元より仮初め

「此処が、天国…!!」

「ニャー!

久しいニャー!!」

見慣れた町の風景に、歓喜と安堵の混じる声で帰還を告げる。

『鬼はいないんだね、ていうか何も無いね此処。』

釈迦の神殿へ続く外れの更地ならば仕方無い。

{こんなに小さかったかぁ?}

「閻魔様に地形を取られているのです。皆様が在るべき場所に還りさえすれば、元の均衡を取り戻します。」

《速く還るぞ、我には戻る理由が有る》


[しかし何処に行けばいい?

地獄暮らしが長かったからの、天の家など覚えておらん]

「釈迦様より頂いた水晶が有れば容易なのですが…。」

祠の道を示す水晶、元は釈迦の物故天国の方が匠に扱えるだろう。

「私の水晶は砕けてしまいまして、手元に無いのです。」

「シュノボウ、持っていたわよね?」

「無くなっチャイマシター!」

「何で無くすのよ!」

皆水晶を持っていない。四獣は当然持ち合わせていない。

{どうすんだよ‥おい猫、お前持ってねぇか?}

《我か?》{違うお前じゃねぇ。}

{お前だお前、其処の猫!}

「……ニャ?」

あんぐり開けたマタオの口から、四つの光が放たれる。それは丁度、町の東西南北、総ての方角を指していた。

「マタオ君、飲み込んだのか?」

「このイシ不味かったニャ!」

『‥やっぱ面白いなぁ。』

四獣達の帰路は確保された。


「この先か‥」「そうだね。」

閻魔の神殿は釈迦の物と酷似した造りをしていた。故に部屋の前まで来る事は容易に出来、台座と垂れ幕も同じ形式で備えられていた。

「これから先はどうやって…?」

「招待された訳じゃねぇからな。入ろうにも入り口が無ぇんじゃあ‥」

【場所を譲ってくれるか、こんな扉某がこじ開けてくれる。】

麒麟が垂れ幕に角を当てがう。すると幕は膨らみ、隙間を開ける。

二人は遠慮をせずにこじ開けた穴から閻魔の部屋へ。

中へ入ると又もや同じ、何も無い真白な部屋。一つ釈迦と違うのは酒に塗れ、散らかっているという事だ。

「誰じゃあ貴様ら、勝手に入ってきおって!!」

酔いの廻った声で云う。

「俺達は釈迦サマに云われてきたんだ、お前をどうにかしろってよ。」

「お前等が四獣をどうにかした連中か、儂をどうにかしろだとぉ?

あの馬鹿女、何を考えてる。」

違和感を感じた、酒呑童子なる凄まじい化物と相対していたからだろうか、この閻魔からは酷い〝小物臭〟が漂う。

「あぁ?

お前麒麟か、久し振りだな!

都落ちの畜生が俺になんのようだ?」

【釈迦との和解に参った】

「和解だぁ?

ふざけておるのか、馬鹿者が!」


「和解してくれねぇらしいぞ?」

「…少し手荒だけど仕方ない‥。」

二人は背中の恩恵を引き抜き構えるが、其れは武器としてはお粗末なくたびれた形をしていた。

「なんだ其れは、からくりの腕か?

そんなモノで何をするつもりじゃ!」


『何でも出来るぞ、閻魔こおろぎや』

「なんだぁ?」

垂れる腕から声が聞こえる。

【来たか‥】「来たって何がだ?」

「まさか…!」【そのまさかだ。】

二本の腕が宙に浮き、女の姿を映し出す。

「貴様、釈迦か!?」

『見れば判る筈じゃ馬鹿者聞き返すな阿呆』

「何で釈迦様がこんな処に?」

『久し振りだな役立たずども。‥麒麟、目覚めたのだな。』

再開の挨拶を施すもお座なりに終わった。

「何故、こんな処に?」

『始めから決まっておったのじゃ、だから腕を持たせた。閻魔の部屋に出れるようにの』

四獣を取りに行くのは面倒だ、閻魔の処に行こうにも部屋が判らないという

事で使者を送り場所を探る。

「態々使いまで寄越しおって、ただで済むと思うかぁ!!」

怒りの圧に戦闘態勢に入る一行。


『よせよせ、其奴にそこまでの力はもう無い。四獣も祠へ還ったようだしの、今沙楽から連絡が入った。』

【天国の均衡は保たれた様だ】

酷く簡素に物事が進む。しかし此れが

釈迦の予想範囲。引き際というものは意外にあっさりしているものだ。

『来て貰って癪だが麒麟、二匹の猿を天へ送ってもらえんか、充分事を進めてくれたしの、お前も還ってかまわんぞ』

【相判った。】部屋の空間に穴を開け、天の町へ

『さてエンマ。四獣を奪った罰じゃ、存分に暇つぶしになってもらうぞ?』

「何をする、やめろ、やめろぉ!!」

長らく此れを望んでいたのだ。


【ほら、着いたぞ。お主等の町だ】

久々の故郷。その町並みは、随分と異なり、栄えていた。しかし其れが本来の天の姿で、以前が間違っていたのだ

面影を失う程の景色だったが、気付けば二人は口を揃えて町に云っていた。


「ただいま」と。

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