第44話願わくば、次は良い人生を


ざわつく会場。


そりゃそうだ。自国の王が、国民の血肉を使って、呪術式を作っていたとなれば、それは大騒ぎだろう。



〈アル〉

〈何でしょうか、ルキ王太子殿下〉

〈ハレイが帰ってきたよ。アメジストに〉

〈わかりました〉



ルキ王太子殿下の隣を見ると、姫さまがいた。


姫さま、ハレイシア王女殿下、僕たちの宝。



それは、アメジスト、マリア王女殿下、ルキ王太子殿下、ユーキ、姫さまに関わる人たちの共通意識。


だって、ハレイシア様は…。



〈アル?〉

〈あ、すみません。今送ります〉



ポケットから鈴を取り出す。


そしてそれを



シャンッ シャンッ シャンッ



三回鳴らした。



「おっと、主役が来たようです」



アメジストがわざとらしくそう言う。

全く、いつもとキャラ変わりすぎ。



「ごきげんよう。皆さま。本日はパーティーにお集まりいただき、ありがとうございます」



いつにも増して、穏やかな笑みを浮かべる姫さま。



「さて、我が侍女の説明はどうでしたでしょうか。お気に召しましたでしょうか?」

「ふざけるなっ!!!!」

「…」



あ。


ヤバイ。これは…姫さま怒ったな。



「勝手に何を言う!全てデタラメだ!」

「ふざけるなはこっちのセリフだよ」

「はぁ!?」

「っざけんじゃねぇぞ、クソが」


パキンッ



姫さまを中心にあたりが凍り始める。



「姫さま。落ち着いてくださいませ」

「アメジスト…ごめんごめん。油撒いて」

「はい」

「アルは転移魔法用意」

「はい」



アメジストが姫さまに声をかけると、姫さまは元の穏やかな笑みを浮かべる。


指示が出ると、僕たち2人は準備を始める。



アメジストが油を撒き、僕が燃えそうなものを油に浸して床に置いて行く。



「な、なにっ、なんなの!?」

「何を撒いているんだ!」

「何って、油ですよ」

「何のために…!?」



パニックに陥っているであろう周りの人々。


あぁ、愉快なもんだ。



「(僕って、性格悪かったんだな)」



油を撒きながら、そんなことを考える。


今度は姫さまの…“葉鈴”の笑顔、守れるかな



「アル。終わりだよ」

「アメジスト…うん」



小走りでマリア王女殿下とルキ王太子殿下のもとへ行く。



「さぁ、問題です」

《…?》

「私はこれから、何をするでしょうか」



とても良い笑顔で、国王に問う姫さま。



シュッ



マッチに火をつける。


最初はユーキの魔法を使おうとしていたけれど、姫さまが嫌がったから、マッチで火をつけることにした。



「?…!ま、まさか、火をつけるのか!?」

「正解です!流石は国王陛下!」



褒めてはいるが、それは皮肉にしか聞こえない。



「だって、こんな国、いらないでしょう?」

「な、何を言って…」

「浮気されて、散財して、それを国民になすりつけて、挙げ句の果てには無罪の方を殺しているなんて」



そんなゴミみたいな国、いらないでしょう?、と姫さまは言う。



「あ、火、強くしますね」



そう言って、指を鳴らすと、少し太めの枝ー丁度松明ができるくらいーが手元にあった。


それにマッチの火を近づける。



ボワッ



魔力のおかげなのかはわからないが、火が一気に強くなる。



「さぁ!早く逃げないと、炎に飲まれますよ!」



松明を高い位置に上げ、大広間の者たちにそう告げる姫さま。


もう一度言う。とても良い笑顔だ。



「やめろ!落ち着きなさい、私が相談に乗ろう!」



国王陛下がそう言うと



「はっ、一度も名前を呼んでくれなかったクセに、今更親気取りですか?いい御身分ですね!」



それは恐らく、本音だったのだろう。

陛下は、必要な時は名前を呼んでいた。


でも、姫さまが望んでいたのはそうではなくて、自分の子として、名前を呼んでほしかったんだ。



僕にはわからない。だって、僕にはもう愛してくれる人もいるし、それに



親の愛情というものは、とうの昔に知っているから。



「は、ハレイシア」

「今更遅すぎんだよ」

「くっ…」



少し低めの声で、そう言う姫さま。



「さぁ、どうしたのですか?逃げないのですか?私、本当に火をつけますよ?」

「ハレイ姫…」

「リク君…ごめんね。アメジストや兄様たちのところへ行っていてくれないかな?」

「でも…」



いいから、ね?、とシャナ男爵子息様の背を押す姫さま。



「…はい…」



とぼとぼ、と僕たちの方へ歩いてくるシャナ男爵子息ーリクー様。



「………さ、仕切り直しましょうか。どうか、皆様お逃げください。さもないと、炎に飲まれますよ?本当に」

《…………》



「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「死にたくない!死にたくないぃ!!!」



途端に喚き出す群衆。



「んじゃ、数えますね。10ー、9ー」

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「8ー、7ー、6ー」



叫ぶ間も、カウントダウンは止まらない。



「(アル。転移魔法用意)」

「(了解)」



目線で知らせがくる。



パチンッ



指を鳴らし、転移魔法を複数個展開する。


使用は1日に一回。

一回で展開するなら、複数個やってもいいよね、と言う理論(?)にたどり着いた。



「皆さま、お逃げください」


ザワザワッ





大方、避難し終えた後。



「アル。みんなを連れて先に行ってて」

「!?姫さまは!?」

「後から逃げる。通路知ってるんだ」

「!」



そう言うことなら…それに、こう言う時の姫さまは何を言っても聞かないのだ。


諦めよう。



「では、姫さま。姫さまもお逃げくださいね。いいですね」

「うん。ありがとね、アル」

「お気をつけて」



アルが青く光りを放っている、転移魔法陣の中に入る。


それを最後に、転移魔法が消滅する。



「…はぁ…じゃ、終わらせようかな」



良い人生だったとは言えないけど、記憶を取り戻してからの6年。その6年は楽しかったかな。



「後悔なんて山ほどある。憎しみも悲しみもある。たくさんある。」



でも、もう終わりにしよう。



「さようなら。兄様、姉様、アメジスト、アル、ユーキ、リク君、みんな。ありがとう」



深くお辞儀をして、そのまま




松明を落とした。




願わくば、次は良い人生を。







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