第10話 待ちきれなくて

「やほー、レミア」


抑揚のない声で挨拶をする。


「・・・フィン?!約束は明日の筈だろ?!」


・・・ああ。

後から会うってそういう。


「待ちきれなくてね、会いに来たよ」


「・・・フィン・・・私も・・・久々に会えて嬉しいよ」


誰に会いに来たのか。


「早速で悪いが、少し重要な話をしたい・・・砦の機密室を借りる予定だったが・・・この宿にも機密室は有る。そこで話をしようか」


「構わないよ。こちらも魔術師を連れてきている。念のため、外から更に機密魔法を重ね崖しよう」


「・・・えらく準備が良いな」


レミアが驚いた声を出す。

展開の予想がついていたんでしょうね。


そして・・・


「早速だが、そうだな・・・」


部屋に入り。

何から話すか、話を組み立てているレミアを。


「他人に恋愛感情を抱かせる魔法、または固有能力ユニークスキルを持つ者が見つかった。レミアの神器が真の力を発揮できるようになり、魔王討伐に乗り出した・・・が、念を入れるため、と、その力の所持者を護る為、もう1人の神器所持者の力が必要になった・・・それで、僕の所に依頼に来た。それであっているかな?」


レミアが目を見開き。


「そうだ。流石だな・・・まさか、情報を得ていたのか?」


「そうだね。そんなところだよ」


フィンが頷く。


「それで・・・ダーリンの紹介をしてくれるかな?」


「ダーリン?」


フィンの発言に、レミアがうろんな目をする。

フィンを覆っていた余裕のオーラが、崩れる。


「・・・エイコク殿?」


「・・・はい」


全部喋らされた。


--


俺とフィンが並んで座り、レミアが怒っている。


「・・・まったく、迂闊に愛属チャームを使うな。本当に大変な事になるんだぞ?今回は悪い結果にはならなかったが・・・」


「ごめん・・・」


「ごめんなさい・・・」


俺と、フィンが謝る。

いや、俺はともかく、なんでさっきからフィンが一緒に並んで怒られているんだろ。


「何故フィンまで・・・フィンは被害者だ──」


そこまで言って、何かに気付いたレミアが。


「・・・フィン、まさか、エイコク殿の傍に行きたいが為に、そうやって横に並んでいるんじゃないだろうな?」


「フィン・・・悪い子だから・・・」


「・・・なあ、さっき待ちきれないって言ったのは」


「レミア、さっきの護衛の依頼の件だけど、受けても良いよ」


「嫌なら断っても良いんだが」


「受けさせて下さい」


折れた。


「・・・取り敢えず、受けてもらえるのは有り難い。これで・・・魔王領に潜入する戦力は整った。頭さえ叩けば、幹部連中は後からでも何とかなるだろう」


わふ


フィンが俺に抱きついてくる。

わ、柔らかい。


「明日も早いし、僕もダーリンと愛の確認が有るし・・・もう寝ましょう」


お、フィンはオーケーな感じの。


「・・・フィンよ。まさか・・・お前・・・王家の責務を損なう様な事はしないだろうな?」


「しないよ?」


しないのか。


レミアが言い直す。


「エイコク殿と・・・その・・・肉体的接触を・・・その・・・しないだろうな?」


「ふつつか者ですがよろしく御願いします」


ぽふ


フィンが再び抱きつく。

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