第28話 五声(4)
「ヒュイカ、大丈夫か?」
ヒュイカが腰を抜かして助けられた時には、目の前に一人の大きな男の人が立っていた。
今目の前に迫っていた脅威を取り除いてくれたのはこの人が放ってくれた電撃によるものだ。マミが救援として呼んだのはわかるが、ヒュイカからしてみれば来てくれるとは思っていなかった。
二十代ほどの、それなりに引き締まった体つき。薄緑色の肩までかかる長髪に、夏だというのに暑くないのかと思う足元ぎりぎりまである青色のローブ。人を引き込むような、セピア色の鋭い双眸。
ヒュイカはそんな人が心配してかけてくれた言葉に返すことができなかった。来てくれた嬉しさと、その前までの恐怖が混ざって動くどころか口すら動かすことはできなかった。
「ふむ、まあ動けなくても仕方がないか。それにしても無防備すぎないか?避難した生徒を誰も守っていないだなんて。さすがにウォーターフェアリー五体では足りないだろう」
そう言って彼は両手から召喚の光を出した。中から出てきたのは三体の上級精霊。イフリート、ウンディーネ、シルフ。シルフは風の上級精霊であり、一メートル程度の少女に小さな羽が生えている。
そしてそこら辺に落ちていた石を拾い、もう一度召喚を行った。今度出てきたのは土属性の上級精霊ノーム。これで四大属性と呼ばれる上級精霊が全て揃ったことになる。
ここは首都のコロシアムではないため、そんなことができるトールに対してざわめきが起こった。メッサのコロシアムの情報を調べていない人にはトールのことはわからないため、このざわめきは起こって当たり前だとも言える。
「お前たち、この子たちを守ってくれ。俺はマミの方に行く」
「あの、トールさん……。ヴォルトは、召喚しないんですか?」
ヒュイカがようやく言えた言葉だった。お礼よりも先にそんな言葉が出てしまった。
ヒュイカが知っているトールのことはイフリートとヴォルトを召喚したこと、あとは雷神トールと通り名をつけられたことぐらいなのだ。
「ヴォルトなら外にいる。あぶれたやつを倒してもらうつもりだ」
「そうですか……」
「じゃ、行ってくる。ここにいる人間は怪我したくなかったら動くなよ?精霊が守ってくれるからな」
トールはそうして走り出した。その後ろ姿をヒュイカは見守ることしかできなかった。
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