいつらは存外足が速い。どの道、追いつかれる……クソ。
「ベン! 俺が何とかする──だから、エミリィを連れて退避してくれッ!」
「偉そうに指示するなっ──と! くそぉぉ! スライムは雑魚じゃねぇのかよッ、話と違うぞ!」
主個体と分離個体がジリジリと迫る。
ぐったりとしたエミリィは、いい獲物だろう。
「おい、コッチだ!」
効かないと知りつつも、左右の手から石礫を乱射し注意をビィトに向けさせる。
その甲斐あってか、分離個体も主個体もズルルルルと、ビィト目掛けて進みだす。
「……! ベン、今だッ」
「ち! すぐに仕留めろよ」
ヒョイっと半裸のエミリィを担いで洞窟の外へ行くベン。
うまく、ゴールデンスライムの脇をすり抜けていくベンを見てほっと一安心だが、エミリィの様態を考えると一刻も猶予はない。
ベンが介抱してくれるといいのだが…………。
え? このパターンだと、
ベンが人工呼吸に、心臓マッサージをエミリィに…………むむむ。
……それはそれで、ぐむむ。
って、それどころじゃない!
「どうだ、軟体動物。邪魔者はいなくなったぞ!」
知能があるかどうか知らないが、そも軟体動物じゃないけども──ビィトは決意し、一気にケリをつけるつもりで決戦に挑む。
多少なりとも交戦したおかげで戦い方は見えてきた。
「ちっさいのはともかく──……デカいのはやっかいだな!」
主個体は獲物を丸々飲み込んで尚余裕のある大きさ。
毒性も溶解性も弱いとは言え、魔法が効かないのが厄介極まりない。
まさに魔術師の天敵だ。
小さなスライムなら、上手く切るなり、叩き潰すなりすれば倒し切ることができる。
学者曰く、スライムには「核」という心臓に相当するものがあるらしいが……。
スライムとて、みすみす弱点を曝すことはしない。それが弱点であると知っているので、核そのものは体色と同系統になっているため、……一目では分からない。
だからこそ、魔法で焼いたり凍らせたりするわけだ。
倒す手段は、核を剣で切り裂く事だけとも思えるが────。
「魔法耐性は高いみたいだけど。──基本的な物理防護力は並みのスライムと変わらないみたいだな!」
それなら!
こい!
ビィトは池に向かって走り出す。
池は真っ黒な土に覆われて、黄金に煌いていたころに比べれば暗く沈み不気味だったが──……特に危険な生物は潜んでいなかった。
なんせ、一番危険なゴールデンスライムが潜んでいたのがこの池だ。
有毒だという池。
水は飲めないし、体に着けばどうなるか……。
だが、躊躇していられない。
「らぁっぁぁぁぁあ!!」
走り切った勢いでビィトは池に飛び込む。
ダッパァァァァァァン!
「ぶへぇあ!」
口に入った水を吐き出しつつ、抜き手を切って対岸を目指す。
念のため、解毒魔法をかけまくる。
服を着たままなので、泳ぐのが大変だ。
身体強化を足と腕──そして肺にかける。『ビィト流ピンポイント身体強化の──無理やり泳ぎも強化法』だ。
──うん……今考えたッ。
強化したとはいえノロノロとした泳ぎのビィト。それを追ってゴールデンスライムの主個体は池の縁からニュルルルル~と体を滑り込ませている。
黒かった水底が、ゴールデンスライムの体表が滑り込むことでその箇所がキラキラと輝き奴の動きが良く見える。
一種幻想的なのだが────……はえぇぇぇぇぇ!
水底があっという間に金色に染まる。その染色は全体というよりもやや細長く明らかにビィトを指向している。
それだけでも、完全に捕捉されていることが分かった。
「(くそ! もう少しッ)」
対岸まであとわずか。
ゴールデンスライムは水に浮くことはできないのか、水底をニョロニョロと追跡してくる。
こ、怖えぇぇぇぇ!!
って、対岸!!
池の形状は壺型になっており、徐々に水深が浅くなるというより──いきなり、ドボン! の形だ。
この状態で這いあがるのは一苦労────しかも池のふちが、苔だが水垢だかでヌルヌルだ!
くそ!
早く上がらないと!!
なにか、何かいい方法は!?
魔法……。
魔法……!
…………。
……。
く、
南無さん!
無茶苦茶だけど、これしかない!
────ドボンッと、水の中に手を突っ込むと、真下の水底目掛けてぇぇぇぇぇ……。
小爆破!!
ドボォォォン!
ブワァァと一瞬水が黒く濁ったと同時に、物凄い衝撃が下から突き上げて来て大量の気泡が足に突き刺さる。
思った以上に激しい衝撃に足が引きちぎれそうになる!
それを回復魔法で無理やり回復させながら、爆破の衝撃のままに水面から飛び出すと──……ゴールデンスライムはほとんど目と鼻の先。
あの巨大な主個体が完全に水面に体を没して、ウニョニョニョ~~~ンと広がりつつビィトを追っていた。
そしてまさに水面を割って襲い掛からんとしていたが──……。
「魔法耐性は凄いみたいだな……。だけど、それはお前の体表に直接当たった場合だろ?」
なら────。
「こういうのはどうだッ!!」
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