地獄の仲直り

「四獣を取り返す‥!?」

 町へ還る光の道を進みながら、シャラクは目を見開き焦燥していた。

「君正気か?」「正気な訳無い。」

狂気の沙汰、押し付けられた戦慄。素性を髄まで知った事への代償と言わざるを得ない脅威。

「それで味方を集めて地獄へ向かえと‥釈迦様も無茶を云う。」

流石のシャラクも冷や汗をかく物言いだ、しかしやはりは頼れる男。

「いいよ、お供しよう」「えっ?」

「釈迦様の命だ。断る訳にはいかないし、あの四匹が居なくては町も危うい。」

「本当に良いのか?」「勿論だ。」

そこまで釈迦に、町に貢献する意は解らなかった。しかし味方が増えるとあるば、乗らない理は無い。

「助かる‥有難う」「礼には及ばん」

「しかし、私一人で及ぶかどうか‥。なにせ相手はあの四獣だ、敵が悪すぎる。」

方角を司る四匹、並の力では不足が過ぎる。

「先ずは町に戻ろう、話はそれからだ。僕も目ぼしい者に当たってみるよ」

町へ戻れば、セイメイとシャラクの味方集めが始まる。躰を休めに向かう訳では決して無いのだ。

 町への帰路を進み、最後に脚を付けた町の殺風景な道に戻り付く二人。円陣を畳み、元の町人となる。

「さて仲間集めだ。僕は商店街を探ってみる、君は町の方を頼む。」

「町か‥良かった。」

 セイメイは安堵していた、賑やかな商いに、どうも苦手意識があったからだ。かといって町に安心感は持てないのだが‥。

「町の入り口まで先導しよう、後を付いて来てくれ。」

沙楽の過度の気遣いが、セイメイにとっての一番の助力となる。

「よし‥」

入り口で沙楽と別れ、単独での味方捜しを開始する。

「誰に声を掛けようか。」

改めて考えてみれば、町には殆ど知り合いが居ない。気を失い、気が付けば夜が更けていた。その肝心な夜も釈迦との会話で費やし、神の部屋で時間感覚を頗る濁され、今は朝か昼かのどっち付かずの中途半端な時系列だ。

「町を歩くのは人とはいえないモノばかり、知り合いもいなければ味方もいない。」

 古臭い町並み、正式な人の刻に直せば丁度時代劇が出来る程、江戸の頃合いだ。物の無い時代、情報も少ない町では、目星を付けようにも心当たりが余りにも薄かった。それでも何か手掛かりは無いかとセイメイは周囲を探った。着ている着物の袖、足袋の靴底、髪の中‥。

されど目ぼしいものは現れない。諦めかけて懐に手を突っ込んだその刻、何かに手が触れた。


「これ、藁の包‥。」

釈迦の元へ向かう途中、握り飯を貰った事を思い出す。

「そうか、あの人なら‥!」

 セイメイは懐から漸く見つけた目星を握り、心当たりへと駆け向かう。

「相変わらずの人混みだね‥」

その頃シャラクは賑わう商店街を一人散策していた。


「こういうとき咄を出来るのは、普段厄介な人だったりするんだよ‥。」

 普段は決して並ばない、嫌な店程頼りになる事が多いと選んだ先は、よりにもよって酷くタチの悪いあの店だ。

「あらシャラクさーん?

いらっしゃーい、ニャんの用かしら?

今ならマタタビ汁が‥」

「買い物にきたんじゃないんだ、ごめんね‥。少し、聞きたい事があるんだけど」

「聞きたい事?

アタシはあなたを喰べちゃいたい‥じゃなくって仲良くなりたいケド!!」

 内なる野性を漏らす化け猫店主。シャラクはそれを聞き流し問う。

「頼りになる味方を探してるんだけど、物理的な戦力になりそうな獣を知らないかな?」

「物理的な戦力?腕っ節が良いって?

それならあの子かしら?」

物騒な力は物騒なモノから、沙楽の読みは見事的中した。

「又尾ちゃん、出ておいで!」

「はいニャ!」

猫店主の鋭い指笛で顔見知りの猫が返事を返す。名は〝又尾〟と云うらしい。

「なんですかなニャ姐さん?」

元気な猫が駆け寄り訪ねる。

「ウチのお客がアナタの力を借りたいらしいわ。」

「おニャくさんがオレの力を?

