第49話壊れたあの日


ーー葉鈴ッ!危ないッ!ーー



え?


キキィィィッ!ドンッ!








○月××日


トラックと衝突した児童ら五人が意識不明の重体。

一人が軽傷。




















あぁ、どうしよう、どうしよう。

私のせいだ。私がいけないんだ。



私が飛び出さなければ。

走っていなければ。

ふざけていなければ。


みんなは、みんなは、死ななくて済んだのに



「ごめん、ごめんなさい……ごめんなさい」



ひたすら謝り続ける私の頭を、誰かが撫でる

やめて、私のせいじゃないなんて言わないで



これは、私が悪いの。



ごめんなさいごめんなさいごめんなさい

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい



紙いっぱいに書き殴る。



こうしないと、自分が壊れてしまいそうだったから。





















パリンッ


コップを破り、その破片で手首を切ろうとする。

寸前で、音を聞きつけてきた看護師さんに止められる。


今日も失敗。





























「もうやだよ、もう嫌だよ…消えたい……」



布団を頭から被り、そんなことを一日中ぼやく。


涙は枯れてしまったのか、もう流れない。



みんなが死んで、どれほど経った?

私だけが生き残って、何年経った?




この白い部屋に来て、どれくらい?




あぁ、あぁ、ごめんなさい。

私だけ、生き残って、ごめんなさい。


次はちゃんと守るから。

次はしっかりするから。

次は、次は次は次は次は次は次は次は次は


















次はもっと頑張るから、だから、だから



















お願い、死なせて。




















あぁ、次はもっと、良い人生を。



さようなら、崎野葉鈴。



















「レイシアちゃん、レイシアちゃん」

「あ、どうしたの?キーシャちゃん」

「ぼーっとしてたから、声かけただけ」



そう言うと、彼女ーキーシャちゃんーは太陽のような、花のような、そんな笑顔を浮かべる。



「それにしても、店番って暇だねぇ」

「裏方の方がまだ仕事あるね」

「お客って言っても、みんな大通りの方に行っちゃうし」

「ここを使用するのは、精々おつかい初心者のチビちゃんだけ」

「「はぁ…」」



二人揃ってため息をつく。







「1…2…あ、あの形、猫みたい」

「え、どこどこ?」



ついには、天井のシミを数え始めた頃



カランコロン



ドアにつけてあるベルが鳴った。



「「いらっしゃいませー!」」



先ほどまでの、憂鬱とした雰囲気が嘘のように消し飛ぶ。



「こんにちは〜」

「「こんにちは〜」」

「ぇ?」



笑顔で接客をする二人、だが。



「レイシアちゃん?どしたの?」

「あ、いや、何でもないよ」

「そう?」

「うん」



客の前なので、小声で会話をする二人。



「なら良いけど」



キーシャはそれだけ言うと、カウンターから出て行き、客に何を探しているのかを聞く。



「レイシアちゃん。奥から保存食取ってきて〜」

「りょーかい」



どうやら客が探していたのは保存食らしく、小走りで奥にある食品棚へ行く。



「保存食、保存食…」



瓶を適当に二、三個手に持ち、転ばないように気をつけながら運ぶ。



「これはどうでしょうか?」

「わっ、きれー!」



たしかに瓶詰めはカラフルで綺麗だ。

いつか見たビー玉のように、光を通している



「あ、じゃあ、これとこれを一週間分」

「わかりました」



結構固い瓶の蓋を意地で開けて、小瓶に中身を移していく。



「これで丁度ですね…レイシアちゃん」

「包み終わったよ。お客様、お待たせいたしました」

「わぁ、綺麗な包装!」

「お気に召していただけたようで、何よりです」



営業スマイルを浮かべるレイシア。



「また来ますね!」

「「ありがとうございました!」」



カランコロン



ベルの音を立ててドアが閉まる。



「キーシャちゃーん、手伝って〜!」

「はーい」



キーシャが奥へ引っ込むと



ドサッ



レイシアはその場に座り込んだ。



「何で…どうしてこの国にいるの…」






「姉様」






そう。客だった者は、あろうかとか、姉である、マリア・リズ・リースレット。



元リースレット王国第一王女だったのだ。


















「あはっ、見つけたよ、ハレイシアちゃん」



濁りきったその瞳で、店の看板を見続けるマリア。


太陽の光は逆光で、マリアの顔は見えなかった、が。



「洗いざらい、吐いてもらうからね。葉鈴ちゃんのこと…」



声色的にヤバそうなことこの上なかった。

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