第46話私はレイシア


私はレイシア。


最近、カトレア公国に越して来た“平民”だ。




なーんて、ね。




私の名前はハレイシア。

本名はハレイシア・レイ・リースレット。


元リースレット王国第七王女だ。



国を壊して、二ヶ月。

アールズの月。(1月)


私は、アリス帝国にある“橋”を渡り、カトレア公国に来ていた。

そこで、今は平民として暮らしているのだ。


家事なんかはまだまだ大変だけど、周りの人が助けてくれる。なんて暖かな環境なのだろう。



何故、私がカトレア公国にいるのかって?


そんなの、逃げて来たからに決まってる。



あの日、国を壊した日。全てを思い出した。

いや、全て、というのは大げさか。


私の前世の名は崎野葉鈴さきのはれい。享年15歳。


死因。失血死(だと思う)。


カップの破片で、手首と首を切って死んだ。

何故死んだのか?もう生きてるのがつらかったから。


いとこを、親友たちを事故で失った。


家族同然の親友が、自分を庇い死んだ。それは、当時11歳だった私にとってはショック以外の何物でもなくて、精神を病んだ。

そっから4年間。病室で生きていた。


それでももう、生きるのがつらくて、つらくてたまらなくて、生きているのが怖くなってそれで



死んだ。



我ながら情けないと思う。


もっと生を全うしていれば、罪の意識も軽くなったかもしれないのに…。

いや、やっぱそれは無いわ。


精神を病んでた私のことだ。何しでかすかわからない状況下になっていただろう。



「(そう思うと、死んで正解だったのか)」



まぁ、死ぬことが正解なんて言ったら、誰かから怒られそうだけど。


まぁ、ともかく“何かが怖くて”逃げ出したのだ。



「…シアさん…レイ……さん…レイシアさん!」

「あ、何ですか?」



いけない。私はどうやら一点集中型のようだ(キリッ)。



「お昼の時間だよ」

「そっか、ありがとう、キーシャさん」



キーシャさん。

私と同じ、“銀髪の平民”。本当に平民なのか怪しいけど。

どっかの貴族の落とし子じゃね?

銀髪っつーと、アリス帝国が多いよな。ていうか、銀髪の人って大半がアリス帝国の人だよね。



「ねぇ、キーシャさん」

「ん?なーに?」

「キーシャさんって、どこ出身なの?」



何気ない感じに聞く。



「どうしてー?」

「銀髪って珍しいじゃん?あ、私は、アリス帝国出身」

「アリス帝国なんだ!私はね、ファーネル王国のヒリュウ村!」



ファーネル王国の、ヒリュウ村。

へー、そんな村、あるんだ。



「そうなんだ」

「うん」

「私、アリス帝国の人以外で、銀髪って初めて見た」

「やっぱ珍しいの?」

「うん」



そりゃ珍しいに決まってる。



「えへへ、私ね、この髪が自慢なの」

「そっか」

「うん。みんなね、私の髪を褒めてくれるの。それが嬉しくて嬉しくて」



…この子が今まで、髪狩りに合わなかったのは、もしかして、周りの人間が守っていたから?

そうだとしたら、この子は何と幸運な子なのだろうか



「綺麗だと思うよ。キーシャさんの髪」

「本当?ありがとう、レイシアさん」



本当に嬉しそうに笑う。

この子は本当に愛されて生きてきたのだろう

羨ましい。



「でも私、レイシアさんの髪も綺麗だと思うな」

「そうかな?」

「そうだよ!ツヤツヤしてて、キラキラ光ってて…」

「ふふっ、ありがとね」



うーん、この子、聖女様にでもなった方がいいんじゃないの?

最初、嫉妬は感じられたけど、もうそれは無いし。純粋に真っ直ぐ。綺麗で白い心のままだ。



カーンカーンカーン


「あ、鐘だ。行こ、レイシアさん」

「うん」



まぁでも、この子の行く先を私が決めたらダメか。



「精々、足掻いて生きてみろよ」

「レイシアさん、なんか言った?」

「ううん、何も」















私はレイシア。平民のレイシア。


物作り屋さんで、レース編みをしているレイシア。


王族なんかじゃない。


魔力なんか持ってない。



大丈夫。大丈夫。


私なら上手くやれる。私は平民レイシア。



この銀髪は、アリス帝国出身で、私が貴族の落とし子だから。

うん、そうやって言えばいい。


どうにもならない時はそう言おう。



パチンッパチンッ


「よしっ。私はレイシア」

「レイシアお姉ちゃん!」

「おはよう。ククル」



ハレイシアの家族の兄様、姉様、従者のアメジスト、アルディア、ユーキ。友達のララちゃん、アミリアちゃん。


私は今日も元気です。


だから、心配しないで。



「おっはよー!レイシアさん!」

「おはよう。キーシャさん」



私はここでも、上手くやってるから。




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