ありニャトー御座いますニャ!」

「で、どちらのおきゃくさんニャ?」

「こちらよ」「ニャ?」

又尾は客の顔を見て、目を丸くする。

「やぁ、君だったか」

「お前、あのトキの‥!!」

又尾の首が古傷のように、ひりひりと痛みを思い起こす。


「‥お邪魔します…。」

からからと引き戸を開けて、倉へと入る。立て付けが悪くがたがたと幾つかの方向への傾きを経て漸く開き切る。

「ん、お前‥昨夜の小僧じゃねぇか」

己の体躯を持ってしての力業の要因も強く影響し傷んだ戸なのだろう。

「チョウヂョウさん」「よう。」

セイメイが訪れた先は緑の大男、チョウヂョウの倉。絶品と呼べる飯を振る舞い、握り飯まで待たせた粋な男だ。

 セイメイが、町で味方と判断できる要素を持ち合わせる数少ない人物、唯一の目星だ。

「少し、いいですか?」

「どうした、腹でも減ったか?」

 セイメイは頼まれた事、町に起きている異常を釈迦の言葉通りにチョウヂョウに話した。

「方角の犬が閻魔に盗られた!?」

「みたいです‥。」

「道理で町が縮んだ訳だ」

「縮んだ?」「ああ‥。」

 チョウヂョウ曰くアナザー天国と呼ばれるこの町は、以前はもう少し大きく広かったという。しかし四獣が居なくなってからというもの酷く小さくなり、控えめな町となったそうだ。

「お前をここまで運んだ麒麟ってのがいただろう?」

「麒麟‥?」「覚えてねぇか。」

気を失っていたセイメイにとって初めて耳にする単語だ。

「アイツも以前は四神と対をなす程強大な獣だったようだが、俺が見つけた頃にはもう今の格好だった。」


「これも地獄の影響か?」

閻魔の力を持ってすれば地形の縮小なや力の衰退など、造作も無い遊び同然なのだ。

「で、お前がここに来た訳ってのはもしや?」

「‥そうです。

一緒に、地獄に行って貰いたい」

「……。」

無理がある、地獄に行くなど自ら死にに行くようなもの。苦行の巣窟、神に近い獣との対峙、閻魔との和解‥。

利点というものが皆無に等しい。

「おう、いいぜ!」「えぇっ‥!?」

チョウヂョウは二つ返事で快諾した。

「この町は平和過ぎるからな、丁度退屈していたところだったんだ。」

「地獄で四神相手ならいい腕慣らしになるってもんだろ?」

咄だけをして、握り飯の藁包を返して還ろうと思っていたが、予想に反した事態に発展した為、返す瞬間を見失ってしまった。

「そうとわかりゃあ早速行くか!」

「……」「どうした?」

チョウヂョウが快諾こそしてくれはしたが、一人のみの助力では、未だ不安要素の残る所。チョウヂョウもセイメイの顔色からそれを察したのか「大丈夫」だとそれを諭した。

「俺にも一つ、心当たりが有る。」

「心当たり…ですか?」

「頼りになるかは判らないけどな」

 その後セイメイはチョウヂョウと共に新たな心当たりと顔を合わせ、シャラクと合流した。猫が涎を垂らしているように見えたが頑なに見て見ぬ振りをし例の殺風景な道なりへ。

「皆んな揃ってるね、準備はいい?」

シャラクが点呼を取り、場を仕切る。

「おうよ!」「ニャイン!」

「イツでもドーゾ!」「僕も大丈夫」

皆の声が出揃った、開始の合図だ。

「よし、それじゃあ行くよ‥」

地に円陣が広がり、そこから放たれる光が一気に躰を包み込む。

「釈迦サマに逢えるのか、楽しみだな。」

釈迦との逢瀬に期待を馳せる。それを聞き得てか、聞き覚えのある野次がチョウヂョウの耳に届き響く。

『ヒヒィン!!』「ん、あの声‥」

お粗末な馬が、消えかけた光の塊目掛けて突っ走る。

『ヒヒィン!!』

「どうしたお前、酷く興奮して!?」

いつになく鼻息荒くチョウヂョウに擦り寄る麒麟。

「済まんシャラク、こいつが俺から離れない。普段こんな事は無いのだが‥」

「…仕方が無い、共に連れていこう。ゆったりしている時間もそう無い。」

見兼ねた沙楽が、麒麟から目を逸らし、味方の一人として処理を施した。

「悪いな。麒麟、俺の懐でじっとしてろよ?余計な真似はするな。」

『ヒヒィン‥ばしゃん!』

返事をすると麒麟は躰を液状にし、チョウヂョウの襟から懐へ潜っていった。

「今のが麒麟か‥」初めて見る獣の姿

体感としては二度目だが。

「ニャー、おミャーはタコかニャ?」

「タコ?

違いマス、私はシュノボウ。町の案内人デス!」

「案内人が町を離れていいのかニャ?

