第17話:新年の準備

「発掘品の解析……ですか」


 ギルドを出て、少し歩いたところの喫茶店に入る。

 ギルド本部からの依頼についてガインに話してみると、またもや溜息交じりの返事がきた。


「確かに魔導具ギルドは、旧世界の遺物の発掘調査をしています……それも国からの依頼でですね」

「そうだな。それは以前勉強したよ」


 魔導具ギルドはくらしに役立つ魔導具の開発を行っているが、全てがオリジナルの技術ではない。

 それは当然だ。

 魔導具に描く魔法陣や魔法文字は、旧世界の知識からのものだからだ。


 多くの旧世界技術が失われたとはいえ、残っているものや受け継がれているものはある。

 だが、できるかぎり旧世界の技術を取り戻し、生活を向上させたいのも事実。

 そのために、魔導具ギルドは発掘された遺跡や魔導具を調査、解析するように王国から常時依頼されている。


「しかし、最近見つかった遺跡については、調査が芳しくないとのことです。しかも、見つかる魔導具もこれまで見たことのないものらしく……」


 ガインはライプニッツ家に仕える騎士だが、正式には王国騎士、つまりは私兵ではなく正規の軍人だ。

 実家も貴族家なので、こういう情報を知っている。


 その遺跡は魔の森に近い場所らしく、つまりエクレシア・エトワールの近いところということだ。

 今は、様々出土する魔導具を王都に運んで、王城内の建物の一つに保管して研究しているらしい。


「流石にレオン様に、遺跡に付いてきて欲しいとは言えなかったようですね」

「……別に行ってもいいけどね」

「……本気でやめてください」


 ガインから思い切り嫌がられた。

 なお、この調査は年明けから行うらしいので、今のところは準備することはない。


「それより、今日からは新年に向けて忙しくなりますね。レオン様は『新年の儀』に参加しなければいけませんから」

「……確かに」


 新年になると、ある式典が催される。

 この式典は「新年の儀」と呼ばれ、王家と公家の五歳以上の一族がホスト側となり、王都詰めの貴族家を招待するものだ。

 そしてこれに参加することで、王家、公家の子供たちは正式に王族として認められる。

 そのため、今年五歳になったアレクサンド、エリーナリウス、そして俺もかなりの準備を行わなければいけない。


「礼服の仕立てに儀礼用の所作、文言とか……面倒だな」

「とはいえ、王族として行わなければなりませんので。大体、レオン様やエリーナ様は所作や言葉遣いについての講義は必要ないでしょうに……礼服の仕立てだけじゃないですか」


 確かにそうなのだ。

 幼い王族の場合、特定の所作や言葉遣いは早くから時間を掛けて覚えさせるものだ。

 多くの場合、同い年の王族というのは少なからずおり、特に側妃が多い場合は同じ年齢が多くなりやすい。

 そういう場合、人数も多いが故に普通の教育では間に合わない、というか五歳の段階でそこまでの言葉遣いや所作は出来ないので、前々から時間を掛けて覚え込ませなければいけないのだ。


