第52話忘れた頃にやってくる


「っ………………」



忘れた頃にやってくるとは、よく言ったものだ。



ただ今私はかくれんぼ中。



それも、生死をかけたかくれんぼだ。



「ア、アァ…ギギィ………」

「(落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け)」



現在は路地裏に隠れている。


路地裏の、逃げ道がある隅っこ。



「(そもそもどうして私は隠れてる?)」



ちょっと遡ってみよう。






「行ってきます」

「い、行ってらっしゃい、レイシア、さん」



久しぶりに店番で一緒になったキーシャさんが、ぎこちない笑顔で私にそう言ってくる。


やだなぁ、もう、そんな無理しなくていいのに。



「(まぁ、無理させてるのは私だけども)」



渡された買い物メモを見ながら、そんなことを心の中で言う。



ザッ



足が自然と止まった。



今は、店から出て、左にまっすぐ行ったところだ。丁度大きな通りに出る場所。



「は、はははっ………え?」



おかしい。何がおかしいって




音がしない。




ここはこの街でも一番大きな街道だ。

人も、見渡す限りではたくさんいる。


それなのに、何だ、この静寂は。



「っ!」



ザッ


タッタッタッ タッタッタッ



嫌に自分の足音が響く。



風が後ろの方から吹いてきて、それに乗せられ聞こえてきたのは



「ア…アァァ…!!!」



なんか聞き覚えのある嫌な声だった。








で、今に至る。



「(いや!わけわかんないよ!?私!?)」



息を殺しながら、ガタガタと震える手を握る



「アァァ……アァ?」

「(ひっ、来るな来るな来るな来るな)」



あの黒い奴さ、絶対あれだよね。

何年か前に、城下町に降りた時に遭遇した奴


アメジストを投げ飛ばしやがったあの野郎。


よし、殺す☆



「(でもなぁ、でもなぁ!!殺す手段どころか、逃げる手段も無いんですけどぉ!!)」



自分で考えて言っておきながら、涙が出てくる。


名前……そうだ、あの黒い奴の名前、何だっけ。



確か…確か…くろ…くろくろ…クロカゲ!



「(そうだ!クロカゲだ!あれ?前遭遇した時より、シルクハットボロボロになってない?)」



って、それはいいんだ。それはどうでもいい


えっと、他には



『彼奴らに死の概念は無い。生の概念も無い。“無”というものじゃ』



“無”ってことは、存在しているけど存在してないもので…これ、哲学じゃない?


わからんけども。



「(どっちにしろ、ラフル老師、私の弱っちぃこの頭じゃわかりません…)」



でも、前に言ってたよなぁ。


アレは、クロカゲは普通の人には見えないものだ、って。



「………ん?」



じゃ、それを認識できたラフル老師やカテツの坊。アメジストは何なんだ?


もちろん、私も何なのかはわからないけど。



「(あぁ、前の時はカテツさんが助けてくれたんだっけなぁ…)」



過去の私、羨ましい。



「アァ、アァァ、アァァァァァァ!!!!」

「!?」


ガタッ



え?え?なになに、急に御立腹ですかい?

クロカゲさんや。


というか、何気に今、物にぶつかったし!

これ死亡フラグやん!多分ッ!!



「アァァァァァァ!!!!!!」



いたぁぁぁ!!って感じで近寄って来ないでよ!通報すっぞゴルァ!?



「もぉぉぉぉぉ!!!逃げるが勝ちだぁぁぁ!!!」



こうして私とクロカゲの死闘鬼ごっこ〜生と死をかけた絶望の隠れ鬼・ポロリもあるよ☆〜が始まった。

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