俺ニャー関係ニャいけどニャー。」

「……」

 チョウヂョウの心当たりがまさかのタコ男、シュノボウだった事にも驚きだったが、シャラクが連れてきたのがよりにもよって己を襲った化け猫だとは思いもしなかった。味方の過半数がよもや不安要素の塊だとは‥。何が恐ろしいか、一番は化け猫を連れて来たシャラクの顔に、一切の迷いが無かった事だ。

「…大丈夫かな。」

指折り不安を数えると正式には三になる。

『ヒヒィン!』いや、四だ‥。

心休まる間はなくとも身体は釈迦の神殿へ。

「はぁー、此処が釈迦サマの居る部屋か!」

「部屋というより神殿だけどね、まさか続けて来る事になるとは思わなかったけど。」

「なんだか落ち着かニャいニャーここ。」

「そうデスカ?」

慣れ親しんだ者、そうで無い者様々だが、誰が来ようと神殿は褪せず染まらずの白を維持する。

「やっぱり此処疲れるな‥。」

鮮やかな色彩を好む者もいるようだが

‥。

「それじゃあセイメイ君、釈迦様の元へ。」

「ああ、そうですね‥。」

またあの人と噺をするのか、と気の引ける思いで階段に足を掛ける。

「チョット待ってくだサイ!」

シュノボウが徐ろにセイメイの足を止める。

「釈迦サマの処へスグに行きたくありまセンカ?

階段を上ルノはオックーでショ!」

「‥うん、まぁそうだね…。」

階段を避ける事ができるのは酷く有難いが、それよりも、最早釈迦との対話に障碍を感じていた。

「ナラバ今すぐ参りマショウカ!」

人の咄を聞かない館のタコ男には関係の無い細やかな差異ではあるが。

「どろんっ!」

有無を言わさず煙を噴き上げ台座の前へ。

「セイメイ君、噺を‥。」

「わかった」

(滞り無いな…。)

他の者は完全に神殿に馴染み、町同然に佇み始めている。

「釈迦サマ、味方を集め戻って来ました。」

幕越しに云う。言葉は直ぐに跳ね返り

「随分早かったの。三晩は掛かると思ったが、猿にしては上出来じゃ。」

「どうも有難う御座います…!」

人を小馬鹿にした上からの態度、乗っけから健在な憎まれ口。此方も負けじと皮肉を込めた礼を云ったが、芯に刺さりはしないだろう。

「ひぃ、ふぅ、みぃ…多いのぉ、面倒じゃ‥」

僅かに幕の隙間を開け、ぬるりと腕が外を伺う。

「全員中へ入れ、土足で構わん。」

「エッー!」「宜しいのですか!?」

「構わんと云っておる、何遍も聞き返すな」

「ニャあニャあ」「なんだよ猫?」

「ドソクってニャンだ?」

「お前には関係無ぇ咄だよ。」

「そうニャのか、ニャらいいニャ。」

彼はおそらく釈迦を知らんだろう。

「じゃオッサキー!」

シュノボウが飛び込むように中へ

「俺も行かせて貰うぜ?」

次いでチョウヂョウ「ニャー」又尾も

「あ、ちょっ!

‥云ってしまった。」

残すはシャラク、セイメイのみとなった。礼節を重んじる者と、気の進まない者。どちらも拒む理由の有るモノ。

「以前も、二人きりだったね‥」

「そう…でしたね。」

(あのときは気が楽だった…未知だったから。)

「先に行って、待っているよ。」

気遣いに神経を使い、礼節を後回しにする。ただ一人残留のセイメイ。

「このまま引き返そうか」

「階段を降りてしまおうか」

 邪な感情に身を任せるという選択を考えた。知らぬ間に町に落ちた、神の喧嘩に巻き込まれた、仲間を集めろと云われ従ったが集ったモノにそれ程の思い入れは無い。聖に傾く理由が無い、邪と言われようと何だろうと己の勝手だ。


そう思い一度は下り階段に足を掛けた。だが一つの穴に気が付いた。


階段を降りたとして、下に辿り着いたとして、どうやって町へ戻る?

そもそもここまでどうやって、何を遣ってやって来た?


おかしな術の円陣だ。

あんなもの出す事はできない、町への道など造れない。

他のモノに頼もうにも皆は釈迦の元。

「僕には無理だ、沙楽でもない限りかんなもの…。」

セイメイは気付いた、一人で此処にいる理由、シャラクが先に行った意味。


沙楽は気を遣い先に進んだのでは無い、逃げ場を無くす為。

〝いいえ〟の選択肢を消す為に一人残したのだと。

「僕より釈迦サマへの礼節か‥。」

邪な抵抗を叩き潰され、腕でつくった幕の隙間を、潜る以外の選択を取るのみしか出来なかった。


「遅い、さっさとせんか!」

「すみません‥。」「まぁよい」

事前に入った四名は、床に胡座をかき、座っていた。此処が二度目のセイメイには、釈迦が彼等に唱えた文言が

、聞かずにも把握できた。

「適当に腰を掛けろ、椅子の類は何も無いがな‥。」

言われなくとも腰を下ろした。

「さて、始めるか」

 セイメイの先読みを誉める事無く躰を起こす。

「どれ、顔を見せてみろ。

初めに云うておく。ワシの顔は気にするな、女という事もじゃ。」

くるりと振り返り四人を視る。最早言伝の囁きなど、暇人の虚言にまで成り下がる戯だ。

「タコに、鬼に、猫に‥ヒトか。」

(ヒト?)

