第31話 悪樹の魔痺

「強化、風刃」


風の刃が、地龍を切り刻む。


「エイコクさん、それ絶対中級魔術じゃ無いです・・・」


マリンが半眼で言う。


「中級魔術、禁呪、風の谷の風神ドライファだね。発動出来てるのも、反作用が起きてないのも、理解出来ないけど」


フィンが解説。

連続魔術って、一般的な技能じゃ無いのだろうか?


ガサ・・・


「来ないで下さい」


ドウッドウッ


マリンが格納されていた空気を圧縮して射出。

木の魔物を貫く。

が、直ぐに再生していく。


「トレント系列の魔獣、エルダートレントだね」


フィンがのほほんと告げる。


「エロいのか?」


「エロいなら近付く前に殺してる」


俺の問いを、フィンが否定する。

ちくしょう。


「強化、月光」


ドウッ


蒼白い光がエルダートレントを滅多打ちにする。

そのまま崩れ去る。


「僕が残らなくても良い気がしてきたよ」


フィンが呆れた様に言う。


「いや、魔族の幹部とかが出てきたら、俺達じゃ対処できないぞ」


「この前幹部を完封してたよね」


フィンが半眼で言う。

属性相性が良かったからな。


ガサッ


茂みから出てきた魔族、女性。

俺達に驚き、魔法の行使を試みるが──遅い。


「強化、麻痺」


悪樹の魔痺ディヴァーナを発動。

本来なら7日7晩の詠唱と、500人を超える贄を必要とするらしい。


「なっ、き・・・ひっ・・・」


苦しげな声を出す。

いや、口は動くはずだぞ?

身体が動かないから、印は結べないけど。


「強化、封印」


一応、魔法構築の阻害も付与しておく。

身体が麻痺していても魔法は使えるからな。


魔王軍は速攻で殺した方が良いのだが、情報収集も必要だからな。

決して、美人だから、とか、あわよくば、とかは考えていない。


「くっ・・・殺せ!」


魔族が叫ぶ。

叫びつつ、魔力を走らせて、魔法の解呪を狙っている。

早いな。

こいつ、相当強い。


「ダーリン、殺さないの?」


「まあ待て、こいつは利用価値がある」


そう言うと、魔族を見る。

美しい顔・・・王冠の様な金髪に、燃える様な紅い眼。

美味しそうな口。

凛とした声・・・その声でエロく鳴けば、最高だろうな。


黒光りする鎧。

全身を覆うそれは、体型を完全に隠してしまっている。

残念だが、想像の上ではスタイルが良さそうだ。

控え目なのを恥ずかしがっててもそれはそれで。


「な、何をする気ですか?!その嫌らしい目をやめなさい!」


俺の舐める様な視線に気付いたのか、魔族は麻痺と封印の解析を中断し、叫ぶ。


「・・・色ボケした魔族もいるんだね、立場が分かってるのかな」


フィンが呆れた様に吐き出す。


さて・・・


情報収集。

とりあえず、状況を伝えるか。

相手は混乱している。

短文で、確実な情報伝達を。


魔族の耳元に口を寄せ。


「今、お前の仲間の所に、俺の仲間が向かっている」


「・・・城に?!」


城勤めか。

レミアが向かった城かな。


「最近、魔王軍の幹部や魔獣が殺されているな?あれは我々だ」


俺はそう言うと、魔族の顎を持ち、魔獣、エルダートレントの残骸を見せる。


「リリシア?!」


魔族が叫ぶ。

知り合い・・・?

いや、俺達襲われた側だからね。

正当防衛。

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