木曜日
次の日。
「おはよう。昨日は災難だったね」
「おはよう。本当に、災難だった。結局、放課後も僕、付けてもらえなかったんだよ」
「あぁ、そういえば放課後もだったね。見てたよ。ちょっと遠くに君の持ち主を見つけたけど、彼は素手のままだった」
「そうなんだよー。ホント、前の手袋を探していなかったとしても、もうちょっと使ってほしいよね。でもその代わりに、一つビッグニュースがあるんだ」
「あ、もしかして、片方になった手袋、見つけたのかい?」
「そう! そうなんだよ! 多分、相手の方もこっちに気づいてると思うんだけど、残念ながら話すことは出来なかった。結構、試行錯誤したんだけど、全然コミュニケーションを取れなかった。気配すらなかったし、あれは無理だよ」
「まぁ僕も、何回かやってみようとしたことがあるんだけど、出来たことは一回も無いしね」
「あーあ、勿体ないなぁ。僕の持ち主の気が狂って、いきなりパペットマペットを始めない限りは、今のところ直接話ができる望みはないよ」
「フフッ、パペットマペットねー」
今日はずいぶんと雑談が弾んでいる。一緒に協力する過程の中で、僕はこの手袋と結構仲良くなってきていた。
「さて、ちなみに君は、昨日の放課後に、何か分かったことはあったの?」
これは、僕から相手に向けて聞いた質問だ。
「あ、そうだった。昨日の放課後、運よく6日前に前の手袋に会ったっていう彼に会うことができたんだ」
「おぉ! なんならそっちの方がビッグニュースじゃん! それで、どうだった?」
「えっとねー……」
僕はかなり大きな期待を込めていたのだが、彼の表情は少しずつ曇っていった。
「……ちょっと残念なんだけど、思い当たる節がないって。彼は普通に一緒に遊んで、帰りの電車で君の持ち主が先に降りた。その時はまだ一緒に喋ってて、その後は見てないんだって」
「マジかー……」
頼みの綱だったんだけど、そこまで強力な情報とは言えなかった。
「でも、君が前の手袋を探してるっていう話は、かなり広まってきているんだ。この学校内なら、もう知らない手袋の方が少ないと思う。逆に、これで見つからなかったとしたら、ある可能性のある場所はかなり限定されてこない?」
……彼の言うとおりだ。何も、すべてをネガティブにとらえる必要はないのだ。
「確かに。これで僕の持ち主が、その友達に会ってから誰にも会っていないなら、もうほとんど電車の駅から僕の家まで帰る間に失くしたってことだしね」
「そうそう、そんなに厳しい状況でもないって。……あぁ、もうそろそろ学校につくね。じゃあ、また放課後か明日の朝、どうするか相談しよう。もう明日で1週間になっちゃうし、駅から家に帰る間も、万が一どこかに落ちていないか探してみてよ」
「分かった。無理だとは思うけど家でもなんとか話ができないか試してみるよ」
そして、結局、この日の放課後は手袋をつけてもらえたし、他の手袋たちと話すこともできたんだけど、学校から駅までの間、真新しい情報を得ることは出来なかった。
でも、この日の帰り道、それをかき消すかのようなすごいことがあった。"奇跡"と言ってもいいだろう。
朝、一緒に相談していた通りに、僕は駅から家までの間、僕は、もう片方の手袋をずっと探していたんだ。
そして、見つけた。
それがあったのは、公園の端っこにある柵の上。昨日の夜部屋の中で見つけた手袋と、完全に同じ手袋だった。
「あった! あれだ!」
僕は、その掛けてある手袋にも、僕の持ち主にも向かって、一生懸命呼びかけた。
僕の持ち主は僕をつけていたから、声を出すことは出来た。
「おーーい!! おーーい!!」
相手は何の反応も示さなかったが、僕は叫び続けていた。
もしかしたら伝わるかもしれないと思って、ずーっと叫んでいた。
……でも、その手袋には伝わらなかった。
はめてもらわないと聞こえないのだから、当然だ。
僕は、がむしゃらに叫んでいたが、最後まで思いは届かず、何の成果もなく家に帰ってきてしまった。
はぁ……はぁ……
その日は、持ち主の部屋にすら入ることができなかった。僕は、リビングにほっぽり出されたのだ。
あぁ、ダメだったんだ。折角見つけたのに――
はかなくて、むなしくて、何故だか涙が止まらなくなった。
どうして、これだけ頑張っているのに、僕の気持ちは伝わらないのか。
どうして、持ち主の行動一つで、こんなにも翻弄されなければならないのか。
どうして、どうして――
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