 それでもある意味付け焼き刃である。

 なぜなら特定の挨拶や話への返事は返せても、応用するまでにはいかないからだ。というか、それを五歳児に求めるのは間違っている。

 それでも王族としての尊厳を失わせることがないようなレベルにするために、とてつもなくスパルタな教育が行われるのだ。

 それを嫌がる王族の子供も少なくない。


 だが、今年は自分でいうのも何だが規格外が二人いる。

 俺とエリーナである。


 所作や言葉遣い、よくある言い回しや返し方などは三歳の頃から自ら叩き込んでいる。

 エリーナも似たようなもので、同じ頃から自分で勉強していたらしい。

 アレクについては、猛特訓中であるが、素直だし頭も良い。

 それに一人だけに付ききりで教育できるので、うちの両親や叔父上たちも楽だそうだ。


「いや、礼服の仕立ては良いとして……絶対母上が面白がりそうじゃないか」

「あー……ヒルデ様は……」


 ガインも思うことがあるらしい。

 うちの母ヒルデは、基本的にお茶目な人なので、問題にならないレベルでイタズラやらなんやら仕掛けてきそうである。

 礼服の採寸という名目で着せ替え人形にされたりとかな。

 実際に兄や姉は経験したことがあるらしい。


「ま、こんなところでグダグダ話していても仕方ないしな……帰るか」

「そうですね……」



 =*= =*= =*=


「あら、やっと帰ってきたわ♪ そーれっ!」

「うえっ!?」


 王宮に戻り、自分の部屋に戻ろうとすると、突然横から声が聞こえて連れて行かれた。

 横からだったことと、王宮に戻ってきたという安心感からすっかり油断していた俺はとある一室に連れ込まれ、気付いた時には着替えさせられていたのだった。

 そして、犯人はいうまでもなく……


「は、母上……いきなり、着替えさせるとか……無いと思いません?」

「だってだって、レオンったら帰ってくるのが遅いんだもの♪」


 そこまで遅かったか?

 朝出て夕方前には帰ってきたんだが。

 そんな事を言ってしまえば、父上などは遅刻も大遅刻だろうに。


「……お待たせしたことは、申し訳ないと思っています、母上」


 ここは素直に謝っておくに限る。

 だが、簡単にはいかんだろうな……


「あら、ならちゃんとそれを行動で示して欲しいわ♪」


 ほらやっぱり。

 母上の場合、何を要望されるか分かったものじゃない。

 勿論、無茶なものはないだろうが……


「ぐ、具体的には?」

「今日はみんなで儀礼服を見る予定だったのに、すっぽかされてお母さん悲しいのよ……半日以上待たされるなんて」


 いかにも悲しい……というより、目の端に涙を滲ませながら話す母上を見ながら、こっちは頭痛がしてきた。

 今日そんな予定はありません! と言いたいところだが、そうはいかないんだろうな……

 ここでそんなことを言えば、大々的ブーイングになるに違いない。


「……はあ、分かりました。夕食までお付き合いします」

「あら、ありがとん♪」


 さっきの涙は何だったんだろうか。

 そう言いたくなるほどの変わり身の早さに呆れつつも、既に付き合うと言った手前、腹を括る。


「というわけで! 王族による王族だけのファッションショー、始めるわよー!」

「「「「「ぱちぱちぱちー!」」」」」


 なんでそんなにノリノリなんだ。

 というか、叔母上たちはどこにいた。あ、エリーナも拍手するんじゃない。

 ルナーリアにセルティ姉上まで……


 ふと反対に目を向けると、既に少し死んだ眼をしているヘルベルトやハリー兄上がいた。恐らく彼らも拉致られたに違いない。

 ということは……


 ちょうどアレクが兄たちの後ろに隠れようとしていたので、回り込んで首根っこを掴み、母上たちの前に出る。

 

