第50話 此度の魔王

「貴様等、何者だ?」


魔王。

超常の存在。

この世の全ての悪。

人類の敵対者。


魔王は、地の底から響く様な声で告げた。


「・・・逃げないので、着替える時間をくれ・・・王座の間で待っていてくれるかね?」


ひよこ柄のパジャマ、ナイトキャップをつけた魔神が、ベッドの上から、厳かに告げた。


--


「勇者どもよ。良くぞここまで辿り着いたな」


扉を開けて入ってきた魔王が、告げる。

お前こそ、早かったな。

もう少し時間がかかるかと思ったぞ。


先に準備が終わっていた四天王と雑談。

ヴァルナもこちら側だし、四天王は既に降伏済。

魔王も降伏してくれても良い気がするのだが、それは出来ないらしい。

大人は色々あるね。


「魔王。人類の、いや、魔族を含めた生けとし生ける者のため・・・お前を倒す」


「うむ、分かっておる」


・・・魔王を倒す事で、魔王軍の贖罪とする、という理由もあるらしい。

何より・・・魔王自身、あまり生存に執着が無い。


苦しまないように、それがヴァルナの願いだ。


「ゆくぞ、魔王よ」


レミアが神器、レーヴァテインを構える。


「来るか・・・王女よ!」


魔王も杖を構え、


ザンッ


杖ごと、魔王を豆腐の様に切り裂いた。

これで、此度の魔王は・・・終わり。


ころん


美しい宝玉が、落ちる。

なるほど、知らなければ宝物庫にでも入れておきたくなるな。


「封印結界を張る」


レミアの宣言のもと、四天王とフィンが準備を始め・・・


・・・


ん?


「なあ、マリン」


「はい、何でしょうか?」


「アレ、収納できるか?」


「え・・・あ、はい。ん・・・できました」


できたか。


・・・


空気が凍った様に、みんなの動きが止まっている。

ややあって、フィンが口を開く。


「えと・・・ダーリン・・・何を・・・したの?」


「魔王の宝玉を、マリンの固有空間に入れた」


俺は簡潔に答えた。

沈黙。


ヴァルナが、混乱した様子で尋ねる。


「えっと・・・どうなった・・・の?」


「宝玉の時間が完全停止、かつ、私が出さない限り絶対に取り出せません。二度と出さないので、実質、未来永劫時間停止します」


どよ・・・


魔王幹部、ヴァルナ、フィンが何やら話している。

・・・小難しい話をしているな・・・


フィンが代表して告げる。


「どうやら、魔王の再誕は、未来永劫無さそうだ。宝玉の時間経過で復活。宝玉を封印していても、安全な場所に転移してから復活──つまり、地中深く埋めても、海の底に廃棄しても、外の世界に追放しても駄目。破壊した場合、別の場所に宝玉が再誕する」


フィンが、続ける。


「でも、時間停止の状態は、宝玉の破壊には当たらない。宝玉の再誕はしないようだね」


「呆気ない終わりだな」


俺は呆れて、呻いた。


「そもそも、時間停止する上に、未来永劫存続する空間、というのが異常なんです。それを魔王の封印に使うのも、常識外れの発想ですね」


ヴァルナが、安堵した様子で言う。

他の魔族達も、ほっとしている様だ。

恐らく・・・魔王は長く君臨し過ぎたのだ。

或いは、1番苦しんでいたのは、魔王かも知れない。


「え、最初からそのつもりだったのか、ですか?いえ、私はただ平和に暮らす為の便利スキルを・・・待ってください、勝手に人を計算高い腹黒キャラにしないで頂けますか?!」


マリン、君は誰と話してるんだい?


ともあれ・・・長くこの世界を苦しめた魔王は、完全に消えたのだった。

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