南の炎舞 朱雀

「一体何なのよ…。」

「また同じ処に、きりがないね‥。」

「霧はワンサカたってマスヨー!」

「これはモヤよ。」

行けども行けども振り出しへ逆戻り。

街を抜け進んだ先で踏み込んだ道に突如靄が架かり、視界を邪険に妨害されながら気が付くと見知らぬ森の分かれ道に立っていた。


「道は六通りしか無い。今まで通って来た道は三つ。」

「其れのどれも入り口に戻された。」

「いったい此処はドコなんデスカー!」

「あんたが迷ってどうすんのよ!!」

天の案内人もお手上げの迷いの森は、徐々に一行の体力を蝕んでいく。たったの六通りだが、一つ一つの道なりは遠く、長い。体感では、日が暮れる程足を動かしているが森の様子は変わらない。日暮れや昼夜などの概念が無い場所なのだろうか。


「セイラさん、どうするの?」

「どうするったって‥順当に進むなら一本一本渡っていくしか…。」

「足がオレちゃいマスヨー!」

「五月っ蝿いわねぇ!」「ヒィー!」

そもそもこの森は立地が不自然だ。何も無い土の野原を入り口とし、其処から正面に木々で区分けされた直線六つの道が並んでいる。全体は深い靄で覆われ、何かを誤魔化さんとしている。

「この場所、やっぱり変だ‥。」

明らかに不可解なのは、さっきまで三人が進んでいた祠へ続くであろう道とは方向も形式でまるで異なり、転移されたかの様に別の空間になっている事。そしてその森、後に続く六つの道全てにおいて、〝水晶が反応し光を放つ〟事だ。


「モヤがコイー!」「だから何よ!」

水晶が反応を示すという事は、転移され、飛ばされた訳では無く其処は正真正銘祠へ続く道筋という事になる。嘘偽り無いが、惑わせ誤魔化す道也が、人供を揶揄い遊んでいる。

「皆、遣り方を変えよう」

森との向き合い方を捕捉する提案を投げ掛け、発想の転換を図る。

「遣り方を変エル?」

「何か手があるの、セイメイ?」

「水晶は光っている、ということは何処かが祠へ繋がっているということだ。」

「シュノボウ、水晶を‥。」

「ドーゾ!」

水晶の欠片をセイメイに手渡す。

「今此処でも水晶は輝き続けてる、道を進まなくても反応をしてるんだ。」

「知ってイマスヨ?」「今更何よ?」

「本当に気付いてる‥?」

セイメイは水晶に伴うとある異常を把握していた。


「今まで三つの道を通って来たけど、水晶の光り方が道によって全然違うんだ。」

光の加減、輝き方、どれも異なる光を発していた。

「強い光を放てば出口に繋がっていると思ったけど、結局道は外れ、無駄な時間を割かれただけ。」

「だからこれから一人ずつ此れを持って、道を辿ろう。」

「ひとりで行けっていうの!?」

「他はドーするんデスカー!」

「此処で待機、誰かが出口に続く道に当たれば、外側から残りの二人を掬い出す事だって出来るかもしれない。」

憶測の咄、信用しない訳では無いがする程の核心を持つ訳でも無い。要素としては信じ難いが強い案だが‥。


「わかったわよ、行けばいいんでしょ!」

セイラが水晶を横取り、ぶっきら棒に云う。

「本当にいくんデスカー!?

何が起こるかワカリまセンヨー!」

誰よりも震え慄くシュノボウは、しつこい様だが天の案内人だ。

「もうとっくに嫌な目あってるし、何より筆頭の言い分なんでしょ、聞くって選択肢以外アタシ等にある?」

破天荒に見えて一番従順な部下である女は、地獄の飯屋の運び屋だ。

「じゃ、先に行ってるわね。御留守番宜しく‥。」

女は水晶を片手に早速と、靄の中に消えていった。

「イッテしまいマシタ…。」「…。」

標を失い、味方が減ると、妙に心が細くなる。提案通りの算法だが、どうなることやら。


「不気味な処ね、此処‥三人のときは気付かなかったわ。」

一人になると視界が広がり、情報量が増える。眼に入らなかったものが次々と角膜へ記録される。

「ふぅ、水晶いしには別に異常は無いわね。」

光を放ち続けているものの、筆頭が云う様な強い輝き、特殊な仕様の灯火は特に見られなかった。

「此の先に出口なんかあるのかしら?」

一本の通路。曲がり角は無い、複雑に迷う道も無い。唯真直に伸びる森の道。単純だが、力を奪う。人数が少ない分軽やかでは有るが、逆に云えば、三人分を一人で担う事になる。