「な、なんかまきこまれたんだけど、ぼく!?」

「……諦めよう、アレク」「時には受け入れることも……大事だぜ」


 なんか悟りを開いたかのような目になって微笑みながら話しかけてくる兄たち。

 いいから君らはそこでじっとしてなさい。


「はーい、それじゃまず男の子たちからするわよ~!」


 母上の楽しそうな声がすると同時に、マリア叔母上、フィオラ叔母上、ルナ―リア、セルティが目にもとまらぬ速度で洋服を持ってくる。

 あるいは、傍に掛かっている正装を見て、デザインについてあーでもないこーでもないと意見を出し合いながら選んでいる。


 早速、王子二人が連れて行かれているようだ。

 流石に実際に着替える場所は別である。……といっても、衝立で仕切られた簡易的な更衣所だが。


「ほら、折角だからアンタもきちんとしなさい、ヘルベルト!」「はい、アレクはこちらですわ」


 母は強し。

 一瞬にしてマリア叔母上はヘルベルトを更衣所に放り込み、着せ替えを始めていた。

 そしてフィオラ叔母上も同様で、アレクを連れていってしまった。


 一人残っているハリー兄上と顔を見合わせていると、隣から声が聞こえてきた。


「ハリー、あなたの着替えはレオンが手伝ってくれるわ♪ はい、これね♪」


 そう言って母上から服を渡される。

 その上で母上からの指示により、俺はハリーの着替えを手伝うことになる。

 別に構わないのだが、普通逆ではなかろうか。


「……お前も大変だな、レオン」

「……これも王族の務めですよ、ええ」


 こんな王族の務めなんて存在しない。

 でも、女性の一声でそれは務めになるのである。

 男性王族って、なんだかんだ言いつつ立場低いよな……


 * * *


「あら、格好良いじゃない♪」

「中々様になってるわね」

「本当に。皆、素晴らしいですわ」


 うちの女性陣は本当に……

 明らかに俺たちは着せかえ人形状態。


 ヘルベルトは王家の第一子、いずれ王太子となる人物なので相応の物だ。

 ヘルベルト自身も嫌がるものの慣れていない訳ではなく、きちんと着こなしている。

 主に赤と紫を軸とした派手なものである。


 ヘルベルトと同い年のハリー兄は、イメージに合った緑や青を軸とした冷静な色味。

 だが当然金糸の刺繍など、派手さは抑えて高級感を出している。


 アレクは……まあ、仕方ないだろう。

 王族といえども五歳なので、袖口を触ったり首元触ったり……じっとしろ!

 アレクは緑を主とした正装で、足元は半ズボンのようなものにタイツである。


「はぁ……正装って着づらいんだよな」

「仕方ないだろ、ヘルベルト。いずれ慣れるさ」

「うぅ……くびくるしい……」


 三人ともこんな反応である。

 

「それにしても……」


 ふと、ヘルベルトがこちらを見て呟く。

 ん? どうしたんだ、そんなにこちらを凝視して。穴が空きそうだよ。


 ちなみに今の俺の格好は、詰め襟で暗灰の生地に銀色と、一部金色のモールで装飾されたドルマンと呼ばれる上着を着ており、下は身体にフィットしたズボンにブーツという出で立ちである。

 必要は無いのだが、腰のベルトにはミスリルの細剣を佩いている。

 少し腰回りが合っていないのか緩い感じがするな。


「レオンは何でそんなに平然としていられるんだ……?」

「如何にも慣れてます・・・・・感があるんだが……」

「そうですか? 少し腰回りが合っていないので緩いのですがね……」


 ヘルベルトもハリーもそう言うが、そんなに不思議だろうか。

 はっきり言って前世の中学時代なんて詰め襟学ランだったし、社会人になってからもスーツやらなんやら着るのは当たり前だったからな。


「いや、緩いって……」

「うーん……考えすぎたら負けかな……」


 なぜか呆れたような目を向けられたが、何かしましたかね兄上殿?

 あ、勝手にタイを緩めない。それはこの位置にないとバランスが悪いでしょうが。

 勝手にタイの状態を変えようとするハリーを止めて、調整し直す。


 そんな事をしていると、また別の側から声が掛かった。

 

「へぇ……良いじゃない。ねえ、エリーナ?」

「ええ、格好良いですわ……まるでお伽噺の騎士のよう……」


 女性陣には受けが良いようだ。

 ルナ—リアも褒めてくれたし、エリーナは少しぼーっとしたような雰囲気で頬を紅く染めているが。


 あれ? うちのセルティ姉は? あ、いた。

 というか、何故そっぽを向くのでしょうか?

 姉の視界に入ろうとするとすぐに顔を背けられるので、それを追って回り込む。

 背けられる。回り込む。今度は逆に。


 ちらと見えた姉は顔が紅いように見えたが……大丈夫か? 熱でもあるんじゃ……


「ほーら、何をしているのかしら♪」


 姉を軸としてくるくる周りを巡ってみたが、結局セルティ姉がこちらを向くことはなかった。

 見かねたのか母上から止められる。


「さ、次は女の子よ〜!」


 そう言って、今度は女性陣が着る正装を見ることになるらしい。

 そう思っていたのだが。


「さて、折角なので女性陣は男性陣から選んでもらおうかしら♪」


 母上が恐らく最大と思われる爆弾を落とした。

 というか、男性陣にとってそれは難しいのではなかろうか……


「あら、それ良い考えね」


 あ、マリア叔母様が同調した。


「そうですわね……折角ですから、この機会に女性を褒める方法も学ばせましょうかしら……」


 フィオラ叔母様まで……しかも、なんかハードル上がってるし。

 どうにか……何か方法は……



 はい。結果的に男性陣は防衛できず、女性陣に完全降伏となりました。

 ちょうど父上たちの仕事も終わったようで、食事までの間はウィル叔父上も父上も巻き込まれることになったのだ。

 最終的に、マリア叔母様とルナーリアはウィル叔父上とヘルベルト、フィオラ様と母上、セルティ姉が父上、ハリー兄、アレク。


 俺? エリーナですよ。

 なんか決める時も、「折角なんだからエリーナちゃんはレオンから選んでもらいなさいな♪」と母上が言い出し、「それが良いですわ」とフィオラ叔母様が了承し、最後に「……頼んだぞ」とウィル叔父上が承諾してエリーナと組むことになった。


