第43話 持たざる者

「勇者や賢者、剣豪・・・後はエイコクさんの様な、チートスキル所持者・・・そういった方に比べると、戦闘能力は誤差の様なものです」


「俺を勝手に戦闘職にするな。戦闘職に失礼だぞ」


「エイコクさんを戦闘職に含めなければ、戦闘職に入れられる人がいなくなります」


「何でだよ」


その俺の戦闘能力への過信は何なんだ。

魔王軍幹部を倒すのにすら、不意を突かないと危ないんだぞ?


まじ、魔将軍オセどうしよう。

レミアとフィンがいるから大丈夫だとは思いたいが・・・


「英雄なんかにはなりたくない、魔王と戦いたくなんかない、平穏にひっそりと生きたい・・・私のその我が儘を、女神様は苦笑しながら受け入れて下さいました・・・」


マリンが呟く。


英雄から逃げた者・・・それが・・・


「その私が、今こうして、魔王討伐のPTに参加している・・・不思議です・・・でも、ね」


マリンが、俺を見て、


「今は、それがちっとも嫌では無いんです。むしろ・・・私は今、魔王を倒したい。みんなと・・・愛しいエイコクさんと一緒にいたい・・・みんなと居るのが楽しい・・・それもありますが・・・それだけじゃない、私は魔王を倒したい、そう思うんです」


マリンは目を逸らすと、


「魔王に対する恐怖はあった・・・でも、誰かが何とかすると思っていた・・・自分が何かしようとは欠片も思っていなかった・・・その自分が、今こうして此処にいる・・・本当に不思議です・・・そして・・・」


マリンは俺を見て、


「ごめんなさい・・・私は、戦いを放棄した・・・私は、役に立たない・・・本当に・・・戦えない・・・私は・・・何も出来ない・・・」


俺は、マリンをそっと抱きしめる。

頭を撫でてやる。


「ごめんなさい・・・私は・・・今・・・あの時放棄した、聖女の力が欲しい・・・勇者の力が欲しい・・・伝説の杖が欲しい・・・伝説の剣が欲しい・・・本当は・・・世界を救うのは私だった・・・女神様がこの世界に施した救いは、私の筈だった・・・なのに・・・」


周期的に、神器の所持者がいなくなる時代。

その時代の為の、救済。


自分達だけで何とかしようと、頑張ってきた人達・・・

その人達の努力に、報いる為でもあったのだろうか。

女神様の施しは・・・しかし、施しをなる事を選択しなかった。


でも。


「だからこそ、俺はマリンと会えた」


俺は、続ける。


「マリンには感謝している。美味しい料理を食べられ、洗濯も野営準備も、荷物運びも・・・マリンは十分に支えてくれている・・・それに・・・」


それに


「マリンは、俺の大事な人だ。役に立つとか、立たないとかじゃない。俺は、マリンにいて欲しいんだ。マリンがいるから、俺は・・・みんなは、頑張れるんだ」


だから


「マリン、君は、。俺達が戦うから」


戦える人が戦えば良い。

戦えない人は戦わなくて良い。


それでも、出来る事をするのは、素晴らしい事だ。


俺も、魔王戦やオセ戦では、直接の戦闘には貢献できないだろう。

だが・・・俺の最大の武器、最大の支援魔法・・・魅了チャームが有る。


まさに、これこそ、規則逸脱チート

女神様すら想定していない、使い方。


愛情の強さを武器に変える神器・・・その力の源たる愛情を暴走させる魔法。

その神器の支援を受けたフィンやレミアは・・・光速すら超える。


魔王やオセは、何処まで俺達の事を掴んでいるのか。


フィンは、旅が始まってから、神器を使ったのは数える程だ。

殆どは、レミアが・・・最近は、俺やヴァルナの力だけで押し通っている。

これは、魔王軍に情報を与えない為だ。


魔王やオセが、レミアの情報しか掴んでいないなら・・・死角からフィンが神器を使えば、十二分に出し抜ける。

勝算は、決して低くない。


怖くない、と言えば嘘になる。

だが、同時に、愛しい人達の力を信じている。

だから・・・


「大丈夫だよ、マリン。戦いは・・・俺達の役目だ。マリンの選択は正しかった・・・この戦いが終われば、君は自分の選択に、胸を張って満足できる・・・俺は、それを約束するよ」


正直、俺は気の利いたことは言えない。

気の利いた事が言えるなら、非モテ人生なんて送っていない。


それでも。


マリンは、嬉しそうな顔を向けると、力強く抱きついてきた。


頑張ろう。


・・・そして、ちょっと痛い。

地味に、剣士の身体能力だもんな、マリン。

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