「どれもしけた面ばっかりじゃ!」

「こいつ本当に神なのか?」

「さぁニャ」「お前に聞いてねぇよ」

「ところで神ってなんなのニャ?」

「もういい、静かにしろ。」

「笑ってマスヨ!」「ヒト…。」

「あー疲れる‥」

顔を見た瞬間から、揶揄うつもりだったのだろう。釈迦は涙を流して笑い転げる。笑うときは、常に転げる館なのだ。

「ひっー、ひいっ‥済まん済まん。

貴様等の面が滑稽での、名は知っておるが顔を拝まんと素性はわからんの」

それはこちらとて同じ事、名を掲げ〝釈迦サマ〟と崇めていたが、素性を知れば在り方も変わる。勿論の事個人差は有るものの。

「沙楽、お主の顔はイマイチじゃな。味が酷く薄い」

「申し訳御座いません釈迦様!」

「構わん」「精進いたします!」

忠実が過ぎると、都合が良くなる。

「それにしても纏まりが無いのう、一味の筆頭は誰じゃ?」

「とまぁ、聞くまでも、なく小僧じゃが‥。」

ならば何故聞くと聞いたところで無意味な事は知りつつも、赦されるなら頭を掌で一撃したい。神から見た小僧はそんな勘繰りを頭の隅に仕舞い、筆頭を了解した。

「そんな事はどうだっていいのじゃ、お前達にはやって貰う事がある。」

「地獄に行くんだろ?」

「四獣様を取りカエス!」「ニャー」

「町の均衡を取り戻し、閻魔様と和解を図る‥!」

「一遍に喋るな、聞き取れんわ!」

目的は各々把握している、集った事に、独自の理由が有るからだ。

「エンマ‥メンマの仲間かニャあ?」

「オッカナイ顔の神サマでスゾ!」

例外もなくは無いが‥。

「そこまで頭に入っておれば無駄口は要らんな。さっさと行け、手引きはしておいた。」

「手引き‥ですか?」

「どうやって行くんだ、天国と地獄は、とんでも無く離れた境界に有ると聞くぞ?」

「質問の多い連中だ、少しは筆頭を見習え。あれほどに口を閉ざしているというのに」

「……」「聞くまでも無いってか。」

理解が広い訳では無い、寧ろ逆だ。突飛な咄について行けないので、主張を極端に下げたのだ。

「しかし釈迦様、幾ら何でも無理があります、地獄の境界との手引きなど、出来る訳が有りません!」

「沙楽、ワシを誰じゃと、思っておる。この国を統べる神、釈迦様じゃぞ?」

「で、何処からいくのかニャー?」

 神に最も遠い猫、又尾が話の腰をへし折り確信か迫る。

「む、猫か、この部屋からじゃ!」

「この部屋からニャ!」

「繰り返すなネコ助‥!」「ニャー」

何も無い部屋、椅子も机も扉すらも見当たらない部屋が地獄に繋がると云うのだ。

「何も、有りませんが?」

真っ向から問える素直な男シャラク。

「無いからできるのじゃ」

釈迦はにやりと口角を上げ、空虚な空間を左手で掴み、下へ降ろす。下がる拳を追うように掴まれた部屋の空間は下へ、下へとめくれ、剥がれていく。

「これは‥!?」

「地獄への入り口じゃ。」

剥がれてた空間は黒い穴となり、他所の景色を覗かせた。

「こんな事できんのかよ‥!」

「ワシの部屋じゃぞ?