「レオン……巻き込んでしまって申し訳ないですの……」

「ん? いや、心配しなくていいよ。折角だから綺麗で似合う、可愛いのを選ぼうか」


 どうもエリーナは、正装選びがこんな大規模になるとは思っていなかったらしい。

 それで巻き込まれた状態の俺を気遣ってくれた。


 でも、俺としてはエリーナの正装を選ばせて貰えるというのは嬉しいことだし、折角だから可愛く着飾って欲しいと思っている。

 そう言うと、彼女は嬉しそうに「ありがとうございますわ」とはにかんだ。


 ……何このカワイイ生き物。


 * * *


「うーん……エリーナはやっぱり薄い青が似合うかな……でも、こういう少し派手なのも……うーん」

「あの……レオン?」


 エリーナのドレスか……

 これは難題である。

 彼女は美しい宝石のような青い瞳を持っており、金糸のようなブロンドがとても美しい。


 彼女がよく着るような、薄いブルーのドレスは間違いないだろうけれども……

 少し可愛い系を狙った薄いピンク……いや、ここは派手に赤とか、黒系に……


「レ・オ・ン!」

「ハッ!?」


 なんだなんだ!?

 耳元で大きな声が!


 そう思って振り返ると、腰に手を当てたエリーナが頬を膨らませて立っていた。


「私のドレスを選んでくださるのは嬉しいですが、私の話も聞いてくださいまし!」

「す、すまん……」


 どうやら俺は熱中しすぎていたようだ。

 だって、こんなに可愛いんだぜ?

 着飾って欲しいじゃないか。


「もう……私のことを考えて下さっているのは嬉しいのですが、ほら」


 そう言って、エリーナは俺の腕を取り、俺の顔を見てくる。

 そして、俺の横に寄り添った状態で、ドレスを一つずつ見ていく。


「一緒に選ばせて下さいましね」

「……ああ、もちろんだ」


 いかん。精神は肉体に引っ張られるというが、これは拙い。

 こんな良い子に「一緒に」なんて言われたら、ホイホイついていくよね。

 まあ、そんな冗談は置いておいて。


 一緒にドレスを見ていく。

 しかし、こんなに衣装がある、しかも身体に大体合うというのは驚きだ。

 これは相当金額が掛かっているのではなかろうか。

 そう思ってエリーナに聞いてみると、どうやらこういうドレスの場合、あくまでサンプルだから職人の練習として作られるらしい。


 当然金額は払っているのだが、時たまこのように練習させないと職人の腕が落ちてしまうし、弟子を育てるにも練習が必要なので無駄ではないそうだ。

 そして、このような練習で作ったものでも気に入って貰えたら、その職人の腕が良いと言うことになり、いわゆる「御用達」ということになるのだ。


 そんな話を聞きながら、色や装飾品、そして靴にいたるまでを選んでいく。


「うーん……私としてはこちらのブローチの方が可愛いかと思うんですの」

「でも、それだと色が合わないぞ? こっちの色の方が……」

「それならこんな感じで……」


 そうやってしばらく経ち、ドレスを決めたエリーナが更衣室に向かう。

 王妃である叔母様たちや母上も既に着替え始めているらしく、俺たち男性陣は待機である。


 ウィル叔父上は正装を着てはいないが、普段からの王衣が正装なので仕方がない。

 とはいっても、季節に応じた色や装飾があるので、それを合わせるのはまた今度らしい。

 父上は濃い紫色の詰め襟に、金モールと宝石で装飾されたドルマンを着ており、その上から同じような意匠のハーフマントを肩に掛けている。


(父上の迫力が……凄い)


 はっきり言って、単なる服装だけの違いに見える。

 でも、服装が変わるだけで纏う雰囲気が変わるのだ。


 普通、紫色なんて着ると趣味が悪くなるものだが、父上の姿は完璧と言っていいくらいマッチしており、それ以外の姿は合わないと思わせるほどである。


 さて、女性陣の着替えを待っていると、ふと父上がこちらを向いた。


「そういえばレオン」

「はい?」

「エリーナとは仲良くなったか?」


 一体何を聞いているのだろうか?