「何‥光がっ‥!」

水晶の輝きが突然強まり、道を照らす。

「もしかして此の先に‥出口が…?」

期待を馳せ光を追う。森の景色など目もくれず、只々光を辿り走る。

「道が大きく‥続いてる!」

地べたを這う光は一本道を超え、広く新たな場所を示し導く。

「やったわ、遂に出口へ辿り着いたのよ‥!」

照らす彼方へ踏み締める。希望を抱え、飛び出した。

「…へ?」

セイラは顔を上げ唖然とした。

新たに行き着いたその場所で、先程別れた見知った顔が、そろって此方を見ていたからだ。

「失敗‥なの…?」

広く広がるその場所は、新たな場所でも何も無く元来た場所の入り口だった。

「期待して損した…。」

水晶の光が力無く萎んでいる。

「お疲れ様」「セイメイ‥。」

「次は僕が行くよ、皆待っててくれ」

次鋒は筆頭町人セイメイ。水晶を携え、五つ目の森へ‥。


地獄邸内 東南辺り空

「そろそろか‥いや、未だ遠いだろうな。特に奴の場合は…。」

雲を跳ね上げ闊歩する雷獣麒麟、事態を危惧しつつ南を目指す。

「人の子よ、呉々も辞めてくれ。奴に生身で向かうのだけはな…。」


「せめて某が出遭う迄は‥!」

空に浮かぶ白い綿が、黒々とした雷雲に変わる。


「はぁ‥。」「駄目だったのね。」

疲れのみを溜め入り口へと帰還する五つ目の勇者、残すはあと一つ。

「あとはアンタだけね、赤顔ちゃん」

「頼んだシュノボウ。」「ヒー!」

「何悲鳴上げてんのよ?」

己の番が終われば最後他人事のような振る舞いで扱われる。自ら収穫を得た訳では決して無いのだが‥。

「いくんデスカー!?」

「当たり前でしょ、アタシ達が行ってアンタがいかない理由わけが無いわよ。」

「……。」

「何震えてんのよ、案内人でしょ?」

「お客サマが、イナイのに案内人がツトまりマスカ!」

ごもっともだ。巡りたい人が存在しない場所を、先導する意味などまるで無い。此れは屁理屈でも云い逃れでも無く、紛れも無い周知の事実、正論だ。


「シュノボウ行って来てくれるかな?

力がどうしても必要なんだ。」

「…贔屓にしてくだサルお客サマがいるナラ仕方ありまセン。」

「有難う、助かるよ‥!」

現代の現世このよでは、あざといと称されるのだろうか。笑顔で媚を売り、嘘を仄めかす。今回彼の言葉自体は本当だが、振る舞いまでは判らない。森を抜け出す為、手段を選んではいられないのだろう。

「気をつけて行きなよー?」

「ヨージンのシヨーがありマセンヨ!」

肩を震わせながら奥へ消えていった。

「悪いねシュノボウ。でも嘘は、絶対に云わないから‥。」

悪意の自覚はしっかりと持ち合わせている。

「ウヒー!

こうもりデスカー!?」

「ヒヤー!か、からすモー!!」

基本的に黒い生き物に悲鳴を上げながら、出口を目指すシュノボウだが、手元にはしっかりと水晶を握っている。

「水晶サマ、貴方だけが頼りデス、ワタシを導いてくだサイマセー!」

この森にはもう一つ疑問点が存在する。迷い道を創り目眩しの靄を焚き、脚を惑わせる割には、直接的な脅威が極端に少ない。道を辿れば悪戯程度の脅かしは存在するが、危害を加え、傷付ける様な攻撃的対象は全く以って見られない。


単なる通り道なのか、別の在り方を有するのか。何れも然るべき脅威が無いのであれば、通るのみなら容易な所業。どんな弱者も矜持の遊びだ。

「アレ、出てきチャイまシター‥。」

「もう!?

早っ。ちゃんと通ってきたの、引き換えしたんじゃ、無いでしょうね!」

シュノボウにやけに厳しい咎人セイラ、通路通過の有無を疑う。

「トオッて来まシタ、水晶だってこのトーリ光り輝イテ…ってアレ?」

シュノボウの掌の水晶の光は、鈍く消えかけ点滅していた。

「光って無いじゃないのよー!」

「デスからさっき迄デ光り輝イテ…」

「やっぱりだ!!」「何よ‥!?」

奥でしゃがみ込んでいたセイメイが、納得の雄叫びをあげ、立ち上る。

「森の仕組みが判ったよ、やっぱり最初から出口なんて無かったんだ!」

「出口が無いって?」

「ドー云う事デスカー!!」

「いいかい?」

シュノボウの腕から水晶を取り上げ、解説を始める。

「シュノボウ…そしておそらくセイラさんもだと思うけど、道の中で突然水晶が大きく光りだした。」

「ええ。」「ソウデス」


「そして光り出して直ぐ入り口に戻された。」

「ソウデス」「…そうだけど何か?」

「其れは何でか、応は簡単。」

掌に乗せた水晶を三番目の入り口に差し込む。

「此処がみんなそういう箇所だから」

電源が入ったかの様に、鋭く輝く水晶の欠片。森の通路の入り口が、より水晶の反応する点となっている様だ。

「何で此処だけこんな仕様に?」

「罠デスカ‥?」

「罠‥ある種そうかも。」

「エー!!」「黙って聞きな‥。」

狼狽えるシュノボウを制止して言葉を耳に入れる。

「一つ云えるのは、此処が誰かの造った森って事と、出口は毎回替えてるって事。」

「出口を変えてる?」「そう。」

「四番目が仮に出口に続く通路だとして、僕達が其処を選んだ時点で入り口から切り取ってほかの列に挿げ替える。そうする事で出口に辿り着く事は無く、間違った道を選んだと処理されて元の場所へ戻ってくる。」

迷っていたのでは無い〝迷わされて〝いたのだ。セイメイ一行は知らぬ間に、如何様の賭博に付き合わされていた様だ。

「出口の改変‥狡い真似するわね。」

「シカシ其れが解っても、ドーヤッテ此処を抜け出すんデスカ?」

その通りだ、嘘偽りは解明しても償いが皆無。正直なモノの言葉より、愚者の戯言を真実とする。

「大丈夫、手はあるよ」

しかし筆頭の男はそれを許さない。善い嘘、悪い嘘、区別をせずに不正と見做し断罪する。

「セイラさん、槌、貸してくれますか?」

「これか?

