第51話出会ったのは…


姉様になんかわからない脅し?をされた翌日から、キーシャちゃんと距離を開け始めた。


最初は、キーシャちゃんが気づかないようにやんわりと。

次に、少し理由をつけて離れる。



次第に周りも、私がキーシャちゃんと距離を置いていることに気付き始めたのか、キーシャちゃんを守るように私を離し始めた。


よし、これでいいはず。


というか、これだけやって文句言われたら、私心が折れる。



ま、他人からすれば、私のしたことなんて大したことないんだろうけど。



「………〜〜〜〜♪………」



頭に残っている名前のわからない歌を鼻歌で歌いながら、店前の掃き掃除をする。



「………あの」

「あ、はい。どうしましたでしょう…か?」



え。



「お久しぶりです。ハレイシア姫」



振り返った先には



「覚えていらっしゃいますか?元、マリア姫様の、専属護衛兼侍女だった」



黒髪黒目の、かつては私に、敵意を持った眼差しを向けていた、あの人物



「ルル、です」



元暗殺者である、ルルだった。























「お茶、ありがとうございます」

「口に合うと、いい、けど…」

「とても美味しいです」



わぁ、美人さんや…。



「さ、お話、してもいいですか?」

「あ、もちろん!」



慌てて自分も椅子に座る。



「このあいだ、というか、ここ最近、マリア様が来ていませんか?」

「絶賛来ております」



言葉が少しおかしくなったが、伝わったようで、そうですか、と考え込む仕草をするルル…さん?



「何か言われましたか?」

「えっと…キーシャちゃん、あ、同業者に近寄るな、とだけ」

「キーシャさんですね。把握しています」



え、わかってんの?



「ま、それは置いといて。私は、ハレイシア姫に“あの日”の後、国がどうなったのかをお話したいのです」

「王国が、どうなったのかを…」

「はい」



気になってたから、丁度いい、のかな?



「国壊しのあの日、姫が城に火をつけ、隠し通路から脱国した後、国民のクーデターが起こりました」

「うん」

「平民たちが燃え盛る城になだれ込んできて、貴族たちが取り乱してましたよ。ふふっ」



あ、そこ笑っちゃうんだ。



「それでですね、ここからが不思議なんです」

「?」

「何故かはわからないんですが、アリス帝国の兵たちもリースレット王国にやって来てですね、もうそれは大混乱でしたよ。王都全体がパニック状態でした」

「は?」



アリス帝国の兵が、リースレット王国に攻め込んだ?


タイミングよく、国壊しが決行されたあの日に?



「やはり姫も何も知りませんか。姫の母君がアリス帝国出身だと聞き、一応聞いてみたのですが」

「ごめんね、わからないや」

「大丈夫ですよ」



うわぁ…美人さんやぁ…


というか、出会った頃とは比べ物にならないくらい穏やかな顔だな。



「兄君たちがどうなっているのか、聞きますか?」

「…うん、よろしく」

「わかりました。兄君であらせられる、ルキ殿下は現在、母君であるティアドール様と、アメジストさん、アルディアさん、ユーキさんと共に、離宮で暮らしています。安全などは保障されておりますので、然程心配はいりません」

「良かった…」

「あ、でも、ルキ殿下はマリア姫様にお金を根こそぎ取られて落ち込んでらっしゃいました」



何やってんだ、兄様。



「リースレット王国の国民や、貴族の子息子女の方々はアリス帝国が大方保護しております。たしか、サンディー様もいらっしゃいましたよ」

「そうなんだ。とりあえずは安心かな」

「そうですね」



あらやだこの子、アメジストと同じくらい仕事ができる子じゃないの。


私の劣等感がひどくなる一方だ…。

ま、いいんだけどさ。



「ちなみに、国王夫妻は現在、アリス帝国にて牢に入れられています。魂が抜けたようになっていますので、しばらくは何もないでしょう」

「それなら良かった」

「他、何か質問はございますか?」

「そうだな……ちょっと待ってね」

「?はい」


カタッ



兄様たちはまだ、私のことを探しているのだろうか。それだと嬉しいな。


でもま、もう会うことはないだろう。



「ルルさん」

「あ、何ですか?」

「二つ、お願いがあるの」



引き出しからハサミを取り出す



「姫?」

「あのね、もし、もしもだよ。まだ兄様たちが私を探していたら、諦めるように言って」

「………わかりました」

「あとね」

「?…!?姫!」


シャキンッ


パラッ



「この髪を、渡してくれないかな」

「姫…何で?」

「私はもう、王族や貴族に戻らない。このまま平民として暮らしていく。だからさ、この髪を渡して、私は死んだって言ってくれない?」

「………」



唖然としているルル(さん)。


ま、そうだろう。この世界じゃ女が髪を切ることは珍しいのだ。


基本みんなロング。

私も今さっきまで、腰下あたりまであった。



「良いん、ですか?」

「良いから言ってるの。ね?」



お願い。


飛びっきりの笑顔で言う。



マリア姉様にはもうバレているし、私の生存所在は兄様たちにも知らせているとは思うが、他の王族貴族には、これで良いだろう。



「わかりました。何か布はございますか?」

「あ、あるよ。待ってね」



ルル(さん)は髪の毛の束を布で丁寧に包むと、お茶を飲む。



「あ、これだけ言っておくね」

「何ですか?」



「今出会ったのが、ルルさんで良かった」



「………………私も、会えて良かった」

「もう会うことはないと思うから、さようなら」

「…はい。さようなら、レイシアさん」



このままこの平穏が続けば良いのに


つっても、最近は災難だらけだったけども。



あぁ



「絶対この後なんか起きんな」



夕焼け空を見上げ、そんなことを呟いた。

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