彼女はお姫様

第50話なんで?


姉様が来たあの日から一週間。


何故か姉様は



「キーシャちゃん!はい、差し入れ!」

「わぁ!ありがとうございます!私、このお店のケーキ大好きなんです!」

「偶然!一緒に食べよ!」

「はい!あ、レイシアちゃん」

「ごめん、私倉庫の片付けがあるから」



キーシャちゃんに、言い方は悪いが、付きまとっている。


天然だかなんだかのキーシャちゃんは、それに気づいていないが。



そもそも、何故姉様がこの国にいる?



「(というかあの視線、厄介者を見る目じゃん。姉様なら一発で私が“ハレイシア”だって気付きそうなんだけどなぁ…)」



倉庫の棚を黙々と整理しながら、そんなことを考える。


いや、たぶん、この考えは間違っていない。


姉様は所謂“チート”だ。

まだその才能を目の当たりにはしていないが、天才、もしくは鬼才、と言われるであろうほどの人。

観察眼は半端ないし。カリスマ性はもう凄いと思う。



「(あぁ…自分の語彙力の無さがもどかしい…)」



カチャン、という音を立てて、瓶が軽くぶつかり合う。



「ショック…なのかな………」



姉様が、家族以外にあんな顔優しい笑顔を見せたのが、ショックなのかな。



「ははっ……情けないや」



ペタンッと座り込んでしまう。


そうだ。私はもう、ハレイシアじゃない。

リースレットという糸で繋がれた家族じゃ、仲間じゃ無いんだ。



私たちはもう、他人なんだ。



「ふぅ…」



パチンッ!と思い切り頬を手で叩き、気合いを入れる。



「私は、レイシア。カトレア公国の平民」



私と姉様は、店員と客。



笑顔を作って、さぁ、行こう。




















「今日は何を買われるんですか?」

「今日はもう本店の方で済ましてきたんだ」

「え?じゃあ、どうして…」

「キーシャちゃんに会いたいから…じゃダメ、かな?」

「ぜ、全然平気ですッ!」



んだよ、イケメン彼氏か何かかよ、姉様は。



「おまたせ〜」

「あ、レイシアちゃん。あのね、マリアさんが」

「マリアがどうしたの?」

「あ、うん、マリア様がね…」



わざと“様”を強めに言ってみる。


どうやら間違いに気づいたようで、それを言い直すキーシャちゃん。

仲が良いのは良いことたが、距離が近すぎるのは別問題。



「いいよ。さん付けで。私がそうお願いしたんだし」

「しかし」

「お友達さんも、ね?」

「………そうですか」



有無を言わせず、と言った感じで、決してキーシャちゃんには向けない、敵意の視線で私を見てくる姉様。



「それで、マリア様がどうかしたの?」

「レイシアちゃんにお話があるんだって」

「私に?」

「うん!」



そんな、とっってもいい笑顔で頷かないでください。と、言いたい。



「わかりました。裏手へどうぞ」

「ありがとう」




〈ハレイシアちゃん〉




「ッ!?」



小さい声で、なおかつ耳元でだけれど、たしかに、たしかにそう言った。



「(姉様…何をする気なのよ…)」

















裏手


「……何の御用でしょうか………マリア様」

「堅苦しいのはやめにしよ、ハレイちゃん」



バレるのは予想範囲内。


でもまさか、こんな風に敵対した感じで話すとは思ってもみなかった。



「何か?」

「うーん…ハレイちゃんはゲームの記憶があるんだよね」

「はい」



それが今、どう関係あるのか…?



「簡単に言うとね」

「………」



「これ以上、キーシャちゃんに近寄らないでもらえる?」



「………はい?」



え?え?何で?どうして?



「あの子…私たちが探してた、大事な妹かもしれないの…その子ね、前の世界ではすごくすごく辛い思いをしてたんだ。だから、ね?もうその子を危険な目に合わせたく無いの。わかってくれるよね?ハレイちゃんなら。リースレットの娘なら」

「………………」



あ…あぁぁ………この人も、私をリースレットの娘扱い。


もうあの呪縛は切ったはずなのに、何で…。



「わかって、くれる…よね?」

「……………………」



…なら…



あの子、なら…私の味方、してくれたかな?



「はい。わかりました。でも、仕事では接するのでそれは」

「それはもちろんいいよ!仕方がないことだし」

「ありがとうございます。姉様」

「なぁに?」





「幸せになれるといいですね、その子」





「うん!」



あの子なら、あの子たちなら、守ってくれたのかな、味方でいてくれたのかな。



もうこれ以上、何かを失うのは嫌だ。



前は家族同然の仲間を失って。


今は本当の家族を失った。



神様はこれ以上、何を奪うっていうのよ。



「もう、疲れたなぁ…」



いつになったら、楽に…。






「何で、姉様も私を捨てるの…」



………………何で………………

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