‥ほら。」例の鉄槌を素直に渡す。

「六通りなら、数通りにすればいい」

誰かの例に習い、水晶を土に置き、槌を降ろす。

「よし、これで六つだ。」

水晶の欠片は更に細かく砕かれ、多少の大小あるものの、六粒に分解された。

「アンタ、やるわね…!」

「自我自サンでスカー?」「何がよ」

間接的に褒めているという事だろう。

「これを一つずつ‥入り口にっ‥と」

六つの通路の入り口に欠片を置き様子を見る。罠に罠を張るという愚行。だが今回ばかりはそれも名案に転ぶ。

「光り始めた‥。」

欠片が一斉に輝き始め、光りを放つ。

暫く経つと一律した輝きは疎らに散り始め、各々の照らし方を魅せ始める。

「同時には煌めかない、思った通りだ‥。」

雑に乱れがたつく光は、均一を保つ為、散布するのを止めお互いに反射を繰り返し、輝きを一点に纏め上げる。

「光が連結して一つに‥!」

通路に置かれた六つの内の一つのみが他の欠片を線で結び、纏めて光を放出させる。

「ま、眩シー!」「出口はあそこだ」

水晶の欠片が指し示したのは、四番目

の通路。その先に出口が続いている。

「四番目、アタシが進んだ道じゃないの‥誤魔化したわね、何処の誰だか知らないけど。」

放出された光は一閃となり通路を貫く。光を出し切った水晶は輝きを失い、唯の石として道に寝そべる。

「靄が晴れた‥」

影響を受けてか森の目眩しが消え、皆の視界を広げる。

「コレデ、出られるんデスカ?」

「うん。おそらくだけど、通路を進めば出口だよ。」

「さっさと行くわよ〜、出なきゃまた如何様されるかも‥。」

先陣に立ち還りを促す様は、余程詐欺師の改変が癪に触れ不快を煽ったと伺える。

「あ、そうだ赤顔ちゃん。欠片は回収しておいて、何が起こるか解らないから。」

人に指図し、見ているだけ。己で拾えの典型的所作である。

「さて、準備いいわね?

皆んな行くわよ!」

「……」「‥‥。」「…何よ?」

無視に近い態度、下手に張り切るセイラの様に愛想を尽かせたのか?

「セイラさん、そこの木‥」

「燃えてマス‥。」「えっ!?」

聖羅の傍らの木が燃えている。其処だけでは無い、全ての木々が、森全体が、紅い炎に包まれている。

「何よこれ〜!?」

「炎デス。」「黙れ赤顔!!」

「水晶が、輝いてる‥!」

シュノボウの懐の水晶が、新たな何かを呼んでいる。

其れは既に、直ぐ傍に佇みながら彼等を嘲笑っていた。


『御名答〜!

まさかそんな方法があったとはね驚きだよー!』

「誰?

何処にいるのよ!」セイラが吠える。

『久っ々に〝迷路〟で遊んでみたけど中々良いねぇ、愉しいよ。』

森が燃え尽き形を崩し、別の新たな空間へ入れ替わり、切り替わる。

『次は何で遊ぼうか?』

紅い炎を纏いし烈火の鳥が、住処であろう石の箱に脚を掛け嘴を尖らす。

「あれは、祠デスカ!?」

「て事はあの鳥が南の護り神、朱雀‥。」

「へぇ‥ホントに居たんだ神サマ!」

紅い鳥、炎を操るといった見た儘の印象だが方角の神、釈迦の四獣なのかは怪しい処だ。

『あんたら、何処から来た人達ぃ?

地獄の連中じゃないでしょ!』

軽快な言葉遣い、とてもじゃないが神と呼ぶような威厳を感じ取る事は出来ない。しかし其の眼は的確で、一行を一目見たのみで地獄外の住人だと判断した。

「ワ、ワタシ達は!」『待った。』

『いわなくても判るよ、釈迦の使い走りでしょ、背中のそれ、アイツの腕だよね?』

セイメイの背中に刺さる腕を彼は見落としてはいなかった。

『いつか来るだろうと思ったけど、やっぱり来たかぁ。天国あっちに還れって五月蝿いらしいからなアイツ』

一味の目的を己の近況の如く独り言に似た形式で口から滑り咄す故、伝えるべく文言が横から減っていき、無言で有り続けようとも円滑に事態が進行していく。


『なぁ、あんたら旅行って好きか?』

「旅行?」「何を聞くのさ突然‥」

進行途中で気まぐれに、関連性の皆無な問い掛けを皆に咬ます。

『俺は酷く凝っててよ、特に現世の現代で、〝リュウコウ〟ってのを探るのが堪らなく好きでよ!』

趣向の噺を揚々と語りながら、環境にも影響を及ぼす。

『あと他に好きなのが部屋の模様替えだ。』

祠のある朽ちた遺跡の様な地形は、ぐるりと空間を廻天し、灼熱の色を宿した熱帯地へと変化した。

「いっ‥!」「溶岩!?」

「燃エルー!!」

爆炎に囲まれ、足元は溶岩。正に地獄を模した地形の空間に送り込まれていた。

『安心しなよ。只の心象しんしょう、燃えはしないからさ。どう此処、落ち着かない?』

「落ち着く訳無いでしょうが!」

『本当に?

