第29話 何かを隠している
「今のままでは魔王に傷1つつける事が出来るかどうか・・・」
俺の、深刻な声音に、
「いや・・・私のお前に対する想いは、凄まじい。恐らく、歴代の神器所有者が扱う力とは、比べ物にならない筈だ。今のままでも容易だろう」
恐らく、神器作った人も、想定してなかったんだろうなあ。
正に
最近、魔王の側近っぽいのを、相手に気づかれる前に瞬殺してたもんな。
神器の威力が上がり過ぎて、ステータス補正効果まで暴走しているらしい。
だが、諦める訳にはいかない。
そこに、憧れの双丘が有る限り。
「レミアの胸、凄く綺麗なんだろうな。見せて欲しいなあ」
「なっ」
理性で抑え込んでしまえるからだ。
だが。
お願い、すると、かなり逆らい難い様だ。
「お前、フィンやマリン殿と、婚約をしたのだろう?私に手を出すのは不誠実ではないか」
ぐさり。
・・・ですよね。
いや、3番目、4番目の側室を増やす、という形なら、恐らく許される。
だが、他国の王女たるレミアでは、フィンを頂点とするハーレムには入れない。
更に、レミアには心に決めた相手がいるのだ。
「・・・レミアの言う通りだ。レミアは、フィンやマリンとは違い、将来決まった人がいる。レミアにはこう言う事は、すべきでは無い、な」
素直に謝る。
レミアも困るし、フィンやマリンにも失礼だ。
「もうしてくれないのか?!」
?!
レミアが泣きそうになりながら言う。
「いや・・・そのだな。チャームの影響で、そなたに耐え切れない愛しさを感じているのだ。苦しいくらいにな。昼間も・・・苦しくて、妬ましくて、仕方が無かった」
・・・やはり、苦しいんだな。
「レミア、やっぱり、1度解除した方が・・・」
冷静にならないと、戦いどころでは無くなる。
「エイコク殿、勘違いしないで欲しい。私はそなたが好きだ。そして、今、この上なく幸せなのだよ。今こうして横にいるだけで、今迄の人生が色褪せるくらい、幸せを感じている。これが
「レミア・・・」
レミアの様な美人に、そして、憧れの女性に、此処まで言われて。
当然、凄く嬉しい。
だが、レミアは、フィンやマリンとは違う。
これは、俺の
その事実が、俺を冷静にさせる。
悲しさと、虚しさ。
俺は、俺自身を嘲笑する。
「だいたいだな、私には確かに婚約者はいるが、恋心を復活させる為の訓練相手。相手に対して恋愛感情が有る訳では無い。政治的にも、結婚が必要な訳では無い。正式に婚約している訳でも無いのだ」
「そうなのか・・・?」
相手はその気かも知れないが。
「そもそも・・・そなたが邪術士などでなければ、そなたの護衛を兼ねて、私はお前の旅についていこうとしていたのだぞ。当時の私に恋愛感情は無かったが、一緒にすごして快い存在ではあったのだ」
「そうだったのか・・・?」
あれ。
ひょっとして、旅に出た後にこっそりやればワンチャンあった・・・?
「フィンが言い出さなければ、私がそなたを迎える事も考えていた・・・いや、そなたに求められれば、応えていた。いや──」
レミアが言葉を区切り。
「今からでも、求められれば、応じよう。先に手を上げたフィンに不義理な事はしないが。そなたが私を求めるなら」
「レミア・・・」
フィンとマリンか、レミアか。
まさかレミアが参戦するとは。
憧れの存在、俺が道を誤ったきっかけ・・・いや、道を誤ろうと決心させた存在。
一目惚れ、だったんだと思う。
最初に見た瞬間、釘付けになった。
美しい、女神の様な存在。
レミアが、言いにくそうに切り出す。
「エイコク殿、これは言わないでおこうと思っていたのだが・・・フィンとマリンには気を付けて欲しい。何かを隠している気がする。フィンは、聡明だ。常に理性で行動する。優しいが・・・正しい選択をする。その選択が、エイコク殿の望みと一致しない可能性は、有る」
フィンが・・・?
「フィンの事は、私も信じている。だが、心に留めておいて欲しい」
何となく、分かる。
すべて、レミアの本音だろう。
「有難う、レミア。でも、俺は──」
「フィンが、好きなのだな」
くすり。
レミアが、悲しげに笑みを浮かべる。
「私は、本音を話すのが、いや──自分に気付くのが遅かった」
レミアが呟く。
確かに、最初の頃、フィンと会う前なら、レミアの誘いに二つ返事で乗っただろう。
「レミア、俺は・・・」
「私も、自分を偽るのは止めよう。そなたを、振り向かせたい。この今の焼ける様な恋心は偽りでも、そなたに好意を持っていたのは確かなのだ」
レミアはそう言うと、微笑んだ。
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