第48話愛されなかった子


ボフンッ


物作り屋の寮にある、私に与えられた部屋。

その部屋のベッドに倒れこむ。


私…レイシア…いや、ハレイシアは、自分で言うのもなんだが、愛されなかった子だと思う。


記憶を取り戻してからは、そんなこと、全然無かったけど。



何年か前に見た夢。

男の人が国の利益になる子供を産め、と叫んでいて、女の人が赤ちゃんを抱っこして泣いていた夢。


女の人は、なんて言ってたっけ



「…どうして、生まれてしまったの………かわいい、私の赤ちゃん………お腹の外は、つらいことばかりなのに…」



たしかに、つらいことばかりかもしれない、けど



「…………生まれてこない方が、幸せ、だったのかな」



縁起でも無いことを考え、頭を横にぶんぶんと振る。


そんなこと言ったら、お腹を痛めて産んでくれたお母さんに、ティアドール様に失礼だ。



「でも、それでも、な…」



…………悲劇のヒロインじゃないけど、私って本当に生まれてこない方が良かったのかも。


兄様や母様は私のことで苦労しただろうし、おと…陛下は私のことはそもそもお望みじゃ無かったようだし。



「あー、やめやめ」



大丈夫。今は、多分、仲良くしてくれる人がいる。


私は、ここにいて良いんだ。


例え求められているのが、偽りの姿レイシアだとしても。



だって、私はハレイシアじゃない。

もう、王女じゃないの。




私は、レイシアだもの。





















ミツケタ


ミツケタ ミツケタ ミツケタ



ミツケタヨ、キーシャ



「っ!」


バッ


「はぁ、はぁ、はぁ…」



何、何、何なの。


何よ、今の夢



「黒い…バケモノ?」


コンコンッ


「は、ひゃい!」

「キーシャちゃん?入るよ?」



あ、この声は…



キィィッ


「朝早くにごめんね。なんか、すごい音が聞こえたから…」

「あ…ごめん、本棚に頭ぶつけちゃって」



そっか、と答えるレイシアちゃん

レイシアちゃんの手元を見ればコップを持っている。


微かに湯気が出ているそれは、甘い匂いがした。



「それ…」

「あ、ミルクティー。まだ夜明け前でしょ?体冷えちゃうかなって」



ふわりと優しく微笑むレイシアちゃん。

ミルクティーなんて高級品、飲んだこと無い


なんでそんなもの作れるの?



「なんで、そんな高級品…」

「旅してた時にお礼にってもらったんだ。キーシャちゃん、今日は特別ね」



口に人差し指を当てて、しー、と囁く。

それに慌てて頷く。



「はい、どうぞ」

「ありがとう」



猫舌なので、ふー、と冷ましてから一口。



「っ〜〜!!」



甘い。この上なく甘い。


こんな甘いの、飲んだことがない!



「こ、こんな美味しいの、もらっちゃって良いの!?」

「良いの。ね?」

「う、うん」



一口飲んでは幸せに浸り、また一口飲んでは…というのを繰り返していたら、レイシアちゃんが話しかけてきた。



「ねぇ、キーシャちゃん」

「なぁに?」

「王女様が国壊した話、知ってる?」



うん、と縦に頭を振る。



「王女様は、何で国を壊したんだろうね」



静か、けれど、部屋に響くその声は、たしかに私の耳の中に入ってきた。


頭の中は疑問でいっぱい。


どうして?何でそんなことを聞くの?

王女様本人じゃないけど、何故か焦った。


不思議な声。


次に思ったのはその一言。

耳に真っ直ぐ入ってくる、綺麗なソプラノの声。



何故か、本当に何故か、この空間から、早く脱したかった。



「私は、王女様じゃないから、わからない」

「そっか。ごめんね、変なこと聞いて」



全くよ。


声には出さないけど、心の中でそう思っていた。



「私の知り合いにね、リズリス王宮に仕えていた子がいるの」

「え!?」



そんなすごい人と知り合いなの!?



「すごいでしょ。それでね、その子から聞いた話」

「…うん」



レイシアちゃんが話してくれたお話は、御伽噺みたいな感じだった。



「むかしむかし、あるところに、魔力があまり無い、器量もそこまで良く無い、王女様が一人、おりました」



王女様は王様から嫌われていて、周りからも愛されなかったそうだ。



「王女様は頑張りました。マナーを、ダンスを、勉強を、音楽を、たくさんたくさん頑張りました」



だけど、王女様が得意になったのは魔法では無く勉強の方で、カゾクは誰も褒めてはくれなかった。



「王女様はある晩、薬をたくさん飲んで、そして」



死のうとしました。



不思議。本当に不思議な声。

スッと頭の中に入ってくる。



「それから、どうしたの?」

「秘密。知り合いにそう言われたから」

「そっか」



気になるな。



「この続きを空想して、お話でも書いてみたら?」

「あ、それ良い」

「じゃあ、一緒に書こ、キーシャちゃん」

「うん、あ」



微笑んでくるレイシアちゃんをみて、ゆっくり言う。



「ねぇ、お友達にならない?」



私がお友達になりたいだけだ。



でも、どうかな、どうなのかな?



「えぇ、もちろん。よろしくね」

「うん!よろしく、レイシアちゃん!」






アールズの月。夜明け前


銀髪の町娘キーシャに、新たな友ができた。














アールズの月。夜明け前。


愛されなかった子、レイシアに新たな友ができた。

















「んー、ここがカトレア公国かぁ…橋に一番近い国だけど、いるかなぁ?葉鈴ちゃん」



カトレア公国に一人、来客がやってきたようだ。




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