第42話「なんか甘いの食べました」
お、お楽しみの時間です!
とは言っても、その──なんだ。
……別に変なことをするわけじゃないぞ。
こっそりと、リュックのポケットを確認する。
そこには、柔らかい塊があるのがわかった。ビィトはその弾力を確かめて、顔をほころばせる。
蟻の巣で入手した甘味類だ。
先日潜った蟻の巣。そこで手に入れた食料はきちんと持ち込んでおいた。
日が経ち、妙に柔らかい部分もあったりして、多少ないし警戒してしまうが───まだ、ギリギリ食べられるはず。
それをエミリィと分け合って食べることを想像して、ビィトは自然と頬が緩む。
「何ニヤニヤしてやがんだよ」
気持ち悪い奴だぜ、とベンに…………。
(お前に言われたくないよ!)
なんでだか、こういう時だけバッチリとベンに見られてしまう。
どうにもビィトはタイミングが悪い星の下に生まれたようだ……。ちくしょう。
「なんでもないよ!」
「ふん。おらっ、荷物は分けといた。あとで詰め直しとけ、そこにあるのは全部持って帰るからな」
ベンが顎で示した先には、山となった装備品が。
元のリュックより量がある。
おいおい、簡単にいうなよ──。
金貨や宝石類は当然のこと、兜や盾まで持っていくのか……。
正直欲張り過ぎだと思うが、それを言ったところでベンが聞くはずもなし……。
やれやれ──、
ため息ひとつ、ビィトは口を閉ざした。
言ってもなんにもならないからだ。
仕方ない。
──ある程度は身に着けるしかないだろう。ヤレヤレだ……。
「じゃー俺は寝るからな、お前らで適当に交代して休め。いいな? 半日後に出発だ」
「あぁ、わかった。……任せろ」
そう言うが早いか、ベンは酒の小瓶を取り出すと、干し肉とチーズでチビリチビリとやり始めた。
炙った干し肉のよい臭いが漂い始めた。
まったく。
…………いい気なもんだよ。
※ ※
グオー……。
ガー……!
しばらく後に、予想どおり高イビキをかきはじめたベン。
着の身着のまま、焚き火の当たる位置で体を横にしている。
酒を飲みはじめてからいくらも経っていない。
あれでいて結構疲れが溜まっていたのだろう。体格から見ても、長期の行動には向いていない。
「グォオー、ガー」
やかましいイビキもさることながら、
「エミリィは先に休みな、俺はちょっと眠るだけで、十分だから」
「え? でも……」
さっそく遠慮するエミリィに、
「いいから──ほら、これを食べよ?」
悪戯っ子のような笑みで、茶目っ気たっぷりに取り出したのは、蟻の巣で入手した甘味だ。
果実は、ブヨブヨしていたが、微かにアルコールの匂いがするだけで、残りは甘い香りだ。
「ふわぁ……いい匂い」
ゴクリと、エミリィの喉が動くのが見えた。
なんか、餌付けしている気分になる。
「はい、これ」
数はないものの、甘いトロトロの果実を差し出すと、満点の笑みで受けとるエミリィ。
「ありがとう、お兄ちゃん!」
お、おう──……笑顔が眩しすぎるぅ!
ぱぁ、と顔を輝かせるエミリィ。
甘い果実の匂いに、エミリィからは石鹸の匂いが漏れていて甘さ倍増だ。
それだけで、お腹が一杯になりそうでクラクラとした。
にしても、果実でここまで喜べるとは……。
この子が不憫過ぎる。
今は同じ境遇とは言え、一体どれ程奴隷として過ごしてきたのか……。
少しばかり興味を覚えてビィトは問いかけることにした。
ベンは爆睡中。
そう簡単に起きるとは思えない。
果実に幸せそうな顔でかぶり付いているエミリィに問う、
「なぁ、エミリィ──」
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