幕間ーⅡ
妹二人もバスケ選手として素晴らしい功績を残し、両親を除いて、兄弟姉妹バスケ家族と呼ばれて来た。
兄も妹二人の活躍をとても快く思っていて、周囲からシスコンと言われるほど妹達のことを思っていたから、大学で寮住まいとなる事にわずかな抵抗があったものの、現在大学寮にて一人暮らしをしている。
プロとして活躍する彼に、自由な時間は少ない。
一人暮らしに近い寮生活は、家事は自分で行わなければならないし、バスケの練習は欠かせない。余った時間はすべてバイトに費やし、生活費を稼がなければならない。
色恋沙汰の噂も立たないし、遊ぶ時間もお金もない。本当にただ、バスケという自分の得意分野にのみ時間を費やすための毎日に、この頃の彼は疲れていた。
もしも突然、ひょっこりと、妹が訪ねて来てくれるようなことがあれば、この疲れも吹っ飛ぶものをと考えたとき、妹の
そしてそれが、ただ単に様子を見に来ただけなんて優しい理由じゃなくて、他ならない何かしらを抱えていることは、肩で息をして玄関に立ち尽くしていた妹の姿を見た瞬間に理解した。
初夏になりかけているというのにこの日の夜は肌寒く、汗を掻いたせいで冷える体を震わせて立っている彼女を、迎え入れないわけにはいかなかった。
シャワーを貸し、自分が普段練習の時に来ているジャージを着せたが当然ブカブカで、妹の体を温めるには足りない気がして、来客用の茶を出す。
暗い表情を絶えず浮かべ続けていた妹の苦悩を聞いた兄は、ベッドに座る彼女の隣に座って、その頭を撫でた。
麻衣が中学一年生になるまではよく撫でていたものだが、思春期もあって最近は撫でられるのを嫌がる彼女も、黙って撫でられる。
久し振りに感じる兄の体温と優しさに、甘えているように見える。
「そっか……異境のメンバーに、なぁ。大変だったな、麻衣」
「私、どうしたらいいのか……バスケでも勝ちたいけど、異境に出て、勝って、その賞金と褒賞で、みんなを楽に出来たらそれもそれで嬉しいし……でも、バスケは」
「そうだよな。おまえは、それだけバスケが好きで、一生懸命にやって来たんだものな。簡単に、はいそうですかなんて、受け入れられないよな」
「兄貴なら……お兄ちゃんなら、どうする……?」
兄は少し考えて、自分の分のスポーツドリンクに口を付ける。
そして二度三度、妹の頭を撫で下ろして「そうだな」と続けた。
「俺なら、異境に参加するかな」
「お兄ちゃん、でも?」
「確かに、
兄の言葉は、胸を空くものだった。
胸の内に巣食うモヤが、一挙に晴れた気分だった。
自分だけで解決できないなら、頼ればいい。得た回答の心地よさに抱かれて、そのまま寝入ってしまいそうになる。
それだけ兄のくれた回答は、酷く心根の落ち着くものだった。
「ありがと、兄貴。元気出た」
「おぉ、もっと兄貴を頼れ。俺は異境にも出られねぇけど、忘れるな。俺も真琴も父さんも母さんもいる。おまえのチームの仲間達だっている。異境に出れば、新しい仲間にだって会える。おまえは、一人じゃないんだ」
「うん」
こうして上鶴麻衣は異境への参加を決めた。
チームの皆に話すと、皆は優勝賞金で新しいバスケットゴールをねだったり新しいバスケットボールをねだったりと、意外と寛容的だった。
むしろ行ってこいと、試合のことは自分達に任せろと言って送り出してくれた。
こうして送り出された異境の戦場。
今頃、バスケの試合も始まっている頃だろう。
自分を送り出してくれた仲間達のためにも、負けるわけにはいかない。
何より負けたくない。
誰よりも勝利を欲する者。勝利に貪欲な者。それが、上鶴麻衣の本質なのだから。
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