第28話 勘違いしないで下さいね
夜。
マリンに誘われ、少し離れた場所に。
目的は分かっている。
昼間の訂正か、それとも、金銭関連の取り決めか。
マリンが、普段は絶やさない笑みを、消している。
真面目な話、だ。
いきなり帰らせてくれ、とは言わない筈だが。
今帰られたら困る。
料理の能力に物資の運搬──いや、それ以上に、かけがえのない存在になっている。
別れたくない。
「昼間の件ですが」
マリンが切り出す。
訂正、否定、条件追加・・・どれだろう。
「あんな形になってしまいましたが、勘違いしないで下さいね?」
圧し殺した、感情を伴わない声。
やはり、否定。
・・・そろそろ、潮時か。
都合良く、レミアとフィンから離れた場所に誘い出された。
フィンには、気付かれるかも知れない。
でも、マリンを逃したくない。
勘違いしないで欲しい。
俺にも道徳は有るし、分別もある。
良心の呵責は感じるが・・・それにも増して、マリンは魅力的なのだ。
俺は・・・俺の為に・・・全力を尽くす。
「そうか・・・」
俺は、覚悟を決め、そう頷く。
「別に、あの場を切り抜ける為に、婚約を受け入れた訳では無いですからね。貴方の事が──その──好きだから、一緒になりたいから、受けたんですからね」
あれ。
マリンが真っ赤になって、一気に吐き出す。
「マリン・・・」
やばい、マリンが、込めていた力が抜け、不安と期待が入り混じった目で、見上げてくる。
可愛い過ぎる。
「あの・・・さっきの、私が将来の嫁って・・・本気・・・ですよね?」
「勿論だよ。マリン、嬉しいよ」
そっと腰に手を回す。
じっとりと湿っている。
息が荒い。
・・・俺も、人の事は言え無い。
「お前は、俺の嫁だ。俺に、一生ついて来い」
「はい」
抱き寄せると、マリンが力を抜く。
このまま、続きもできそうだが・・・あまり離れている訳にもいかない。
マリンの、俺の呼吸が落ち着くのを待って、
「戻ろうか」
「はい」
マリンが、喜びを噛み殺す様な顔で頷く。
・・・自制心、自制心。
帰り道。
マリンが耳元で囁く。
「そう言えば・・・私はスキル、『耐性:すべて』が有るので、魅了は効かないですよ?」
ちくしょう。
俺の唯一の武器が。
と言うか、マリン、スキルポイントおかしくないか?
どれだけスキル有るんだ?
--
深夜。
不寝番。
今日は、レミアとペアだ。
フィンかマリンなら、適当にセクハラしていれば終わるのだが・・・
レミアとだとそう言う訳にはいかない。
正直、会話に困る。
「なあ、レミア」
眠いのだろうか。
俺にもたれ掛かり、無言でいたレミアに声をかける。
「ひゃ、ひゃい?!」
「レミア、胸を見せてくれないか?」
「な?!」
レミアが姿勢を正し、こちらを見る。
「勘違いしないでくれ。これは、魔王を倒す為だ。俺への想いを募らせれば、それだけ魔王を倒すのが容易となる」
「・・・それは・・・そうなのだが・・・」
やはり上手くいかないか。
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