第25話 中に入りたいな
「じゃあ、食料を買い込んで、いっぱい積んでいこう」
俺はそう宣言した。
長期保存がきく干し肉や乾パン。
この街は、旅の準備を整えるには便利な街だ。
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「こね・・・こうか・・・?」
「エイコクさん、上手ですよ」
パン作り。
自身もパンを作る手を止めず、マリンが褒めてくれる。
可愛い女の子に褒められて、結構素直に嬉しい。
レミアとフィンは、見学モード。
自分達が作るより、俺達が作った方が美味しいから、と。
俺と、レミア達に、腕に差は無いからな?
何でパン作りかと言うと・・・
マリンの固有スキルは、異空間に収納した瞬間に、時間が止まることが分かったからだ。
乾パン等も当然積むが、少しは美味しい物を、と。
炊いた米に、焼きたてのパン、熱々のスープ。
少しだけ持って行く事になったのだ。
時間が止まる、ってのも異常らしく、レミアもフィンも驚いていた。
ちなみに・・・本人が死亡すると、2度と出せないらしい。
黒獅子シリーズ・・・
そもそも、マリンが死ぬ様な状況にはさせないけど。
「後は、焼き上がるのを待つだけですね・・・他に積み込む荷物は?」
マリンが尋ねる。
「持ってこさせた」
フィンが、兵士に運ばせたのは・・・乾パンに、水に、ワインに・・・
「多過ぎるだろう」
レミアが呆れた様に言う。
「持てるだけで良い」
フィンが小首を振り、言う。
「領主に出させたのか・・・追加の罰的な」
「別に、食料の供出は、罰と言う訳では無いよ」
俺の言葉を、フィンが否定する。
「魔王討伐は、この世界の悲願だ。どちらにせよ、協力は惜しまないさ」
レミアが言う。
そう言えばそうか。
・・・流石に、家宝は気になるだろうけど。
「入りました」
食料を収納したマリンが言う。
「「入ったのか?!」」
レミアとフィンが驚く。
「・・・何故、貴方の様な方が、在野で宿屋を経営しておられるのか・・・」
兵士ががっくりとして言う。
チート能力者くらい、探せば意外と居るんじゃね?
「後は・・・矢とか、槍が欲しいですね」
マリンが呟く。
「矢や槍?どうするのだ?」
レミアが尋ねる。
「こうします」
マリンが壁を指差し、
すこん
壁に矢が刺さる。
「収納物が出る速度と方向を制御すれば、投擲武器くらいなら扱えます」
マリンが淡々と告げる。
「やっぱり、お前非戦闘職じゃないよな」
俺が呻く。
コスパは悪そう・・・いや、水や石でも良いから、絶対戦えるだろ。
結局、銀矢や火矢、火薬、衝撃で爆発する宝玉・・・オリハルコンの槍やミスリルの槍、魔剣等、幾つかの強力武器が格納された。
普段はマリンは戦う必要が無く、いざという時に使うなら強い武器が良い、という判断だ。
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ガサ・・・
鬱蒼とした森を歩く。
「街道を歩きたい・・・疲れた・・・」
「エイコク殿・・・街道を行くと魔族に見つかる、と説明したではないか」
俺の嘆きに、レミアが困った様に言う。
魔族領。
魔王復活後、魔族に負け、支配された地。
街道まで監視が徹底している訳では無いが、偵察や監視用魔物は居るらしい。
で、警戒が薄そうな森の中を進む。
「少し休憩されますか?」
マリンが心配そうに言う。
マリンはメイド服から、動きやすい服装に着替えている。
基礎体力が剣士だからだろう、俺と違って疲れた様子は無い。
「マリンのアイテムボックスの中に俺を入れてくれよ」
「無生物じゃないと入らないですよ・・・」
俺の頼みを、マリンが切って捨てる。
「マリンの中に入りたいな」
「・・・日が高いうちから何を言ってるんですか」
耳元で囁くと、何を想像したのか、赤くなって怒るマリン。
日が沈んだら良いのかな?
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