第46話「なんか通じ合いました」

「──鬼の巣ぅ?」

 地図を覗きこむベンが緊張感のない声でいう。


「あぁ、厄介そうな所だよ」

「いちいち大げさなんだよ、おめーはよー」

 地図を睨み付けているビィトに反し、最後の区画のためが緩んでいるのはベンひとり。

「俺はA級だぜ? んで、ここの推奨難易度はBだ。わかるか、器用貧乏?」


 馬鹿言え……。

 お前の腕前はいいとこC級だよ。


 もちろん、思ったことを口にするほどビィトも馬鹿ではない。


「見ろよ……」

 トントンと地図の一点をさす。

 そこには、出現モンスターのイラストがある。


「なんでぇ、またゴブリンかよ」


 らくしょー、らくしょー──とかふざけたことを抜かしていやがるが……。楽勝なわけないだろうっ!

 『嘆きの谷』入り口付近でさえ、オーガクラスのクリムゾンゴブリンがいたというのに……。

 最深部までくれば、それより弱くなるわけがない。


 ちなみに、ベンではクリムゾンゴブリンにすら勝てないだろう。


「ベン……ここから先は一筋縄ではいかないぞ」


 もはやベンが意固地になろうと知るか。

 ベンはともかく、エミリィを危険な目には合わせられない。


「てめぇ……まだ、口の利き方が分からないようだな」

「本当のことだ。ちゃんと護衛はするけど、慎重に行動してくれ──そう言っているんだ、ほらっ」


 クィと顎でしゃくると、ギギギギギギギ……と骨を軋ませながらスケルトンローマーが数体現れた。


「うお!」


 そうだ、まだここは途中地点。

 次に向かう鬼の巣の最後の境界でしかない。


 このスケルトンローマーも、クリムゾンゴブリンか、鬼の巣に住むゴブリンに食われて捨てられた者たちの末路なのだ。


「次、鬼の巣で死んだら──ああなるんだ」

 石礫! 石礫!


 パカッ、パカァァァン! と、慣れた様子で発射したそれは、立て続けにスケルトンローマーを打ち砕く。

 もはや、対処法さえ確立すれば恐れる相手ではない。


 あっという間に殲滅すると、下顎だけ回収しベンに後に続けと言う。


「わかったよ! だが、ここから先はテメェが先導しろ、いいな! ……ガキは俺の背後を護れ」


 おいおい……。


「無茶言うなよ。俺じゃ罠を見つけられないぞ?」

 無茶苦茶支離滅裂なことを言い出すベン。

 これでよく、今まで冒険者をやってこれたものだ。


 ビィトも、まったく罠の探知ができないわけではないが、エミリィに比べれば児戯じぎに等しい。


「ち……じゃー、混戦時は縦列。俺が中央だ。……それ以外はガキ、テメェ、俺の順だ──いいな?」

「わかった」


 エミリィに視線を合わせると彼女はコクリと頷き先頭に立つ。


 まだ年端もいかないと言うのに、エミリィは肝が据わっているな。


「この先もゴブリンの集落があるみたいだから……気を付けてね」

 エミリィを気遣うと、ニコッと笑ったエミリィが、


「うん、ありがとうお兄ちゃん! ……任せて」

 そう言って、拳をビィトに向けてきた。


 ……ん?


 エミリィの期待するような瞳に疑問符しか返せない。

 拳? どういう意味?


「ほら、拳を合わせてお兄ちゃん! ……昔お父さんたちがやってたの」


 あー……信頼の証みたいな?

 そう納得したビィトは、エミリィの拳に自分のそれをあてると、


 こつん、グ!


 拳を合わせて、拳骨を感じつつ互いに拳を──グリっと傾けた。……なんかいいなコレ。


「えへへへ」

「あははは」


 二人笑い合うと、ベンが背後で冷ややかな視線を浴びせている。


「いいから、はよ行け」


 くだらねー、とばかりに全身で拒絶反応を示すベンを見ても、もはや腹立たしい気持ちすら起こらない。

 ……安心しろベン。お前とは絶対にやらないから。


 クスクスとエミリィと笑いあう。


 そうして、心を通わせたエミリィとビィトの冒険が続いていく。プラス……ベンを護りながら。


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