 逆に貴方はどこを見ているので?

 そんなことを不思議に思いながら聞き返す。


「ええ、それは勿論。彼女はとても優しくて素晴らしい子です」

「そうか」


 なんだろう。

 そんなニヤニヤして叔父上の方を見ていますがね。

 なんか、叔父上の方からなんともいえないオーラを感じるんですよ。ヒシヒシと。


 そんなことを考えていたら叔父上の手が俺の肩を掴む。

 ちょっと食い込んでる食い込んでる! というか、さっき向こうにいたよね? いつの間に近付いたんだ!?


「なあ、レオン」

「……なんですか?」

「エリーナをどう思っているって? ん?」


 ギリギリギリ!

 あだだだだだだ!! ちょっと! な、何をするんだぁー!?


 「どう思っているんだ」という質問のはずなのに、下手に答えると殺されかねない、と思えるほどの迫力だ。

 普通の子供なら泣き出すぞ……


「もちろん、とても素敵ですし、可愛いと思っていますよ? 大切な女の子です」

「…………」


 できるだけ平静を装いつつ、そう答える。


 こういう時に相手の顔を見て誤魔化すこともできる。

 でも、本心を隠すのは得策じゃない。そう思って正直に想いを伝える。


 ちょっと、無言は辛いんですが……


 長い時間、いや、実は1分も経っていないのかも知れない。

 ウィル叔父上は俺の肩を掴んだまましばらく無言だったが、ふと表情を緩めた。


「そうか。なら、エリーナはレオンに託そうか」

「は?」

「うんうん、あの迫力を向けられても正直に『大切』なんて言ってのけるとは……流石私の甥っ子だ」

「はあ……」


 よくわからないが、なんか納得頂けたらしく、叔父上は上機嫌に笑いながら元の椅子に戻っていく。

 不思議に思いながら叔父上を見ていると、肩を叩かれた。

 振り返ると、ヘルベルトとハリー兄が立っており……


「……お前も苦労するな……」

「レオン……可哀想に……」


 何故か理由の分からない慰めを受けてしまったのであった。


 * * *


 さて、女性陣が出てきてからの大変さは言うまでもない。

 何故って?

 そりゃあ君、感想を求められるからだよ。


「うん、ルナーリア。似合っているよ」

「セルティも、良い色合いじゃないか」

「きれいです、おかあさま」


 上から順に、ハリー兄、ヘルベルト、アレクである。

 というか、流石にアレクは可哀想であるが。


「……あなたね、そんな事で女性が喜ぶと思っているの?」

「ハリーさん? 大変シンプルな感想ですわね」

「アレクくんは……これから練習ね」


 ほらみろ。母上たちからの呆れた視線と言葉を貰うことになるんだ。

 有り難く受け取りなさい。


「エリーナ、とっても綺麗だ。薄いピンクだけど、少し他の色も入れているから華やかだね。髪型も少し変えたかな?」

「そうですかしら? もう少し落ち着いた色が好きなのですけれど……」

「新年だから、普段と違う色を着るのは良いことだよ。それに、瞳の色のブルーは装飾で使っているからね」


 エリーナを褒めながら、他の女性陣にも目を向ける。

 姉であるセルティは普段と異なり、明るい青のドレスである。

 ルナーリアは、菫色をベースとしたドレス。


「ちょっと、イチャイチャしてないでちゃんと感想を言いなさいよ」

「……うん、セルティ姉上は普段より落ち着いた色ですね。大人っぽく見えますよ。とても綺麗です」

「……ありがと」


 元々、姉はブルネットなので、派手な色味よりも抑えた色の方が大人っぽく見える。

 逆に黄色みたいなのも有りとは思うのだが。


「さ、わたしはどうかしら?」

「ルナ姉上は……そうですね、もう少し色を重ねた方が良いかもしれません。菫色は少し重いので、どこかに明るい色を入れましょう。でも、ドレスの形がとても似合っていますね」

「……よく見ているわね。試してみるわ」


 そんな感じで今日一日は過ぎていく。

 とにかく新年の儀が終わるまではじっとしていなきゃな……

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