模様の変化など造作も無いわ。」

手引きの導として釈迦が指揮を取る。

「これから皆にはここから地獄へ向かって貰う、地獄は我が国と比べて格段に広い。四獣いぬどもを取り込んだ事で規模が極端に広く成り過ぎているのじゃ。」


「お前達がやるべき事は、三つ。」

 四獣を取り戻し天国へ返す。

 四獣を町の正しい方角へ戻し均衡を取り戻す。

「最後に閻魔の機嫌を治すのじゃ!」

「治すったってどうすりゃいいんだ?」

「奴は一度損ねたらやまんからの、ぎたぎたに打ちのめす他無いの。」

無理難題を能面の如き面相で釈迦大王は言ってのける、地獄は既に始まっているのだ。

「これでも持っていけ」

そう云うと、背中の無数の腕の一本を引き抜き、セイメイの前に差し出す。

「ワシの力の一遍じゃ、刻が訪れば、如何様に変化するじゃろう、背中にでも背負っていけ。」

武器を託したと捉えていいのだろう。

「あとはシュノボウ、お前に道標を渡しておく。案内は得意じゃろ?」

「ミチシルベ?」「手を出せ」

 胸の前で開いたシュノボウの両の掌に、真白い水晶が落ちる。

四獣いぬの気配が近付くと、輝き光で照らしてくれる。本来は、四つの方角を量る石なのじゃが、用途は対して変わらんじゃろ?」

「こんなものかの、後は準備の整い次第穴に飛び込むがいい、地獄へ真っ逆様じゃ。」

『ヒヒィン!!』「わ、馬鹿お前!」

「勝手に出てくるな!」

町の飼い犬が間の悪い目覚めの雄叫びを上げる。

「なんじゃ、もう一匹おったのか。」

「へへへ、そういや懐で飼ってましたぜ」

「おいこら麒麟、大人しくしろ!」

「麒麟‥?」『ヒヒィン‥!』

場所を弁えず吠える故、できれば懐で眠り続けていて欲しかった。釈迦の沸点に触れてしまえば、天国すらも敵に廻す要因になり兼ねない。

「おい麒麟!」「不味い‥!?」

『ヒヒィン!!』

 チョウヂョウは血相をかいて黙らせるようとするも、麒麟は止まるところを知らない。

「はぐれるなよ?

気を付けて行け。」 「え…?」

釈迦の予想だにしない一言が、一切の声を一刻遮断する。

「お前にも渡しておこう」

釈迦はセイメイ同様チョウヂョウに腕の一本を渡す。

「おお‥なら、受け取っておくぜ。」

「いくぞ麒麟。」

『ヒヒィン‥ばしゃん。』

 チョウヂョウの懐へ再び立ち戻り、眠りにつく。

「さぁ〜、覚悟決めた奴から穴入れ〜。じれったい奴は蹴り落とすからのー」

連中に飽きたのか、雑な振る舞いで追い出す様に扱うようになった。

「ほれほれ、早くしろ、ほれ!」

「うわ、釈迦サマが御乱心だ早くしろ!」

「お、お先デス!」

案内人シュノボウが先陣を切り穴の中へ。

「長居は無用だな。セイメイ、先に行ってるぜ?」

懐に麒麟を携え穴へ飛ぶ。

「セイメイ君、私達も行こ‥」

「ニャーン!」「あ、ちょっと…!」

猫にど突かれ言葉の最後は聞こえなかった。

「災難じゃな、シャラクよ‥。」

最後に残るはやはりセイメイ、名ばかりの筆頭に成らざるを得ない。

「お前もさっさと行け!

逸れてしまうぞ、不出来な味方とやらとな!」

別れの挨拶すら憎まれ口、揺れずに己で立っている釈迦に、セイメイは敢えて、返答としてこの言葉を選んだ。

「有難う御座います!

行ってきます、釈迦サマ…!」

筆頭として、地獄の穴を潜り落ちた。

「‥奴め、皮肉の仕方を覚えたな?」

真摯な揶揄いを受けた釈迦様は微かな笑みを浮かべ、満足気な表情を浮かべていた。


「うおっ‥!」

 釈迦が開いた穴ぐらは取っ掛かりを一切持たず、地獄へ着くまで止まらない一方通行の狭い傾斜が続いていた。身を任せ落ち下っていると、足元に光が差し込む。

「外‥地獄か?」

地獄に光、違和感があった。仄暗く、臭気漂う鬼の棲む地獄に、希望があるとは思えなかった。

「只でさえ間違えて死んだんだ、二度目があってもおかしくないよな?」

 アナザー天国からの不時着は、何処に辿り着くのだろうか。町の名残は穴にも残り、成す術を持たず選択肢は無い。天も地も、区別する隔たりは主に無い。それが仮初めであってもだ。


穴を抜け、光の元へ躰を晒すと、そこには草原が広がっていた。地獄とは程遠い、だが確実に到着したと確認できた。

「おーい、セイメイこっちだー」

宙を舞い落ちるセイメイに手を振るチョウヂョウの姿がそこにあった。

チョウヂョウだけでは無い、シャラク、シュノボウ、マタオも顔を連ね草原に足を付けている。

「皆んな!

‥ってそれどころじゃない…!」

上から下へ落ちている、このままいけば怪我では済まない。釈迦の腕を振るってみるか、いや確実に遣い刻はここでは無い。どうしたものかと狼狽していると、ぐいと何かに躰を引かれ、落下の速度が急激に低下する。

「大丈夫、セイメイ君…?」

 長く延びたシャラクの腕に絡め取られ、セイメイの躰は、落下の危険を免れた。

「シャラクさん…!」

 シャラクはそのままセイメイをゆるりと草原の地へ降ろし、腕を縮め、人の形を戻した。

「腕が伸びたニャ!」

「さっきも見たろ?」「ニャーん!」

掴み所が無い、掴む必要もないが。マタオはさておき他の者は、地獄の景色を知っているのだろうか?

