第44話 妄想

仄暗い道。

この世では無い場所。

ヴァルナの案内で進む。


「気をつけて下さい・・・私から離れると、出られなくなります」


ヴァルナが真剣な顔で言う。


ごくり


俺は息を呑んだ。


「いや、むしろ、規定のルートから外れたら、即座に元の世界に放り出されるよね」


フィンが半眼で突っ込む。

嘘か?!


「ああっ、フィンさん、酷い!」


ヴァルナが抗議する様な声を出す。


ヴァルナが、こほん、と咳払いすると、


「緊張をほぐそうとしたんです」


そう告げた。

まあ、緊張し過ぎるのも良くないな。


恐らく、出口で待ち構えている者。

魔将軍オセ。


下半身はヤサ男。

顔は、豹。

ライトメイルにマント、俊敏なフットワークで剣を操る。

そして・・・神級魔法を息をするように行使する。

その力は、まさしく悪魔。


相手が攻撃に移る前に、レミアが突撃・・・隙を見てフィンが援護。

俺とヴァルナはフィンの隠れ蓑。

単純だが、これが俺達の作戦だ。


出口が見えてきた。


ごくり


誰ともなしに、息を呑む。


そう。


前哨戦、と言うよりは、本戦・・・

俺達は──負ける訳には、いかない。


出口を潜り・・・視界に飛び込んできたのは・・・オセ。

ラスボス戦らしく、いきなり戦闘は開始しない。


見ただけで分かる。

強い。


むしろ華奢に見える、豹頭の男・・・


「勇者よ、残念であったな。お疲れ様、私が来てしまった」


とつとつ、とオセが語る。

全知全能の存在、余裕に満ちた態度と声音──ではない?

何故か、戸惑った様な印象を与える声音だ。


むしろ、余裕に満ちていてくれた方が、つけ込む隙が有るのだが・・・警戒を怠らないと言うのか。

所謂、豹は兎を捕らえるのにも全力を尽くす、か。


「やはり、読んでいたか。オセよ。そして、やはり妨害に出てくるか・・・貴様から、魔王を──父を、そしてこの世界を、解放する!」


ヴァルナが叫ぶ。


ゴウッ


今までとは比較にならない魔力が、ヴァルナを渦巻く。

・・・強い!

ヴァルナ、此処まで強かったのか?!


オセは、ヴァルナを一瞥すると、俺の方を向き、


「勇者よ。そなたの事は、知覚していた。そなたの能力・・・魅了チャーム。そして、それを用いて、呪われし姫の神器を解放する・・・その組み合わせを引き当てたそなたの運命力、誠に見事である」


全部ばれてる。

神器の対策もされていそう・・・


その割に、何だか、オセの様子がおかしい・・・?


「・・・我は全知全能と称えられし存在・・・だが・・・」


オセはヴァルナを見て、


「・・・何をやっておるのだ?魔王軍総司令官ともあろうそなたが、何故勇者と共にいる?」


魔王軍総司令官だったのか。

そういえば、魔王の娘なんだよな。


「言わずと知れた事・・・オセ、貴様の企み、我が気付かぬとでも思ったか?!」


ヴァルナが叫ぶ。


「・・・企み、とは如何?」


オセが困惑した様な声を出す。

おや?


「・・・まさか、また、変な妄想をして、信じ込んで、暴走しているのではないでしょうな?何時も言っている通り、確かな情報を、論理的に組み立てた事。もしくは、事実。それ以外は、ただの妄想ですぞ?」


オセが半眼で呻く。

・・・まあ、魔王が再誕を望んでいなかった、これは事実だろう。

生まれ変わった魔王が記憶を一部失っていた、これも事実だろう。

それがオセのせいだ・・・それは、ただの想像だ。

魔王の再誕にオセが関わっている、これもただの想像だ。


こほん


オセが咳払いをする。


「・・・まあ、敵対するというのでは、仕方が無い。大切な友人の娘であり、我が孫の様に可愛がっていた存在ではあるが・・・その命、此処で散らすもまた運命、か」


ヒュッ


オセが剣を抜き放つ。


ブッ


オセがかき消えた。

速い?!


ゴウッ


俺の横側から、何かが雪崩れ落ちる。

食材やら、水やら、衣服やら。

何だ?!


俺は為す術も無く流され。

何とか体勢を立て直し、雪崩れ落ちた物の山の先を──



そこには



オセに剣で貫かれた、マリンの姿があった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る