水曜日

 次の日の朝、僕はいつものように例の手袋と話をしていた。


「おはよう」


「おはよう。早速君が、前の手袋を探してるっていう話が広まってきているよ」


「いいね、話は広まれば広まるほど色々な手袋の情報が聞ける」


「それで、どう? 何か有益な情報はあったのかい?」


 僕は、昨日の放課後に周りの手袋の中の一つから聞いた話をした。

「うん。実はね、僕が買われた2日前、つまり今日の5日前に、僕の前の手袋を見たっていう情報をゲットしたんだ」


「なるほど。詳しいことは分かったのかい?」


「なんでも、友達と一緒に出掛けていたそうなんだ。それが誰で、どの手袋なのかが分かればもう少し話が進みそうなんだけどね」


「おぉ。5日前ならまだ良い方じゃないか。それじゃ、とりあえず今週中に見つけることを目標にしよう」


「ちなみに、その手袋が誰のことか、見当はつかない?」


「誰かまではちょっとよく分からないけど、君の持ち主の友達でしょ? 少なくともこの学校にはいるって考えれば、そこまで無理な話ではないと思うよ」


「その人とうまく巡り合えるかってところが問題なんだけどね。手袋同士、自由に意思疎通がとれると苦労しなくて済むんだけど」

 これは本当に思っている。誰かに付けられたもの同士でしか会話ができないなんて、どうしてこんな仕組みになっているんだろうか。


「いやー、どうにもそんなに便利じゃないんだよね。でも、この手袋界の強いネットワークは、それだからこそ生まれてくるものなんだと思うよ」

 まぁそれは確かに、そうかもしれないな。


 僕は、とりあえず当面の予定についての話を始めた。

「とにかく、今はこれ以上先に進む方法がないから、その5日前に会ったっていう手袋について探したいね。時間もそんなにないし、手袋づてでもいいからもう少し詳しい話を聞きたい」


「そうだね。大分近づいてきているとは思うから、僕もまた聞いてみる。ちなみに、もう片方の手袋はまだ見つかってないの?」


「それが、見える範囲のものは探してるんだけど、なかなか見つからないんだよね。今日も一応、探してみるよ。……あ!」


 何の気が変わったのか、僕の持ち主が付けていた手袋を外してしまった。


 うーん、もうほとんど話し終わっていたからよかったんだけど、持ち主の行動に僕らの行動が限定されるのが、なんとももどかしいな。大体、仮に前の手袋を見つけられたとして、それからどうすればいいんだろうか。


 そして、その日の放課後。恐れていたことが起きてしまった。僕の持ち主が手袋を付けなかったんだ。

 もしかして僕の持ち主は、基礎体温が人よりも高いんじゃないのか? 昨日の放課後に話した手袋たちにも話を聞きたかったのに。僕たちの持ち主の話し声は聞こえるし、きっと僕が入れられているポケットの外には昨日話した手袋がいると思うんだけど、どうにかならないのかな。


 でも、その代わりと言っては何だが良いこともあった。

 僕の持ち主が、初めて僕を彼の部屋にまで持ち込んだんだ。この家に来てから僕は、ずっとリビングにほっぽりだされていたから、これは大きな収穫。


 しかも、折角そこに入ったということで、周りをよく観察していると、凄いものを見つけた。

 僕は前の手袋の片割れを発見したのだ。


 一目見てびっくりして、僕は思わずその手袋に向かって呼びかけようとした。


「おーい!!」


 ……めちゃめちゃ全力で叫んだつもりだったんだけど、僕から声は全く出ていない。

 そうだった。僕らは付けられている時しか周りと会話ができないんだった。


 相手も、多分こっちに気づいてると思うんだけどな……


 前の手袋を見つけたのは嬉しかったが、それなのに僕にできることは何もなくて、僕はかえって虚しくなっただけだった。


 はぁ。タイムリミットは、あと2日だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る