変わってるね君、面白いや。』

『そんな事よりこれ知ってる?

現世うえで流行ってる〝さんぐらす〟ってモノらしいんだけど‥』

鉄の金具で繋がれた黒い目隠しを瞳に当てがい、装着して見せた。


『中々粋じゃない‥?』

「ナンですかソレハー!」

『だから〝さんぐらす〟だって。』

「どうだっていいのよそんなのは!」

酷評の嵐、さんぐらすとやらにでは無く調子を決める紅い鳥に。

『なんだよつまらないな!

褒めてくれたっていいのに、まぁ確かに陽の光を抑える物らしいから?

俺には必要無いんだけどさ!』

可笑しな目隠しは、羽先から舞出た小火に焦がされ消炭と化した。


『俺、陽よりも熱いからさ…。』

ぐるりと空間が歪み、更地の砂漠へ映え変わる。

『どう、付いてこれてる?

其処のお兄さん!』

鳥の眼光が、セイメイを指名する。

「…お前は方角の神。四獣の一体なのか?」

『うん、そうだよ!

南の朱雀。四獣ってのはわかんないけど‥』

「なら一緒に来てもらう、お前を天国へ還す!」

『ふーん。勝手にしてくれていいけど、それなら少し一緒に遊ぼうか?』

「アチチチー!」

翼を広げると同時に、辺りに火の粉が舞注ぐ。

『何して遊ぼうか?』

「やかましいってのよ!」『おお?』

先陣を切ったのはセイメイでは無く咎人のセイラ。しかし彼女の姿は、人というよりは、一種の獣に近かった。

『君、人じゃないんだ。やっぱり面白い子だ、何の生き物なのそれ?』


「知らないの?

鼬よ、鎌を振るう特別な種類のね!」

掌が変化した二本の鎌で、空を斬り裂く。頬には鼬特有の毛を生やし、猫の様な耳を突起させ、尾骨には文字通りの尻尾が携わり、背中は茶色い毛皮で覆われている。


『威勢がいいね、野性の勘ってやつかな?

空まで飛べるなんて驚きだ!』

「飛んでいる訳じゃない、空を蹴って跳んでるのよ、一々説明させないでくれるかしら!?」

鎌を振る振る、空を滑り避ける避けるの繰り返し。セイラは必至の形相を浮かべ、本域で撃ちのめさんとしているが、一方の朱雀は手にあまる程の余裕が見られ言葉通りの〝遊び〟を愉しんでいるといった御様子だ。

「真剣にやりなさいよ!」

唯でさえ軽快の過ぎる振る舞いに、噴りを覚え続けているというのに、其の上人を軽んじたとあっては邪険に値する侮辱行為だ。

『おっと悪いな、熱意が伝わらなかったようで‥』

「きゃっ!」

周囲が発火し火が燃え移る。

『これで聞こえたか?』

セイラは直ぐに距離を取り、躰を唸らせ火を落とす。

「やってくれるわ南の神サマ‥。少し火加減間違えたら丸焦げよ!」

『そっかー、惜しかったなぁ!

でも全身焼くには早いしなー。』


「だからその‥さ!

いつでもやれば出来るみたいな云い方、頭来るからやめてくれるかしら!?」

不満混じりに跳びかかる。鎌を翼で振り落とさんとする前に、朱雀の生み出した熱波に焼かれ崩れ去る。

「セイラさん!」

焼け焦げ堕ちゆく半獣半人。

『その通り、俺ってやったら出来ちゃうんだよねー。』

「セイラ様が燃えテイルー!!」

「かはっ‥どろん!」「何だこれ?」

黒く崩れ灰にと化した躰から白い煙が立ち込め滑稽な物体がセイメイの足元付近へ落下し床をうねる。

「鼬の尻尾‥?

何でこんな処にこんなもの…。」

毛筆の様な塊、細長い房の様な毛が一人でに砂漠の砂を跳び廻っている。

『あれ?

