第42話 悪魔の鏡

一見、ただの岩壁。

ヴァルナはその岩壁を撫で、告げる。


「此処に、隠し扉が有ります。此処を潜れば、魔王城に着きます」


それは便利だが──


「魔王城・・・元々はうちの国の城で、そんな長距離の隠し通路は無かった筈だけど」


フィンが訝しげに問う。


「はい。魔族幹部専用の、異空間ゲート。魔導具、悪魔の鏡デモンズゲート、に通じる通路です」


ヴァルナが答える。

便利だな。


「なるほど・・・魔王幹部が遠隔地に居る場合、そうやって移動していたのか・・・」


レミアが苦々しく言う。

凄い勢いで、魔王軍の手の内がバラされてるな。

まあ、どうせフィンの部下達がごっそり人間側につくので、次回以降は対策されると思うけど。


「任地に戻る時は、歩いて移動するんですけどね」


ヴァルナが苦笑する。

一方通行か。


「そこから侵入しても、待ち構えられていて危ないのではないでしょうか?」


マリンの疑問。

理想を言えば、こっそり侵入し、魔王だけを倒したい。


悪魔の鏡デモンズゲートの入口は、魔王幹部しか起動できません。基本的には警戒はされない筈です・・・が」


「が?」


ヴァルナの言葉に、俺が尋ねる。


「魔将軍オセ、奴は欺けないでしょう。恐らく・・・奴は待ち構えています。神羅万象を見通す目・・・魔将軍オセは、そんな存在です」


ヴァルナが告げる。


「・・・倒さなければ、悪夢の連鎖は断ち切れないが・・・本音を言えば戦いたくないな」


俺は、うんざりして呻いた。

真のボス、か。


「さて・・・本日は此処で休憩。深夜から行軍を開始すれば、恐らく早朝に城へと着けるはずです」


ヴァルナが告げる。

夜討ち朝駆け、か。


「よし。明日は最終決戦・・・みな、英気を養ってくれ」


俺は皆を見回すと、告げた。


こくり


皆が真剣な顔で頷いた。


--


「私は、本当は、英雄となる予定でした・・・しかし、私はその運命から、逃げました」


マリンが、とうとうと語り出す。

それは、予測していた内容ではあった。


「前世・・・日本で、女神様の化身たる猫を助けて死亡・・・その功績で、この世界に転生して、二度目の人生を・・・」


まあ良くある話だ。

良く有るのか?

良く有るよな。


「勇者になるか、聖女になるか・・・森羅万象を司る魔法を操るか、最強の剣と盾を授けられるか・・・選択肢は少なくありませんでした」


マリンが話を続ける。


「そのどれも、選ばなかった、と」


「・・・はい」


俺の言葉に、マリンが頷く。


無敵の力を得て、転生先で無双する・・・それは、きっと楽しい人生だろう。

だが。


それが幸せとは限らない。

そして・・・マリンはそうは思わなかった。


「私は、メイド、の職業を選択しました。存在しない職業、何もできない職業。私は・・・英雄なんて、なりたくなかったんです」


メイドさんは立派な職業だぞ。


「膨大なポイントを使って得たのは・・・多くの汎用スキルと、便利スキル・・・目立たないように一生を終える為の多くのスキル・・・戦闘に必要なスキルを取得出来ない、という制約すら受けて」


「マリンの膨大なスキルは、転生時のスキルポイントの賜物だったのか・・・」


「いえ、ただ単に、生活スキルをポイントを使わずに取得できる、というスキルのお陰ですね」


「便利なスキルじゃないか」


欲しいぞ。

俺なんて、スキルは魅了チャームと魔術だけだぞ?


「・・・俊足とか、気配遮断、とかは入手できない、という事か」


戦闘に必要なスキルを取得できない、というのは結構なハンデか。

いやまあ、俺は才能が無いからどちらにしろ取得出来ないんだけど。


「いえ、その辺は取得できないですね。例えば、魔術とか、剣術とか、剣技とか・・・そういうのが駄目です」


「じゃあ結構応用次第で戦えるんじゃ・・・」


空間収納と完全状態異常耐性もあるしな。

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