第33話「なんか別行動になりました」

「ベン! 手を放せ!」


 エミリィをに掴みかかり締め上げようとしていたベンを止めるが、その腕を乱暴に振り払われる。

「てめぇも、何ちんたら・・・・してやがる! 俺を殺す気か!!」


 今度はビィトだ。俺の顔面に唾を撒き散らしながら物凄い剣幕で迫る。

 「殺す気か!」と言われても、奴隷契約でそんなことはできないと分かっている癖に……。


 それに、いくらムカつく奴であっても、

 流石さすがに目の前で襲われているのを見捨てるほど人間を捨てているつもりはない。

 ベンが襲われていれば、奴隷契約がなくとも救っただろう。

 だが、それにしても理不尽にもほどがある。


「ベン。ダンジョンのモンスターを甘く見るな! Aランクだろう?」


 ビィトからすれば信じられなくくらいの無知さと、無謀さだ。

 これでもベンは一応はAランク。「地獄の釜」ならそれなりの所まで到達できる練度だ。


 間違っても踏破済みのダンジョンで手こずるようなレベルではない。


「うるせぇ! お前らが役に立たないからだろうが!」


 理不尽。ほんとうに理不尽。

 奴隷は所有物ゆえ、何を言われても黙っているしかないのだが、ベンのそれはただの八つ当たりだ。


 どうやら噂通り、奴隷を使い潰しての冒険者ランクらしい。

 以前は優秀な奴隷がいたか……あるいは、ベンの補佐をできる秘書的な奴隷がいたのだろう。


 ビィトにその役割は無理だが、ベンはお構いなしだ。

 今まで同じように踏破できると考えている。


「聞けよ! エミリィも俺も、精一杯やっているだろう!?」

 ベンの奴隷契約に口答え・・・が入っていないのが幸いだ。今後はどうか知らないが、今のところは反論もできる。


「だまれ! うだうだ・・・・言ってる暇があったらビバーク地点を探せ!」


 だが、ベンにはまともに繰り言に付き合う気はないとばかりに突き放される。


 くそ……遊びじゃないんだぞ!

 

 しっかりと、行動方針を定めておかないと全滅してもおかしくはない。

 

 現在のベンのパーティは連携もクソもない、まさに即席のそれだ。

 ビィトの経験とエミリィの索敵能力があるからこそ、いまだ大事には至っていないが、

 現状のベンは足を引っ張るような真似しかしていない。


 まぁ、それが奴隷使いスレイブマスターと言うものなのかもしれないが、あまりにもお粗末すぎる。


 少なくともAランクの実力では、絶対にない。


「わかった……探してくるから、大人しくしててくれよ!」

「──おい……なんだその口の利き方は」


 グィっと胸倉をつかまれる。


「ここにきてから、少しナァナァ・・・・にしてきたが、一度てめえの体に覚えさすか、あぁん!?」

「…………好きにしろ」


 ビィトは投槍に答える。

 どうやってもベンを納得させる術が思いつかなかったのだ。

 少なくともビィトには、ベンに表立おもてだって反抗する気はなかった──……今のところは。


 ただ、余計な行動──とくに危険行為が目に余るから大人しくしててくれと言うだけだ。


 それに、欲の皮を突っ張り過ぎているのもマズイ。


 こんな奥地まで来てしまったら一人で引き返すのは到底無理だというのに、ここで仲互なかたがいをするようなベンの行動にも呆れを感じる。


「チッ! ……俺を舐めるなよ」 

 ドンと突き放つと、

「もういい! とっとといけ!」

 ビバーク地点を探してこいという。


「あぁ、──エミリィ……留守番を頼むよ」

「は、はい」 


 エミリィをベンと一緒に残すのは、実に不安だったが……ベンを一人にもできない。


 現状、この方法しかないだろう。


 ベンを連れてビバーク地点を探すのは自殺行為だ。

 ここのアンデッドは一筋縄ではいかない連中ばかり。それは先のスケルトンローマーで実感した。





 やれやれ……頼むから大人しくしててくれよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る