燃尽きたと思ったけど、上手く避けたんだ?』

「はぁ‥此処で尻尾切らすとは、有れば邪魔だけど無くてもしっくりこないのよね。」

空の雲を腰掛けとして、立膝で慣れない体勢を調節しながらひとりごちる尾無し鼬。

『噺掛けてるんだけど、無視?』

「五月っ蝿いわねぇ。咄掛けてるって、一体どれにはなししてるのよ?」

声を重ねて同じ顔が空を覆い連ねる。幻影か分身か、複数の半人半獣が朱雀を囲み語り掛ける。


「ねぇ、一つ遊びを知っているんだけど、やってみない?」

『へぇ〜いいね、どんな遊び?』

「アタシが思いついた遊びだから、アンタは不利な決まりだけど、凄く楽しい追いかけっこよ?」


「〝鼬ごっこ〟って云うの。」

『聞いた事無いね、いくら不利でも遊びの誘いは断りたくないなぁ。何をしたら俺の勝ちなのー?』

「完全に逃げ切るか、気を保つ事が出来たらよ…!」

危険な遊びが始まった。


アナザー天国・釈迦の神殿。

『うむ、感じるぞ。』

記憶に有る気配や、以前相対したモノを気迫ならば、何処へいようと感じ取る事が出来る釈迦の超感覚が、過去の気を読み込んだ。

『麒麟の奴、復活しおったな…。』

天の霊獣麒麟の帰還をしっかりと感じ取り把握していた。

『あの無様な姿を視た刻はまさかと眼を疑ったが、あの緑の巨軀な若者に助力を施しておいて良かったわい。』

空想で酌と酒を創造し、ぐいと口へ流す。

『酒なんぞ滅多に呑まんが、今宵は祝いだ、一杯付き合ってやる。』

天に酌を掲げ再度口元へ。

『其れにしても数奇な獣じゃ麒麟の奴も、まさか本場の天の国から、脚を滑らせて我が国へ落ちて来るとは‥。』

二度‥三度、四度と酒が喉を伝う。随分とすすむ刻もある様だ。


現在いまのお前を視たモノは、昔と比べて嗤うだろうか?』


鳳凰ほうおうとやら空の祖も、〝墜ちたものだ〟と嗤うだろうか?』

地位だ名誉だ肩書きだ、有ればあるほど人の獣の、神の首を締め付け足枷を嵌める。知らしめれば評価され、糧としていくが、自由は奪われ拘束を強める。


『知らぬ事に考え耽させようと無駄な足掻きじゃ。‥少しだけ、眠るか。』

釈迦はゆるりと寝床に胡座をかいた。


『こんなもん?

もっと良い遊びないのかなー。』


「まだまだ…はんっ!」「これから」

端から徐々に消し炭になっていくセイラ達。その度に端から新たに増えてはいるが、永久な生成は到底出来ない。

「もう一丁、飛ばすわよ?」

『あぁーまたぁ?』

幾つも重なる鎌、何枚刃と称するべきだろうか、兎に角神に重なる重なる。

朱雀は一つ一つを相手取ればきりが無いと纏めて頂き熱波を放出。焼かれた鼬達は黒き雨の如くそらに落ちる。

「いよっ‥!」「もう一周!」

『えぇ、またぁ〜!?』

三度目の大生成、鼬ごっこの再来だ。

「びちびち‥。」尻尾が地を這い蠢く

「少し小さくなってる。」

「ブキミな毛玉デスネ‥。」

(まだもう少し時間はありそうね‥)

地をうねうね這い回る己の尻尾が刻を報せる限界値なのだ。セイラはこの尻尾が出ている間だけ、複数躰を増幅し、生成できる。仕組みを知らぬ第三者には数の極端に多い鼬と、独りでに動く不気味な毛塊と、分割した見方をするだろうが、両点は合致しており、確実な関連性が在る。


それに際しては此処にいるシュノボウ、セイメイは勿論、朱雀ですらも気付いていない。

故に溢れ出る鼬唯其れを燃やし、焼き焦がすのみの繰り返しが流れ続けている。

『いくらやってもきりないや。俺ちよっと疲れてきちゃったなー』

「あら、降参?」『いやぁ、違うよ』

分厚い火柱で群れを薙ぎ払いながら否定を表す。

『俺こういうの以外に好きかもよ?』

「本当に可愛げ無いわね、アンタ。」

不利な博打も燃える館、底無しの遊び人には隔たりや如何様は御構い無しだ。其れは相手側に留まらず、己であっても同じ事、正攻法という型に嵌る遣り方は退屈だと捉える強情だ。


『こんだけ的が多いと、どれ潰そうか悩み処だよねぇ。』

「いいわよ、好きな子選んで。皆同じ顔だけど。」

『そう?

じゃあ選んじゃおうっかな、そうだな‥じゃあコイツなんかどうだ!?』

朱雀が選んだのは地上で手を振る赤い顔のあの子。

「なっ、卑怯よアンタ!!」

『卑怯だなんて云うなよなぁ!

好きなの選んでいいっていったのはアンタだよー?』

「ヒィィィー、こっちキター!!」

焔を身に纏いシュノボウ目掛けて下降する。翼を広げた体躯は大きく、広い範囲を捲き込み滅さんとする。

『悪いね〜僕ちゃん、君も含めて二枚抜きって事になるかもよ?』

「そんな事、させるか…!」

自己防衛の意思の元、背中の助力に手を掛けた。今こそが遣い刻だと確信し、荒ぶる炎焔ほむらを断ち斬らん‥正にその刻。


「ウワァアァアー!!」

無様な奇声が瞬間を濁し、遮断する。

「シュノボウ、それ…。」

気が動転してか錯乱状態となった赤い顔のタコ人間は、散り散りになり小石同然に控えめになった水晶の欠片を一つずつ一心不乱に燃え盛る脅威の中へ放り、投げ込んでいた。

『なんだ、御乱心かー?

冷静さを欠いたら勝てるもんも勝てないよ、まぁ今回は元々君等に勝ち目なんてもんは‥』


『ゔっ!』「なんだ?」「ヘッ…?」

『何だっ‥これ…!』

水晶の欠片が朱雀の躰を堰き止め、纏い付く焔を吸収する。

「炎が消えた‥」「釈迦サマー!」

欠片は朱雀を円を作り囲み、吸収した炎を一気に暴発させる。

『ぐあぁっ!』爆炎に呑まれ堕ちる鳥


「今だ!」

セイメイは空かさず駆け寄り、釈迦の腕を両掌に握り締め、朱雀に追の一撃を入れまいとする。

『ふぅ‥参りましたな〜。』

釈迦の腕は白い長刀へと変化し朱雀の腹を捌く。

「ヤッター!」『何がやったぁ?』

「おかしいな、手応えが無い‥。」

『甘いよ僕ちゃん達。』「ヘッ?」

「シュノボウ離れて!」「何でスカ」

朱雀の躰が小火と成り噴き上がる。

「ウワッ!」彼は火と悉く相性が悪い

『ふぅ、やってくれるよねー。隙間無くだもんな参っちゃうよなぁ!』

焦るより寧ろ愉しんでいる様子で翼をはためかせる炎舞の神鳥、「いつでも避けられました」と余裕の表情で下を伺っている。


「何をしたのよ?」

『あれ、君随分大人しく待っててくれてたんだね。』


『そんなにあの子等心配だった?』

「…聞いた事にだけ応えてくれるかしら?」

目を背け、面倒だと軽くいなして処理を施す。余程苦手な類なのだろう。

『いいよ、応えてあげよう!

