第13話 二声(5)
そしてしばらく勉強をした後、真っ先に集中力がなくなったのは案の定クレアだった。
「あー、疲れた!そろそろ休憩にしない?」
「そうだね。もう二時間ぐらい勉強してるし」
「あ、そうだマミ、聞いて聞いて。クレア、告白されたんだよ?」
「え、ホント⁉」
この三人で浮いた話など、出たことがなかった。このことはクレアがコンクールに出るかもしれないということより驚いたかもしれない。
「ホントホント。カフェテリアで食べてたら、いきなりね」
「びっくりしたさ。食事しようと思ってたのに、いきなり出鼻くじかれたわ」
「それでそれで⁉」
「それがクレアったら、断っちゃったのよ」
「えー」
恋バナ終了。もう終わってしまった。
「え、何で断っちゃったの?」
「顔が好みじゃなかったんだよねー」
一番相手を傷付けるかもしれない理由だった。顔は生まれつき決まっているのだから、本人の努力ではどうにもならない。
「相手は誰?」
「同じ一年生らしいけど、あたしは知らなかった。なんかね、試験でウィンドフェアリー召喚してるの見て尊敬したとか言われた」
「それって恋心芽生えたの昨日ってこと?」
「そうじゃない?よくわからないけど」
それなら顔が好みじゃなかったという理由とは別に、クレアが断ったことにも納得できた。昨日好きになって今日告白しました、というのはいきなりすぎる。それに、本当に好きかどうかもわからない。
「その人、クレアが好きじゃなくてクレアの召喚が好きって言ってるようなものじゃない」
「召喚もその人の一部だと私は思うよ?あなたの手料理が好きですっていうのと大差ないと思う」
「さすがに手料理と召喚は差があるんじゃない?マミ……」
「そうかな?あっ、じゃあさ、クレアの顔の好みってどんな人?」
「うーん……。一角獣の顔とか好みだね」
その発言にさすがに二人とも引いてしまった。
好みの人を聞いたはずだったのに、返ってきたのが聖晶世界にしか存在しない生き物だった。
「馬顔が好みってこと?」
「違うよ。一角獣っていつまでも撫でていたい顔してるよねってこと。そういう意味ではヒドラとかの顔も触ってみたいねえ!」
「話すり替わってるよ……。周りの男の子でカッコいいなって思う人いないの?先輩とかさ」
「人で?……ああ、グレイムさんは結構カッコいいよね。うん」
「クレアってグレイムさんのファンだったっけ?」
二人にとって初情報である。
今まで適度に話題に挙がることがあったが、そこまでクレアが深く話していることを見たことがない。
「違うけど、知ってる人で一番カッコいいって思うのはグレイムさんかなって。ただ歳の差とかが色々とね……」
「そんなに歳の差あったっけ?」
ヒュイカはそう言いながらPPCを出してグレイムについて調べ始めた。
PPC。ポケット・パーソナルコンピューターの略だ。
片手に納まる程度のパソコンで、今の人間の情報社会には欠かせない機械となっていた。
「え?グレイムさんってまだ二十五歳なんだ……」
「若っ!」
「それで国防軍の反喚部隊トップエース?モテるわけだねぇ」
「私たちと十歳しか変わらないんだ……」
「クレア!十歳なんて大差ないよ!ガンバ!」
「別にあたしグレイムさんのこと好きってわけじゃないんだけど……」
その後もヒュイカはPPCを使っていて、あるニュースを見付けたのか、PPCを二人に見せてきた。
「見て見て!今日のコロシアムで挑戦者がイフリートを召喚したんだって!しかもウチの地方で!」
「イフリート?すごいね」
マミは返事ができないまま肩を大きく震わせた。背中の方には嫌な汗が流れている。
コロシアムは定期的にその日の出来事をニュースとして取り上げる。下級だろうが上級だろうが代表者への挑戦だろうが、試合があればその情報を流すことは常識だった。
「下級の試合で?しかもこの人誰?初めて聞くけど……」
「トールって名前、聞いたことないけど……。マミは知ってる?」
「さ、さあ?その人、召喚士の資格は?それか、国防軍とかに所属してないの?」
「資格も持ってないし、軍にも所属してないね。今期のダークホースじゃない?ベルヴォアさんも危ないんじゃないの?」
「たしかベルヴォアさんも上級ランクの存在召喚できなかったっけ?」
マミはクレアたちと試合を見に行った時のことを思い出しながら答えていた。ベルヴォアは上級召喚を行って挑戦者に勝っていた。
そもそも上級ランクの存在を召喚できなかったら本戦では相手にもならない。
「やってたけど駄目だよ。あいつの召喚、無駄が多すぎる」
「無駄が多い?」
「たぶんそこまで聖晶世界のイメージできてないんじゃない?出してる光も形が不安定だし、出てきた生き物も嬉しそうじゃないからね」
まただ。クレアの言うことがいまいち理解できない。
召喚の時に現れる光は人それぞれだ。大きさは人によっても異なるし、召喚者が同じでも召喚する存在によっても異なる。そもそも光には定まった形が存在しない。
「あ。あんまり気にしないで。あたしの感覚だから」
「楽しそうじゃないっていうのは、生き物の表情が?」
「それも感覚。聖晶世界にいる時の穏やかさがなかったというか……。って、戦いに出されたら穏やかでいられないか。そうそう、マミが召喚した生き物もなんだか苦しそう」
「私?苦しそう?」
「なーんか酔ってるというか、食べすぎてお腹いっぱいというか……。万全じゃなさそう」
マミはいつも生き物を召喚したらすぐ聖晶世界に戻している。戦うようなこともないから、長い間呼ぶ必要がないのだ。
だから表情など気にしたことはなかった。
「でも私、いつも契約に健康な状態で現れてって入れてるよ?」
「契約も絶対じゃないからね。でもその一文除いたらゾンビでも出てきそう」
「そういうこと言わないでよ!召喚する時怖くなるでしょ!」
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