第31話 五声(7)
(やっぱりやればできる……。マミ、君はやはり召喚士として群を抜いている)
トールはあらかたの暴走したグラディスを倒し終わった後に自分のマスターに想いを馳せていた。
トールの実力なら残ったグラディス程度なら余所見をしていても倒すのに苦労することはないのだ。
「ヴォルト。外はどうだ?」
「―……」
「そうか、問題ないか。だがもう少し外から見ていてくれ。隠れている個体がいるかもしれない。外にシルフも回す」
「―……!」
「相性が悪い?索敵能力が高いのはお前たち二人だ。協力してくれ。俺からのお願いだよ」
ヴォルトは言葉を話すことはできない。だからコルニキアの人間では意思疎通が取れず、聖晶世界の存在でも意思疎通ができる存在は数少なく、煙たがられている。
そんなヴォルトにトールが初めて会ったのは九歳の時だった。
ヴォルトの言っていることは理解できたのだが、ヴォルトの方が相手をしてくれなかった。どれだけ話しかけても無視されてしまったのだ。ある時は雷撃を飛ばされたこともあった。
そんな繰り返しでトールが大怪我を負ったこともあった。それでも何度も逢いに行くことを諦めることはなかった。
トールはどうしてもヴォルトと友達になりたかった。
四大属性の上級精霊とその時すでに友達と呼べるような間柄だったからではない。そうやって一人でいようとするヴォルトが、それまでの自分と似ていたからだった。
トールは七歳の時に母親を亡くしていた。父親に至っては産まれる前に亡くなっている。
母親を亡くした直後のトールは誰とも距離を置き、一人でいることを望んでいた。この時すでにトールの実力は他のグラディスですら圧倒できる力を持っていたのだ。誰も近付くことはできなかった。
それを克服するきっかけがあり、そこからトールは今のようにまた他の存在と関係を築くようになった。
その時知ったのがヴォルトの存在だった。
意思疎通がほとんどできず、強すぎる力で近寄った者を追い払う。トールと似すぎていたのだ。
トールは希少なことにヴォルトと会話ができ、そこから一年かけてずっとヴォルトの元を訪れた。トールは力でぶつかり合うことなどせず、根気で友達になろうと言い続けた。
それで今の関係ができあがったのだ。
「―……」
「ああ、いいとも。ただし、人間や建物に被害を出すなよ。それが暴れる条件だ」
ヴォルトは上級精霊の中でも強い力を持っている。雷を操る力だけを考えたら幻想級に区分しても文句はないほどなのだ。
ただそういった区分は力だけで決まることではない。人間が決めているとコルニキアでは考えられているのだろうが、それは大きな間違いだった。
聖晶世界には聖晶世界の、
その規則をフーバー・デオことルフィア・シィリィとジュン・ルイベスがコルニキアに広めただけであり、それに召喚省が則っているだけなのだ。
「あと少しだな……」
マミの結界は有用で、外側にいる暴走したグラディスは減り始めていた。これ以上数が増えないのであれば、クレアに頑張ってもらえば周りの人間は安堵できる。
他にやることといえば怪我人の救出だ。クレアが一番危ない場所にいた人間たちを最初の方に避難させただけで、まだ暴走したグラディスの周りに人間は残っている。
致命傷というわけではなく、腰を抜かしていたり、足を怪我していて動けない人間がいたが、それでも暴走したグラディスたちの意識がマミ、クレア、トールの三人に向いていたため、襲われるということもなかった。
そろそろ数も減ってきたので、そういった人たちの救援をすべきだった。実際にマミは少しずつ迎撃から救助へと転換し始めている。
「ウンディーネ、ノーム。人間の救助に回ってくれ。俺が援護する。イフリートはそのままそこにいる人間たちの護衛」
「―わかったのじゃ」
「―はい、
「―俺も暴れたいんだがな……」
「お前はこの前十分暴れさせただろ?」
トールが青白い電撃を飛ばしたことで道を作り、そこを通ってウンディーネとノームが人間を抱きかかえていた。そのままヒュイカがいる場所へ連れていき、あとはそこの人間たちに任せていた。
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