‥と、その前にっと。』

砂漠の景色を回収し、空間を蔵(しま)う様に渦に取り込む。お得意な部屋の模様替えだ。

『やっぱり形だけといっても熱苦しく感じるよね、俺は平気だけど。だからお次はこれ!』

氷山聳える氷の銀世界、温度は無くとも躰を冷やすという寸法だ。

『磔磔粋だろー?』

「極端なのよ、さっきからアンタ。」

セイラに諭されても尚平気な面で上機嫌の紅い鳥風の奴。彼自身は神の規模での振る舞いに順じ行動しているだけであるのだが、一咎人である彼女にとって其れは「頭の沸いた狂獣」に映るのだ。というより恐らく単純に、朱雀其の物が好かんのだ。


「そんな事はどうだっていいのよだから。」

『そうか、聞きたい事あったんだっけ。なんだっけ?』

「……。」『嘘だよ、怒んなって。』

焦らしているのか逐一忘れているのかはたまた挑発か、要らぬ手間は三度目

に渡り漸く意味を成した。

『あんた等に見せたのは〝陽炎〟って名の見切技だ、害を加えられそうになったとき其れを予測して炎に隠れて遣り過す。謂わば幻影ってやつかね〜』

「結局また如何様じゃないのよ‥。」

『人聞き悪いなぁ、見切り技だって云ってんの!あんたこそ其れ如何様じゃんかー!』

空に蔓延る数多の分身を指差し反論。

「如何様じゃない‥小細工よ!」

迷いの無い言葉で潔く明言。規則を破らなければ、灰色の領域で行き留まる。

『物は言い様だね‥其れよりさっきこれ拾ったんだけど、見覚え有る?』

くるくると空に蠢く毛塊を爪に絡めて

悪戯に笑う。

「‥アンタ、いつの間に!」

『気付いて無いと思った?

泳がせておいたのよ、そっちの方が面白くなりそうだったからさ!』

発生装置が尻尾だなどという事は、早い段階で既に把握済みであった。分身の本体の尻尾が千切れている事も当然ながら心得ている。


『沢山いる分身きょうだいも、元を断てば消滅きえるんだよなー。加えて各々違う動きで攻めてくる、配置や力も調節できたりするのかね‥?

厄介だよ〜本当にさぁ!』

姑息。しかし小手先で宣う観苦しい愚行とはまるで異なり、総てを把握しその上で行動の範囲を絞る。相手にとって都合良く、己自身も無理を強いらず、人を持ち上げ得をる。


謂わば超絶的な〝あざとい〟振る舞い

「やっぱりアンタは好かないわ‥。」

神の単位での虚像の設立。口角が、愛想嗤いを忘れる理の創造物が、矮小な咎人を踏み潰す。

『中々面白かったけど飽きちまったよ。だから此れもう必要ないよね?』

毛塊に、紅いひかりが発火する。派手な色をつけた毛玉は暫くばたつき苦しみを魅せた後、静かに睡りかたちの無い黒色を残す。


「棄てたモノだけど、眼の前で焼かれるのは気分が悪いわね…。」

尾が灰になると共に、愛着の有る血を分けた兄妹ぶんしん供が消滅る。

『氷山が映えますなー!

空ってこんなに青かったけぇ?』

白と銀の標高を眺めながら、匠の景色に惚れ惚れと酔いしれる。

『良い景色も観ことだし、そろそろ部屋に還ろうか?』

空間を作品集に蔵い、粗末な家の鍵を開け、漸く帰宅し身を休める。

『ふぅ‥やっぱり此処って窮屈だね。』

現実よりも、自由な幻想の空が好ましいようだ。空気や雑味が多過ぎるのだろうか、考えた処で解りはしないが誰であろうと己の世界が一番好ましく、愛に溢れた空間だろう。

『有難う、愉しかったよ。鼬のお姉さん』

「これで終わりだと思ってる?

まだまだよあるわよ馬鹿にしないで!」

『え、まだあんの?

もういいよ、君とは充分遊んだからさ。』

さっきまで餓鬼の如くはしゃいでいた南の神が、糸が切れたように飄々と笑顔を伏せて拒絶的にものを云う。

「アタシじゃ相手にならないっていうの!?」

『下に見る訳じゃない。俺はモノと遊ぶ刻、相手が持ってきた規制を愉しみたいと思ってる。飽きる事はあっても否定はしない。だけど君の遊びは全部見せて貰ったし、充分愉しんだ。』


『だからもう遊びは終わりだよー?』

「巫山っ戯んな‥!!」

一方的な遊び人の流儀。納得する筈も無く、衝動的に躰は動き反応する。

「もう我慢できないうんざりだわ!

