君の跡

みやしろん

君の跡

 フェンスに囲まれた広大な敷地。

 そこには多種多様の大きな機械と、廃棄されたロボットの山があった。

 山の下の方で、彼は頭と右肩だけを出し、じっと夕暮れ空を見上げている。

 明日には溶鉱炉に投げ込まれ、ドロドロの金属になってリサイクル。再び何処かのロボットになる。

 たぶんこの体は同じことを何回も繰り返しているのだろう。もしかしたら捨てられるたびに同じことを考えているのかも。

 さて次はどんなロボットになるのやら。そんなこと知る由もないが。

 ふと側に影が立った。彼はかろうじて動く首を巡らせて目を向ける。

 少女だ。制服を着ている。歳は十代半ばくらいか。

「ここは関係者以外立ち入り禁止のはずだけど」

 彼が話しかけると、少女は驚いて彼を見下ろした。

「電源が入ってるなんて、珍しいわね」

「そうなの? そういえば皆しゃべらないな」

 聞こえるのは工場の機械音とカラスの鳴き声だけ。

「もしかして君は、不法侵入常習犯?」

「だってそこのフェンス、穴空いてるんだもん」

 彼は見ようとしたが、今の体勢では無理だったので諦めた。

「女の子が見て面白い物があるとは思えないけど」

 言っている側から新しいスクラップがクレーンで運ばれ、山を高くする。少女は少し下がった。

「ほら」

「いつものことよ」

 少女は動じない。

「何が楽しくてここに来るんだい?」

「楽しいわけじゃないわ。多感なお年頃にはいろいろあるのよ。……ねぇ、それよりさ」

「何?」

「なんで捨てられたの?」

「片足を無くしたから」

 彼の答えに少女は眉をひそめた。

「それだけ?」

「ご主人様にとっては大事だったんじゃない? それにあの人、新し物好きだし」

「……悲しくないの? そんな簡単に捨てられて」

「僕等ロボットにそういう感情はないよ。あったら世の中ややこしくなると思わないかい?」

 少女は答えない。厳しい表情でただ彼を見下ろす。

「ロボットは人の道具だからね。必要なくなったら手放されるのが運命さ。人には人の在り方があるように、ロボットにはロボットの在り方がある。その一つがこれってだけの話さ」

 少女は彼の傍らにかがみ、その冷たい頬に触れた。

「……でも、もし君が僕等を憐れんでくれるなら、僕の兄弟達を大切にしてあげてよ。自覚できないだろうけど、たぶん幸せだと思うよ」

「……うん」




 ――フェンスに囲まれた広大な敷地の中では、捨てられた無数のロボット達がリサイクルに回され、新しいロボットの一部となる。

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君の跡 みやしろん @gizen-m

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