終戦
終戦
戦いは終息へと向かっていることは確かだった。
しかしその幕引きは、誰も予想していなかったものだった。
神奈川陣営の
青髭ことジル・ド・レェの自爆を止めたのは他でもなく、同じ神奈川陣営の異世界転生者、エルキドゥだった。
彼女のまとっていた機械装甲のほとんどが外れ、青髭を縛る鎖を発射して固定している。
ジャンヌの言っていた魔法を無効化する光で編まれた鎖だからか、青髭の自爆は不発に終わって、きつく締め上げられていた。
「よくぞ、やってくれました。現代の若者。後は私にお任せを」
「なんだてめぇ! 同じ陣営だろ?! 何故加勢しない! 何故邪魔をする!」
「私の役目、元々あなたを捕まえる事、だもの」
青髭も含め、堺もジャンヌも完全に想定外。
青髭の体は中心にブラックホールでも出来たのか鎖によって圧縮され、吸い込まれ、潰れていく。
青髭の抵抗は虚しく、ゆっくりとだが確実に引きずり込まれていた。
「おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれ! 何故俺の邪魔をする! 俺はただ聖女の名誉を取り戻そうとしただけだ! 俺の聖女を取り戻そうとしただけだ! なのに何故邪魔をする! 何故邪魔をされなければならない! 俺は……!」
「これが、神の意志……神の、決断」
「そんなわけがあるか!!!」
鎖が砕かれ、必死の抵抗で這い出てこようとする。
だが新たに伸びる鎖に絡め取られ、再び引きずり込まれていく。
「俺は知っているぞ! 今の世で、この現代において、聖女がどのような扱いを受けているか! 様々な創作の人物像の基盤とされながら、或いはその聖女そのものとしてありながら、時に過酷な運命を強いられ、時に凌辱され、そこに百年の戦争を終わらせた救国の聖女の影はなく、ただこの時代の人間達の情欲を満たすだけの人形と成り果てている事を! 俺はそれを変えるために来たのだ! そのために呼ばれたのだ! かの聖女の勇ましき姿を! かの聖女の美しき姿を! このくそったれな現世に伝えなければならない! そのために来たのだ! あの百年の戦争は! 他国の侵略から国を救った彼女の英雄譚は! おまえ達の情欲を満たすために語り継がれたのではない! 彼女は――!!!」
青髭の訴えは、最後まで聞き届けられなかった。
青髭は完全に鎖の中へと閉じ込められて、鎖が消えると彼女もまたゆっくりと下りて来た。
ジャンヌとの戦いで一切表情を変えなかった彼女だが、下り立った彼女にはジャンヌと同じ魔力過剰消費による疲労が見えた。
「現代の若者。青髭、よくぞあそこまで弱らせてくれました。感謝します」
「あなた、は、あの人を捕まえるために、この戦いに?」
「神の意に背く者に、制裁を。神に作られた物として、当然のことです」
「では、あなたの役目、は……終わった、わけだけど」
「今ので魔力を使い果たしてしまい、私には、戦う術がありません。降参、します。私の、負けです」
彼女が頭を下げると、どこからともなくフェアが現れる。
静かに息を吐くと右手を上げ、すぐ側の堺を差した。
「これにて神奈川陣営が全て脱落したため、試合終了。東京陣営の勝利とします」
こうして県境を巡る戦いは、一人の転生者の乱入によって思わぬ方向にねじ曲がりながら、最後には静かに幕を閉じた。
今までで一番静かで、あまりにも唐突の終わり方に、TVの前の視聴者も堺も呆気にとられ、何も言えなかった。
戦況――東京・三:神奈川:零――勝者、東京。
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