第35話 上級魔術

「おい、ヴァルナ」


「はい?」


脳天気に、笑顔で応えるヴァルナ。


「俺は、倒しやすくて経験値が高い敵、って言ったよな?」


「ひあっ、ま・・・待ってエイコクさん、待って・・・そこはっ・・・」


おしおき。

滅茶苦茶強そうな魔物の住処に案内しやがった。

・・・案外、魔族にとっては雑魚なのかも知らんが。


「滅茶苦茶強そうですね・・・」


マリンがうんざりとした様子で言う。


「僕達の敵では無いし、服の中に手を入れるのをやめてあげた方が・・・」


フィンが困った様に言う。

まあ確かに、フィン達なら楽勝か。

ヴァルナの脇の下をくすぐっていた手を離す。


「我らが縄張りに何の用だ?」


一際大きな魔竜が出てくる。


「強化、月光」


ジュッ


魔竜の首を吹き飛ばし、命を奪う。


「うう・・・魔竜って、リリシアより遥かに弱いので、エイコクさんなら余裕の筈ですぅ・・・」


ヴァルナが涙目で言う。

・・・そういえば、魔獣を倒せるなら、普通の魔物なら結構いけるのかな?


「そっか、勘違いして悪かった。てっきり、俺を亡き者にしようと、危険な魔物の住処に案内したのかと」


「エイコクさんをどうにかできる魔物なんて、多分生息していないと思いますがっ」


ヴァルナが叫ぶ。


こてん


俺の胸に顔を埋め、


「もう・・・信じて下さいよ、ご主人様ぁ。私・・・私、ご主人様のお役に立ちたいんですぅ」


どくんっ


俺の胸を孤を描くように指を動かしつつ・・・ヴァルナが言う。

やばい、こいつ、可愛い。


「そ、そうか・・・悪かったな。疑って」


「はい、これからも精一杯尽くしますねっ」


ヴァルナが満面の笑みで応える。


「・・・僕が正妻だからね」

「やはり、計算高いのでは・・・」

「私もあの様な甘え方をしたい・・・」


フィン、マリン、レミアがぽつりと呟いた。


--


狩りは順調だった。

経験値は、確かにかなり増えた。


俺自身もある程度は戦えるが・・・やはり、フィンとレミアが強い。

神器を使うまでもなく、王級魔法だけでも順調に狩れるようだ。

そして。

神器を使わないフィンやレミアに比べると、ヴァルナの強さは異常だ。

息をするように魔法が発動、次の瞬間には死体となっている。

・・・出会い頭に俺が圧倒できたの、おかしくないか?

神器を腕輪状に発動させていたフィンがいたから、俺で対抗できないならフィンが殺していたと思うけど。

まあ・・・たまたま気を抜いていて、俺の魔法にかかった、といったところか。


「目標だった、上級魔術を覚えたよ。有り難う」


「中級魔術であの威力・・・上級魔術を覚えたら、向かうところ敵無しですね!凄いです、ご主人様!」


ヴァルナが俺の腕に抱きついてくる。

やわやわ。

フィンがうーと唸る。


「エイコクさんが上級魔術を使えば、本当に敵が居ないんですか?」


マリンが訪ねる。


「あ・・・その・・・えと・・・」


つと、ヴァルナが視線を逸らす。

居るのか。


「まず、魔王は圧倒できないと思います。勝ち目は十分有るとは思います」


ヴァルナが残念そうに言う。

上級魔術でも駄目なのか。


「・・・それと・・・」


ヴァルナの表情が変わる。

今までの脳天気な表情は消え去り、真剣な目。


・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る