切り刻んでやるから顔出しな!!」

『‥思った通りだ、勝手に向こうから来てくれた。やっぱり面白いね、君』

全ては計算尽く、此れも遊びの範囲内。

『これで本当に終わりだよ。また遊ぼう、じゃあねぇ〜!。』

翼に纏う紅い粉塵を中心へ集め、発火させる。炎塊と化した粉塵から火炎玉の如く放出された熱波が、セイラの元へ吹き荒ぶ。

「アンタ炎しか遣えないわけ!?」

両の鎌を扇の型に変換し、展開する。

『うっわ素手かよ!

大胆なことするねぇー君。』

「熱っ‥!

火の加減も判らないのアイツは?」

口を開く余裕が無くとも、云っておきたい愚痴がある。

『それで最低温度だけど?』

「舐めないで頂戴…!」『怒った!』

朱雀はセイラの特性熟知していた。法則は簡単、煽ると心を乱す。

「あぁもう頭来た、こんな小火素手で受け切ってやるわ。」

扇状の鎌腕を拡大させ更に展開させる事で受けの判定を広げ、熱を逃がす。

『無茶すんなって、腕焼け斬れるよこんな事したら!』

「知った‥事、ですかっ…!」

掌に強烈な圧を与える熱波の塊を、気力と筋力で抑え込む。熾烈な圧し合い繰り広げ続ける鼬と火炎。鎌の扇が火球を抑え負けじと熱を放出する。


「熱っついわね‥!

いい加減にしなさい!」

『ほら言わんこっちゃ無い‥。』

表面が薄く焦げている、熱に圧されている証拠だ。

「アンタなんかにね…負けるもんですかっ!」

二枚の扇を重ねて合掌の姿勢をとる。火球を包み込む事で熱の逃場は狭まるが、規模は大きく収縮できる。

「うあ‥うあぁああぁっ…!!」

『やっと掻き消えたか、だけど‥結構まずいんじゃない?』

なんとか力業で抑え込み、火球をかき消したものの、掌は熱圧に当てられ、焼け焦げていた。

「かっ‥!」

掻き消えた際の誘爆により、セイラ自身も影響を受け昇天する。

『お疲れ様、無理したねぇ。‥何にも出来ないしする気ないけど、花向けくらいはしたいてあげるよ、ほら‥!』

体の芯を抜き、急速に落下するセイラの躰に優しい焔が集い、セイラの体を包み込みゆっくり地へと運ぶ。

「セイラさん!」「焼けテルー!」

煙を帯びて、目を開かない。

「セイラさん、もしかして…」

『生きてるよー、気を失ってるだけー。これで生きてる方がおかしいと思うけど』

「けほっ‥げっほ…!」

「セイラさん!」「イキテター!」

「五月っ蝿いわね、疲れてるのよ。…少し寝かせて‥。」

寝言を云って眼を閉じた。

『良かったねー、次は誰が遊んでくれる?』

「あいつ、平然としてる‥。」

『お、白い刀の僕遊んでくれんの?』

遊び相手を捜してる、遊び終わったおもちゃが傷んでも屁でも無い。また新しい遊具を設ければいい。

『さぁて、何して遊ぼうか?』

娯楽に狂う快楽主義者、常に遊び歩いて愉快なモノを捜し廻っている。故に付いた通名なまえが炎舞。


炎舞う処朱雀有り、南を護りて我赦す。


『何して遊ぼうかなー、偶には俺が決めるってのも有りだなぁ。』

『あ、そうだ!

俺が上から火の玉落として、其れをお前が避けるってどう?ね、どう?

結構面白い事考えたな、現世でも〝ハヤル〟かも‥!』

「へらへらしてるあいつ‥。」

一発かましてやりたいものの、高さが到底敵わない。釈迦の力を持っていたとしても、届かない事には仕方無い。


そんなセイメイを尻目に一人頭を抱え怯えるモノがいた。

「ヒッ、ヒー!」

タコ男ことシュノボウの旦那だ。

旦那は常に思い悩んでいた、地獄に来てからの己の振る舞いに。釈迦の為の義務感のみで集まった集団故信頼や団結といった心理的な類は薄く、無いといっても過言では無いが彼にとっては異なる意味合いを含んでいた。


(ワタシは案内人、お客サマを先導するのがオヤクメ。)

「ナノニ、なのにワタシは全くオヤクに立テテいナイ!」

悔やむのも仕方は無い、シュノボウは天の案内人。かくしてここは地獄、見ず知らずの地形を見様見真似で進んだ処で迷い道を辿るだけ。

(イマだってセイメイさんが困ってイルとユーノニ、道をオススメする事はデキナイ。)

敵が空で佇んでいては、当てがう地形が定まらない。言わずもがなだが。


「‥マテヨ。」

(ソラを飛んデル?)

鳥が空を飛ぶ、単純な道理。

「ソーカ、ならワタシも空を翔ベバいいんデスね!」

シュノボウの赤い小さな背中に、真白な翼が生え揃う。

「セイメイサーン!!」「え何っ?」

タコ男が低空飛行で土を擦って向かってくる様は奇怪以外の何モノでは無く、驚嘆と共に鳥肌が全身を伝った。

『真打登場?

‥いや、あの子さっきもいたよねぇ』

「シュノボウどうしたの、何その羽!?」

「ヨーヤク貴方のオヤクに立ちマスヨー! テェヤー!!」

セイメイの背中をがっしりと取り、半ば引き摺る形でそらへと舞い上がる。

「わっ、わっ…えぇ!?」

『いいねぇ僕ちゃん、面白そうだから一緒に遊ぼうか‥。』


「お遊びデスか?