だとすればこれが正しいのか、想像の産物での地獄はもう少しおどろおどろしいのだが、実際は簡素な草原が正しい風景なのだろうか。今のこの風景を疑問視するモノが現れないという事は、既存の地獄の印象は、固定観念が造った勝手な価値観なのだろう。


「全員、揃って無事着けましたね。」

「あぁ。地獄に来たはいいが、何処に行きゃいいんだ?」

「シュノボウ、水晶は光っているかい?」

「イーヤ、なーんにモデス!」

「しっかりしろよ、お前案内人だろ?道がわからねぇんじゃ世話ねぇぜ!」

「私は〝町〟の案内人デス、地獄の道はサッパリなんデス。」

「困りましたね、道が判らない、手掛かりも無しじゃ先に進む手立てが無い。」

 そもそも釈迦の用事に付き合わされている事が些か不満なのだが、今更口に出したところでどうする事もできない。

「どうしたものか‥」「ニャー…?」

「あれ何だニャ?

こっちに向かって来るニャ。」

 マタオが何かを発見する。目に見えるその何かは凄まじい速さで草原を掻き分け、此方の方角へ猛進する。

「敵か?」「構えておこう、物騒だ」

「敵なんているんデスカ!」

緩まずの速さは、じぐざぐに原っぱを走り、何かを口に出しながら距離を詰める。

「ハイハイハイハイ、草原にぃー!

一ぃ、二ぅ、三ぃ、四人ー!」

「今行きますぞー!!」「来る‥!」

「到着…。」急停止して直立した。

黒く濁った三頭身程の其れは低い眼差しでじとっとこちらを見上げている。


「烏‥天狗?

どちらかは判らないが何者だ?」

「敵ではなさそうだが、おいカラス!お前どっから来た?」

「ヨット‥背は同じクラいデスネ!」

横に並び背比べをすると、丁度頭の先が水平に重なった。紛う事なき三頭身が此処に二頭存在している。

「シュノボウ、下手に近付くな!

何されるかわからんぞ!」

「小さいな‥。」

短小の概念が地獄にも有るとは、セイメイは深く感心した。

「まぁまぁそれ程囃し立てなくても、まだ敵と決まった訳ではないよ。」

然程の敵意は見られない、事態を揺るがす程の脅威では無いと判断した。

「私達に、何か用かな?」

「カラスかニャ?テングかニャ?」

「お前は黙ってろ‥!」

怖る怖るに茶々を加え、目線を低く標準を合わせる。

「……」「何も、言いませんね‥。」

俄然と沈黙を貫く地獄の使者、堪に障る詰問だったのか。

「人を間違えたのか?

私達に用がある訳では無いのかもね」

人違い、偶々行き着いたのが一味の前だった様だ。

「四名さま!

ご案内〜!」 「なんだ‥?」

と、言う訳でもないらしい。

「アッシはアナザー地獄の案内人、貴方ガタを導くモノですー!」

「アナザー地獄の‥」「案内人…?」

「同業者だっタんデスカー!」

「名を鴉天狗と申しまス…。」

「カラスてんぐ‥!」

「どっちもだったニャ。」

案内人鴉天狗、敵意どころか強い味方が現れた。

「あとそこの赤いカオのオ方!」

「ワタシ?」指差しきりりと睨まれる

「アッシは貴方よリ背が高イです!」

「ナニヲー!」「なんダー!?」

「やめろやめろ、くだらねぇ‥。」

似た者同士と折り合いは付かず〝犬猿の仲〟となりそうだ。

「鴉天狗、お前が地獄を案内してくれるのか?」

「はイ、皆さまハ地獄へ落ちタ咎人サマ達ですヨネ?」

「トガビト?」「地獄の住人デす。」

地獄に落ち、住人となった者は咎人と呼ばれるらしい。鴉天狗は晴れて咎人になった者供を連れ、道を先導する。

天国あっちとは勝手が違うんだな、やはり地獄は未知だ。」

町にはそうした呼称は無く、釈迦がひとりひとりに名を付ける。

「お前は咎人じゃないのか?」

「アッシは案内役でスからネ、分カり易いヨーに名を頂きマシたのサ。」

役割の身分けとして、取り敢えずの名が付けられている。閻魔は彼の名を覚えているのだろうか。

「他の者はどうしてる、やはり名が無いのか?」

「セーシキには有りマせんガ、仲間内や独的に、名ハ有りマす。」

閻魔の把握は皆無だが、咎人自ら名を付けた。個を表す記号には成り得る事の無い、衣類の装飾の様なものだ。

「これから何処に?」

「街へ向カいマす。」

「町?」「街デす」

「ニャち?」「マチだよ‥!」

 天国同様地獄にも街が存在する。元の広さは知らないが、おそらく規模も大きさも釈迦の物とは段違いに広いだろう。天国の地形の多くを、地獄が取り込んでいる故の広さだ。

「街はどんな処だ?」

「鬼ガ多いデすかネ。」「鬼?」

「地獄は鬼ヲ生み易いンでス、クーキが丁度荒んデいルのデ。」

「鬼は一日中さけヲ呑んで暮らシてイマす。ダから街のサカ屋は常に第ハンジョウでス。」

商店街の人混みが町中に、考えたのみで背筋が凍る。其れを知った上で、今からそこへ向かうのだ。

「おいセイメイ、俺達大丈夫か?

