第10話 二声(2)
女子寮の外へと出ると、何故か敷地の外にトールがいた。マミが部屋から出る時は部屋にいた。どうやって出てきたかわからない。もちろん鍵も閉めてきた。
「どうして先にいるの?まさか、窓開けて飛び降りてきたとか?」
「いや。まぁ、俺の力だ。そうとしか言えない」
「やっぱりカメレオンみたいに姿隠せるんじゃないの?」
「やろうと思えばできるかもしれない。だが、そんなことはしていないさ。……敷地から出たとはいえ、ここにずっといるのは問題じゃないか?誰かに見られるかもしれない」
「そうだね。行こうか」
マミが先を歩き、コロシアムへと向かった。そのためには街中を通らなければならない。
メッサ地方リンネル。
メッサ地方の中心都市であり、商業が活発だ。コルニキアの物はリンネルに来れば全て集まるとさえ言われている。首都があるサイナム地方の隣ということで、交通網も都市構造もかなり発展している。人口はコルニキアの都市で二番目に多い。
他の街や村と大きく違うのは存在している召喚された存在だ。ハーピーや火属性のカーバンクルなど、様々な生き物が人と一緒に行き帰している。お店で働いている生き物すらいるほどだ。
そういった事情もあって、様々な面で都市は発達している。
マミが通うフェイデリウス上級学校も、コルニキアで三番目に頭の良い学校だ。クレアの学力でよく入れたなと真剣に思う。召喚に重きが置かれているという事情があるのだろうが。
都市の商業区に着くと、活気のある声が聞こえてきた。店の前には店員が客を呼び込むために声を張り上げている。
「すごい活気だな」
「でしょ?初めて来る人は皆驚くよ。こんなの見たことないって」
「目移りしないか?こんなに店が多くて、聖晶世界の生き物も多ければ」
「最初の内はね。けどもう慣れたから」
マミはメッサ地方出身だが、リンネルが故郷じゃない。学校に通うことになって引っ越してきた時は大変だった。見たことのない生き物は多いし、どこの店に入ればいいのかわからなかったのだ。
二人はスーパーがある場所や、使いそうなお店を紹介しながらうろついた。美味しいお店なども紹介した。
「コロシアムはこの先。そろそろ建物が見えるんじゃないかな?」
「行くのは初めてか?」
「一回だけ学校の皆で行ったよ。メッサ地方代表候補のベルヴォアさんに挑戦者が現れた時にね」
「有名なのか?」
「メッサでは一番強いんじゃないかな?挑戦者も負けてたし。本戦でベスト四に残ったこともあるから」
ベルヴォアの本戦出場数は四回。中々の回数であり、世界的に見ても強い召喚士だ。ただ、今のコロシアム覇者と、前覇者が強すぎるのだ。
二重召喚もそうだが、召喚にかかる時間が本当に短い。
ベルヴォアが一体生き物を召喚する間に、今の覇者が三体召喚したのは去年の本戦の出来事だ。
「でも、グレイムさんと戦ったら負けるんじゃないかな」
「グレイム?そいつも召喚士なのか?」
「そうだけど、国防軍の反喚部隊トップエース。グレイム・ツァルヴァーさんね。すごい有名人だから名前ぐらい覚えておいた方がいいよ。メッサで知らない人はいないくらいだから。腕はすっごい良い。けど召喚するのは武器ばっかりなんだよね」
「変わり者もいるものだな。生き物を召喚しない召喚士か……」
トールは誰もが思う疑問を挙げていた。
召喚士なら聖晶世界の生き物を召喚するのが常識だと思われている。武器を召喚する召喚士もいないことはないのだが、生き物を一切召喚しないのはグレイムくらいだ。
「反喚部隊ってことは、トールの天敵だよね」
「戦う理由が見当たらないな。別に悪さをしたわけでもないのに」
「今からしようとしてるでしょ。あ、見えたよ。あれ」
召喚の発展する前からあったとされる肉体と肉体をぶつけ合い、時代の覇者を選出するための、またはその勇猛な姿を観戦するためのコロシアム。それをモチーフにした建物。
本来は武術を競う場所だったのだが、今はもっぱら召喚のための場所だ。武術としてのコロシアムの機能は今や残していない。
「ここまで大きい必要はあるのか?」
「ベルヴォアさんの試合の時は、結構埋まるよ。代表決定は前の代表者に勝つことだから。挑戦者が出ない限り、ベルヴォアさんが試合をやることはないからね」
「俺には関係ないな。金が稼げればいい」
そう言ってトールはコロシアムへと入っていった。それに遅れて、マミも中へと入っていった。
お金も持っていないのに、どうやって参加するというのだろうか。
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