第19話「なんか買い食いしました」


「えへへ」


 ギルドを出るときに、ついでにモンスターからはぎ取った素材もすべて売り払った。

 当然お金は預金したが、小銭だけは少し確保しておいた。


 目的は買い食いだ。


 ベンの奴は、まだビィト達が帰ってこないと高をくくっているのか、ギルドの入り口付近にはいなかった。

 それなら、と───

 せっかくなので、買い食いしつつ戻ることにした。

 奴隷が、自らの足で奴隷の宿に戻るのは実に腹立たしいのだが…呪印で縛られている以上、仕方のないことだ。

 だが、その帰り道まで制限される覚えはない。


 露店街に差し掛かると、途端に良い匂いが鼻をつく。

 戦闘後の空きっ腹には実に暴力的なそれ。

 焼き物の水分が蒸発する音は、まさに甘美な響き。

 見た目もまぁ……色とりどり。


 空腹者を、殺す気に掛かっているのは疑いようがない。


 フラフラと手近にあった露店に立ち寄ると、

「串焼き4本頂戴。あと、エールを…」

「あいよー!」

 銅貨を数枚渡し、串焼きと飲み物を購入する。


 ソロ冒険者や、料理を作らない男所帯の多い冒険者が作った街なだけはあり、こういった料理をしない男たち(女もいるが…)用の露店には事欠ことかかない。


 威勢のいいアンちゃんが経営している露店に顔を出すと、大きな肉の付いたソレを購入した。


 アツアツのそれは───

 鳥型モンスターの肉を、竹串に刺して焼いたもの。

 それと、竹筒を割ったコップに注がれたエールをなみなみと注いでもらう。


「はい」

「ありがとう!」


 ぱぁ、と眩しい笑みを浮かべるエミリィをほほえましく思いながらも、ビィトは早速一口……と口にする。


 ジュワァァと肉汁が溢れて口内を満たす…


 旨い───


 あぶれの甘さと、ジューシィな肉の旨味がはじける。


「これは!」「おいひぃぃ!」


 モフモフッ! とあっという間に一本を平らげ、エールで口内をさっぱりとさせる。

 苦みの切れが良く、旨いエールだった。

 アルコール度数は低いので酔っぱらうためと言うより、水代わりだ。


 基本的に水なんてのは、大抵汚い。そんな物を飲めば、どこかの少女の様に人前で、ぴー…(自主規制)となる。

 いい年したビィトがそんなことになるわけにはいかない。

 というか、冒険者の心得みたいなものだ。生水は避ける。ってね。


「焼き加減が最高だな」

「大きいから食べ応えあるね」


 そういって早速二本目に取り掛かるエミリィ。

 足りないだろうなと思い、別の露天で軟体動物の足を焼いたものを買い足す。


 赤くなったそれは歯ごたえが良く、磯の香りがした。


「これもいいよ」

 ビィトは焼き鳥の二本目をチビチビと噛みつつ、軟体動物の串物はエミリィに差し出した。


「あぃぁぉう!」

 アツアツの肉でくちのなかもホフホフしながらも、遠慮なしに受け取るエミリィに、ビィトもホッコリとした気分になれた。


 こんな穏やかな気持ちはいつ以来だろうと…

 奴隷になってから感じるという、穏やかな時間に苦笑するしかない。

 「豹の槍パンターランツァ」では、得るべくもなかったものだ…


 そうして、エールを舐めつつ、ビィト達は奴隷の宿へとノロノロと歩いていった。




 こんな1日の終わりも悪くない───

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