四獣と逢う前に鬼共にやられちまうんじゃねぇか?」

「‥兎に角、単独行動は避けましょう。一人で鬼に囲まれたら逃げ場は無いでしょうから。」

鬼でも鬼は恐いようだ。肌が皆緑の鬼であれば、紛れる事も容易だが、大概が血の滾る赤色だろう。

「街の鬼の肌の色は?」

「血の滾る赤でス。」「……」

どんぴしゃりだ

「それにしても広いな、云っていた通りだ。」

〝釈迦様の〟とは付けなかった。咎人が、口に出す名では無いからだ。

「地形が崩れたりなどしたら大惨事だな。」

いやらしいが、じりじりと咄を詰める他の遣り方が浮かばなかった。

「心配はあリまセん。方角ヲ司る獣達が、其レを防いデいマスから‥。」

捉えた。「其れ等の名は?」

「青龍、白虎、朱雀、玄武‥の四体でス。」

 間違い無い、釈迦の捜し物と確定した。その後も引き続きじりじりと突き詰め、在り処を知ろうと試みるものの予期せぬ第三者の介入が、その場の状況を狂わせる。

「おミャー四獣の事知ってるのかニャ?」

「はイ、知ってイまスヨ」

「だったら何処にいるのか教えてくれるかニャ?

オレ達はそれが目当てでココにいるのニャ!」

「なっ‥。」「馬鹿‥!」「あぁ‥」

 漕いで来た船を、島のすんでギリギリで沈ませる野生児マタオ。溺れて水を被っても、屁とも思わぬ図太い根性で陸まで足をばたつかせる。

「居場所は残念ナがラ、教えラれまセん。アッシも良ク知らナいんデス。」

「ニャんだ、役に立たニャいなオマエ。街の鬼ニャら知ってるかニャア?」

深く抉られはしなかった、案内人という役割上深い詮索をする意図を持たないのだろう。

「すみまセン…。」「まぁまぁ‥。」

何も守らぬ、寧ろ崩した獣から、四獣の咄の不足を諭され気を落とす地獄の案内人。酷く皮肉な説教である。

「着きまシタ‥。」「嘘…!?」

されど役割は全うする。そう、彼は地獄の案内人。名を鴉天狗

「ごユっくりドーぞ!」

「中は案内してくれねぇのか?」

「街に来タ時点で貴方ガたは咎人デす、何ノ案内が必要デしょウ?」

先導は序章まで、結末は自ら探れという訳だ。

「‥ドうサれマしタ?」

「やっぱりアナタ、背ガ低いデス!」

鴉天狗の額に掌の淵を当て、にやにやと口を緩めてシュノボウが云う。

「オ前よリ高いワ!」「サラバ!」

天の案内人は、地獄に降りると挑発を覚えた。

「さて、四獣を捜そう。」

「水晶の光は?」「輝イてマセン。」

「どうする、セイメイ君?」

「先ずは街の人に咄を聞きましょう。居場所を知っている人がいるかも知れません」

「聞くったって誰にだ、周りは呑んだくれた鬼公しかいねぇぞ…。」

昼や宵の概念が此処に有るかは判らないが、空が明るい内から街の住人は酒に浸っている。肌の赤は、呑んだ酒量を誤魔化す為の色遣いか?

「ふむ‥。

なんだか良い匂いがするニャ!」

「汁物の匂いかな‥?」

「酒の匂いしかしねぇぞ。」

「サケも魚も嫌いデスー!」

「魚は言ってないよ‥?」

昨夜から何も食べていない、一味の腹は、鳴る音も無い程減っていた。

「こっちニャ!」「待て、走るな!」

地獄に抵抗を無くす程の空腹、匂いだけを頼りに箸を向け構える

「この店ニャー!」「邪魔するぞ!」

引き戸を縦に突き破り、店内へ。

飯を喰らい汁を啜り酒を呑む、赤い顔の鬼供が睨む睨む‥。けむくじゃらの獣と、緑色の鬼の口元から、涎が垂れる垂れる‥。睨みと涎の世紀の喧嘩、制したのは…。

「ニャッ!」「うおっ!」

「すみませんでした!」

長く伸びしなった腕だった。

「痛ってぇコラ小僧!

後頭部あたま抑えることぁ無ぇだろぉ!?」

「御客様に迷惑を掛けたのは君達だ!

…痛っ、毛が指に刺さってる。」

「オレの勝ちだニャ」「五月蝿い!」

「大変デスネ‥。」

「僕等は静かにしておこう。」

仲間内で言い合いをする頃には客人は向き直り、食事を続けていた。

「どうするんだ、君達が騒ぐから!