ダッタらワタシがご案内致しマショウ!」

『え、何っ?』

困惑などはお構い無し、彼は迷わない

「オメデトウ御座いマス!

貴方は素晴らしきマチの住人にナリまシタ!」


「案内人はワタシ、天も地もミズのナカだってナンデモ御座れ!

シュノボウがセンドーいたしマス!」

(キマッター!!)

鴉天狗‥存じない名だ。


「セイメイさん、心オキナク刀を御振るいクダサイ!」

「‥何だか良く判らないけど、まぁいいや!」

理解も判断もお座なりになって来た、此れも先導の賜物か。

『へぇ、空飛ぶ剣士かぁ!

すんごい愉しみだ、すぐ遊ぼう!」


「演目は‥真っ向勝負ってとこでいいよね?」

忘れがちだが釈迦のお墨付き、何故この男を気に入ったのかは分かり兼ねるが、現世このよの記憶が消えたとあらば仕方無し。冥土あのよの理では捌ききれない、仮初の地ならば尚も不可。

『先ずは、っと…三発かな?』

纏めた粉塵から放つ三倍の熱波、小手調べにしては度が過ぎる。

「シュノボウ‥!」

「云われなくテモー!」飛翔する先導


「ミギ?」すかさず刀で火球を両断。

「ヒダリ。」荒ぶる火球を刀が遮断。

「マンナカー!」白が赤色を即切断。


『斬るねー、斬る斬る。じゃあ俺は燃やす!』

嘴の隙間から、火炎を放射する。

「コンナの有りデスかー!!」

「真っ直ぐ進んで!

‥範囲は広いけど、大丈夫。」

刀を横に構え、刀身を楯の如く翳し、放射された炎を堰き止めつつ距離を縮める。

「頭低く、燃えるから‥。」

「ジューブン熱いデスヨー!」

『へぇーやるじゃん?』

「有難う!」朱雀の腹に刀を降ろす。

斬られた傷から躰が火に溶け霧散し、消滅る。

「幻影か‥。」「失敗デショウか?」

『残念でした、まだちょっと甘いねー。本日二度目の〝陽炎〟でした!』

逆方向からこんにちは、無論無傷の神鳥は、和かな笑顔で微笑みかける。

『俺が火を出す、斬り防ぐ、その隙に距離を詰めて渾身の一撃!

‥戦闘手段はこんなもんか、簡単だな。』

「……。」「ナンデ咄ないんデス?」

予測した判断を口に出す事で、手段としての選択肢を奪う形となり結果動きに迷いが生じる。

『なら辺りを燃やし尽くしてみるか』

朱雀の口から再び火炎が息吹く。其処に翼の羽撃きを加え、範囲を大幅に拡げる。


「参ったな‥。」「囲まれマシタ!」

周囲を猛火が覆い壁を創る。此れでは朱雀に一撃を与える処か、距離を詰める事すらままならない。

『さぁ〜どう出る?』「難しいな‥」

「セイメイさん!」「‥ん、何?」

翼のシュノボウが耳打ち囁く。

「ドーデショ!」「だけど大丈夫?」

「オマカセくだサイ!」親指を立てる

タコの耳打ちが、状況を覆す鍵を造る

『うえへ行っても火は上がる。その場に残ってもラチが開かない。‥だとすれば、残るは一つだよねー』


「いくよ、シュノボウ!」

「云われナクテモデスー!」

シュノボウはセイメイと共に真上に飛翔する。

『ん、上?』

炎は隙間を埋める様に燃え上がる。

「今だ!」「ハイなー!」

掴んでいた腕を離しシュノボウのみが上へ、セイメイは下へ急落下。

「ワタシ一人なら‥ナントカー!』

小さな躰を隙間に潜らせ間一髪で猛火を抜ける。

(忙ナイトー!)

「セイメイさーん!!!」「此処!」

壁の外側から廻り込み、落下するセイメイを回収する。

「はぁっ、焦った‥!」「ワタシも」

『君達も無茶するねー、あの子もそうだったけどさぁ。』

荷物を一度置いて門を出て、外で改めて取りにいく。

『そしてその後は、いつもの遣り方っと‥。』

「行けえぇぇ!!」

白き刃を突き上げ飛翔し、朱雀の躰を縦に裂く。

『何度やっても同じだよ!

‥でも、今回は少し変えてみようかな?』

鳥の形状を模した紅い焔が猛火の壁と同化する。

『知ってる?

陽炎ってこういう遣い方もできるんだよーん。』

業火の火柱が煇を帯びる。煇は焔炎(ほのお)に、爆種を与える。


「嘘だろ‥正気なのか!?」

『じゃっあねー!

俺は平気だっけどぉー!』

火柱が誘爆を繰り返し、大きくなる。

「強く光っテルー!!」「…くそ‥」


【他愛も無い。】

もう終わった‥そう思った矢先、重たい聲に、躰を掬われた。

【派手な事を遣らかすな、此方とて骨が折れる。】

爆撃を放つ火柱は、突如天から降り注ぐ稲妻よって相殺された。

『痛った‥いきなりなんだよ?』

【どうやら間に合ったようだな。】


『誰お前?』

「某の名は麒麟、天に住まいし霊獣だ。」

獣の始祖、降臨す。









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