第43話国を壊す日


「一つ。王妃さまについて、お話がございます」


《(始まった…!)》



大広間のあちこちにいる兄様や姉様たちと、視線を合わせようとする。


視線が合うと、頷き合い、(行け)という指示が出る。



そう、私はこれから、王宮の中でも最も空に近い〈天の塔〉に行って、火をつけて来なければならない。

火をつけたらアルの用意してくれていた小型の転移魔法でこの大広間に戻ってくる、そして



「(油を撒いて、マッチを掲げて、脅すのよね、この場にいる人たちを)」



そうすれば、手っ取り早く避難を成功させられる、とユーキが提案してくれた。



「王妃、ソフィアについての話?何だ、申してみよ」

「はい。一言で言えば」

《………》




「浮気です」




「…は?」

「ソフィア様は浮気をしております。城下町の踊り子と」



とても良い笑顔でそう告げるアメジスト。

エゲツない。



「そ、そんなバカなこと、あるわけ」


パシュッ


「!?」



心の中で苦笑していると、アメジストが陛下に向かって何かを投げた。



「貴様ッ!陛下に向かって何を!」

「こ、これは…」

「シャシン、というものでございます」



ナゴミ国からお取り寄せした、“カメラ”というものを使っております、と言う。


てか、いつのまに…



「こ、こんなの、魔術の類であろう!」

「キカイ、と言うものらしいです。ナゴミ国は魔法使いはあまりいませんからね。別の場所に力を注いでいるらしくて」



涼しい笑顔で陛下にそう告げる。



「さ、それよりも、“始めよう”」

「…」



アメジストが後ろー私がいる方向ーをチラッと見て、そう言った。


合図だ。天の塔へ行けという、合図だ。



「………」



その合図に、私は右の耳に髪の毛をかける仕草をする。


簡単に言うと、了解、と言う意味だ。



カツ カツ カツ


《………》



大勢の人の視線が刺さる。


それはもう、背中にグサグサと。



「国王陛下?目を逸らされては困ります」

「っ…」



ナイス、アメジスト。



「それで、他にもまだまだありますよ」



紙の束を見せつけるアメジストを背に、私は天の塔に向けて、走り出した。















「はぁ、はぁ、はぁ…んで、こんなに、階段があんのよ…」



この世の中には、転移魔法なるものが存在する。

しかし、決して万能ではない転移魔法だ。


まず第一に、使えるのは1日に一回まで。

その次に、膨大な魔力を使う。

申請をせずに使うと、犯罪者へまっしぐら


今回、もしものことがあった時のために、アルには申請をしといてもらってる。


そんなことはありえさせないけど、もしも国壊しが失敗に終わった時のためだ。



「転移魔法は、避難用」



そして、転移魔法は避難用に使う。


要は、逃げ遅れた人用だ。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ついたぁ」



私の目の前には大きな扉。私の背には、油や藁、マッチなどが入ったリュック。


重さはどれくらいだろうか。多分、5kgはいってる。確実に。

これを背負って、百を優に超える階段を登ってきた私を誰か褒めて。



ギィィィィッ



重い音を辺りに響かせながら、扉を開ける。



「…ふぅ」



ここで誰かいたとかじゃ、ホラー過ぎる。

良かった、何もいなくて。


はぁ、ようやっと重い荷物をおろせる。



ドサッ カランッ



あ、油倒れたかな?


まぁ、溢れてないからセーフかな。



「っしょっと」



コポコポコポッ



まず油を床全体に軽ーくかけます。


次に藁をそこかしこに敷きます。


次に余った油を藁の上からかけます。



「でーきた」



ふぅ、と一息つき、袖で汗を拭う。

いや、ここで一息ついている場合じゃない。


シュッという音を立てて、マッチに火をつける。



「後は…リュックも布だし燃えるよね。よし、後は燃やすだけ」



扉から出て、隙間からマッチを投げ入れる。


次の瞬間



ゴォォォォッという音を立てながら、炎が広がり始めた。



バタンッ


「私のお仕事、一時終了っと」



あの扉は、分厚いし丈夫だけど、木でできてるから、そのうち燃えるよね。


あはっ、あははっ!やった、やっちゃった!



この国を、壊せるんだ!



ーーみんな、返事してよ…ーー



「………え?」



ーーごめんなさいごめんなさいーー



「何?」



ーー私だけ生きててごめんなさいーー



「これ、何?」



ーー雨、亜衣、優希、真理ーー


ーー留姫お兄ちゃんーー



ーー私だけ、生きていてごめんなさいーー



「やだ…嫌だ…聞きたくないッ!」



ーーねぇほら見て!新しいゲーム!ーー


ーー七色の祈りって言うんだよーー




ーー一緒にやろうよ、葉鈴ちゃんーー




「あ、あぁ…あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



何で、どうして、何で今思い出すの。



ーーごめんなさい、許してーー



やめて



ーーもう嫌。もう無理なのーー



やめろ



ーーおねがい。しなせてーー



「ーーーッ!」



あぁ、そうか。私は、私は、葉鈴だ。



崎野葉鈴さきのはれい



何で………今思い出すんだろ















「それで、他にもまだまだありますよ」

「ッ………!」



国王が唇を噛んでいるのがわかる。



私こと、アメジストは興奮状態にあった。

今から、国を壊すのだ。それも、自国を。


私に今与えられている役割は、姫さまが天の塔に火をつけてくる間の時間、30分ほどの時間稼ぎ。



「王妃様の浮気。国王陛下、あなたの散財。その散財による重税で国民は苦しめられている」

「くっ…」

「そして、不当な金額での宝石類の売買」

「!?」



まさかこれが出てくると思わなかったのか、目を見開く国王。



「まだありますよ。秘密裏での人身売買に、無罪者への刑罰。よく殺していたそうですね。国王陛下?」

「そ、そんなの」

「デタラメだって?」



言わせねぇよ?と言わんばかりに、言葉を被せてやる。



「まだ後一つ、こっちが掴んだ情報があんだよ」

「あ、アメジスト…」



キャラ変わってるよ、とアルが言ってくる。

できれば、好きな人の前で暴言は吐きたくなかったな。



「話を戻します。」

「な、何だ」

「無罪者への刑罰。そのほとんどを殺していた。その死体なんかをどこにやっていたか、皆さん気になりませんか?」



振り向いて、微笑みながらそう言ってやる。



「この国王、ザドル・リズリス・リースレットは、人間の血肉を使って、呪術式を作っていたのです!」



一拍を置いて、大広間全体がざわつく。


さぁ国王、ここからは私のターンだ。



人生を狂わせた仕返しをしてやるよ。

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