誰も咄を聞かせてくれなくなったぞ」

「だって腹が減ってたんだニャア。」

「かっこ悪ぃが俺も同じだ、つい錯乱しちまって。」

「‥はぁ、気持ちは判るけど。」

「あんた達、客?

それとも厄介者?」

刺さるように届く甲高い女の声。

「君は‥鬼、ではないよな?」

「アタシの何処が鬼なのよ?

どうみてもいたちよ、鼬、鎌鼬!」

イタチにも見えなかったが、本人が言い張るのだからそうなのだろう。シャラクの目には、線の細い人の女に映っていたが。

「何、まだ聞きたい事あるの?

しつこいわねー。」

「何も云ってないよ、私は‥。」

「名前は聖羅、性は女、見れば判るでしょ?

この飯処で副板長をやってる。副と云っても飯運んでるだけだけど‥」

「イタチョーは誰ニャのニャ?」

「見ず知らずの赤鬼だよ。」

 湯気に包まれ厳格な顔の赤鬼が、台所で出刃を握っている。

「以上!

もう云う事は無い、洗いざらい話したわ?」

「聞いてはいないのに有難う。」

情報量は多いに越した事は無いが、要らぬものは要らぬ。

「で、飯食うの?

それとも迷惑売りにきただけ?」

「腹は空いてはいるけど、聞きたい事があって‥。」

「なら食いながら聞けばよろし‥?」

「ニャン!」開幕一番獣が噛み付いた

「決まりだね、席着きな!」


アナザー天国 神殿・釈迦の部屋

「暇じゃのう、何も起きんと退屈じゃ。平和に越した事は無いのだろうが、それは凡庸な咄。ワシは神じゃからのう、派手な祭りが好きなのじゃ」

 味のしない煙管をぷかぷか吹かし、雑に寝そべり煙を吐く。

「彼奴ら、何処まで辿り着いたかのぉ‥。無意味な事じゃが、一応取られた腕を生やしておくかの。」

「‥ふんっ!

うむ、しっくりくる。」

天と地の差は計り知れない。


「四獣?

あの方角を司るっていう連中か?」

「知らないか、それを私達は捜してるんだ!」

汁物の匂いを漂わせ、情報を聞き出す。

「あの四体は神に近い存在だからね、只の咎人は近付く事すらしないよ。エンマ様が何で云うもわからないしね」

「はぁ、そうか‥。」

「いいじゃねぇか、情報が無くてもよ。他を当たろうぜ、飯食わせてくれただけ有難てぇってもんだ。」

肩は落ちても腹は満たされる。結果得たのは糧のみだ。

「他に聞きたい事は?」

「セイメイ君、何かあるかい?」

「あら人の子?

地獄じゃ珍しいわね、何の影響も受けない子なんて。」

「我等が筆頭、セイメイ様だ。」

着物を着た青年、背中には神の腕を携え、冥土の影響を受けない‥。背中の釈迦の腕以外、何の特徴も持たない男だ。此奴が筆頭で本当に良いのだろうか。

「それで、筆頭様。

御用件は如何程に?」

何と云おうとやはりは筆頭、彼の疑問は四獣に留まらず、地獄全体を統べる者にまで行き届く。

「閻魔様の機嫌を治すには、どうしたらいいのでしょう?」

「エンマ様の機嫌を治す?」

鎌鼬の聖羅は、眉間を寄せ面を顰める。

「駄目よ、治らないわ。閻魔様とは遭った事こそ無いけど、一度腹を立てたら二度と治らない。元に戻せるとしたら天国の釈迦サマくらいよ!」

地獄規模で見てもやはり、釈迦の要望は滅茶苦茶なのだと理解した。セイメイは次いで、例えを交えて問い掛けた。

「もし、釈迦サマとエンマ様が喧嘩して、エンマをおこらせた釈迦サマが、天国の使者である君を、エンマの機嫌を治せと地獄へ送ったら‥」


「君はエンマの機嫌をとれる?」

「無理よ、出来るわけ無い。」

はっきりと断言した。それはそうだ、正しい正論だ。神ですら止められない衝撃を、只の町人がどう防げるというのだ。無理がある、それに尽きる。

「有難う、御飯美味しかった。

四獣の事は、他に聞くよ…。」

「みんな行こう‥」

〝御馳走様〟と、飯の御礼を言い。店を出ようと促した。

「ちょっと待って!」「…?‥」

「どうしたの?」「アタシ知ってる」

「え、でも今知らないって‥」

「居場所は知らない、けど…」


「点在するおおよその方角なら判る」

無に等しい状況からは有難の過ぎる好情報、感謝以外の言葉は無い。

「方角が判るの?」「ええ‥」

「今すぐ教えてくれるか!」

「いいわよ。けど、一つ条件がある」

「条件?」

「条件は一つ、アタシもそこへ、一緒に連れて行く事…!」

「えっ‥?」波乱の予感が酷く漂う。




































































































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