第42話始めよう


持っている情報は情報屋に頼んで、国民に流してもらった。


リティア姉様とアルテスさんのことは、姉様がなんやかんやしてくれた。


私自身は、時々変な声や“記憶”が聞こえたり見えたりするけど、それ以外は特に無し。



そんなことを考えながら、サンディーと踊っている私は何なのだろうか。



「(…もしかしたら、これから、こんな笑顔も奪うんだよな)」



私の目の前には、機嫌が良さそうなサンディー。


サンディーは平民だ。周りと比べれば裕福だが、それでも平民は平民だ。

平民は、国に守られて生きているようなものだと、陛下は言った。



ならば、その守っている盾を壊してしまえば、どうなってしまうのだろうか。



「(………いやだなぁ、考えたくない)」



サンディーももしかしたら、売られたり、するのだろうか…。

サンディーの見目はとても良い。珍しい黄色の髪を持っているし、瞳は宝石のようだ。


まぁ、が宝石つったら、私の周りにいる人たち、みんなそんなもんだけどね。



「(嫌だな。サンディーやみんなが傷つくのは)」



でも、もう決めたことだ。


それに、ここでこの国を壊さなければ、母様の祖国が壊されることになる。


それはもっと嫌だ。



それならば



壊そう。この国を。



「これは、全部私のため…」

「ハレイちゃん?」

「何でもありませんわ」



しまった。声に出てた。



「そう?なら、良いんだけど」

「えぇ」



そう。恨まれても構わない。これは全部、私のためなんだ。
















「「「姫さま!」」」

「アメジスト、アル、ユーキ」



たったったっ、と少し小走りで私の方は走ってくる上記3名。



「どうしたの?3人とも」

「いえ、それが、あの…」

「?」



そっとアルが指差す先は



「むふふ〜」



満面の笑顔で、兄様の首根っこを掴み、引きずっている姉様の姿だった。


ん?“兄様の首根っこを掴み引きずる”?



「姉様ぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

「なぁに?ハレイちゃん」

「ねねね姉様、そ、それは一体」

「落ち込んでたから鳩尾みぞおちに一発入れただけだよ?」



姉様、それはどうかと思いますが…。



「そ…そう、なんですか、はい」

「ふふっ」



黒い笑みだ…。ブラックマリアだ。怖い。



「ハレイちゃん」

「?」

「行ってらっしゃい。庭園に。“始めよう”」

「!」



合言葉だ!



「えぇ、わかりました。“始めましょう”」



行こう、庭園に。これから始まるのは



最終イベントだ。



「んじゃ、後よろしくね」

「「わかりました」」

「了解です」



アメジストたちに会場は任せておく。

後で私がいなくなったことに気づいたフリをして、探しにくるであろう。



「ここからが、本番だ」



はぁ〜、緊張してきた〜!










ーーーー


ーーー


ーー






リースレット王国にある、リズリス王宮。


そして、王宮が誇るバラの庭園に、二人の男女がいた。



「アルテス様…わたくし、ずっと前から…」

「リティア嬢…」

「アルテス様を、お慕いしておりました!」

「リティア嬢…実は、私も…リティア嬢のことを、お慕いしておりました…!」



二人が良い雰囲気になっている中、庭園の隅からその光景を盗み見る者がいた。



「(ふぉぉぉぉ!!!良いわ良いわ!そのまま行きなさい!言うのよ!)」



霞んだ銀髪に、金の瞳。美人とは言い難いが、それなりの容姿を持っている少女。


そんな少女が、庭園の隅にある木から中央付近にいる二人の告白シーンを盗み見ている。



「ではっ…!」

「はい。どうか、私の妻になってはいただけないでしょうか」

「っ…喜んで!」


「(よっしゃぁぁぁぁ!!!)」



声には出さず、心の中で荒ぶり、無表情のままガッツポーズをする少女。


この少女の正体は…



「姫さまぁー!!」

「!?」

「「!?」」

「ハレイシア様ー!」



リースレット王国、第七王女。ハレイシア・レイ・リースレット、十六歳だ。



「お、おぉ、これはすまぬ。大事な時に」

「いや、いいのです。大臣殿」

「それより、また姫さまが脱走を?」

「そうなのです。踊るのが嫌だと言い…」



告白していたアルテスとリティアも話に入り、一向に出づらくなる。


ハレイシアは「ヤバッ」と思いながら、息を潜め、大臣たちが去っていくのを待つことにした。



「…」



一人だけ、自分の方を見る視線に、気づかぬまま。






「では、離れの方も探してみましょう」

「そうですな。いやはや、申し訳ない」

「良いのです。大臣殿」


ザッザッザッ


「…………ふぅ」

「姫さま」

「ひゃあ!?」



突然後ろから声をかけられ、飛び上がるハレイシア。



「あ、あああアメジスト!後ろから声かけないでって、何度も言ってるでしょ!」

「何度もいなくなる姫さまがいけません」



そう言って、ハレイシアの“唯一”の侍女であるアメジストは、ポケットから時計を取り出す。



「ほら、そろそろダンスも終わった頃です。戻りますよ」

「い、言われなくても戻るわよ」

「まーたいつもの盗み見ですか?」



呆れているアメジストを横に、ハレイシアは瞳を煌めかせながら言う。



「夜の星七つの鐘が鳴った後、あのバラのアーチの下で思いを告げると、その思いが実るって言う噂、あるじゃない?」

「あぁ、ありますね」

「あの二人がそれを実行したのよ?見ないわけにはいかないじゃない」

「はぁ、そうですか」



アメジストの返答に「え!?興味無いの?」と驚くハレイシア。



「ありませんね。そんなことより、私は、姫さまを連れ戻す方が最優先ですから」

「うぐっ」



ピシッと固まるハレイシア。



「さぁ、大広間に戻りますよ」

「…はーい」



誰に書かれても良いように。演じる。


嘘の会話を。当たり前のようなやり取りを。



全ては、自分のために。








大広間


「全く。どこに行ってらしたのですか」

「…」

「姫の身に何かあったらどうするのですか」

「…ごめんなさい」



大臣の説教を大人しく受け入れるハレイシア


その姿に、周りは「おぉ…」と、どよめく。

それ程までに、ハレイシアが素直に説教を受け入れる姿は珍しいのだ。



「わ、わかればよろしいのです。うむ」

「今後は気をつけます」

「ならば良いのです。お戻り下さい」

「はい」



しかし、大臣たちは気づかない。

この時、アメジストとハレイシアが同じ微笑みを浮かべていたことに。








パチンッ


これで交代、とでも言うように、手を交わすアメジストとハレイシア。



「後任せたよ、アメちゃん」

「りょーかい。ハレイ」



互いの愛称を呼ぶ。ハレイシアは壁の方へ行き、アメジストは王座の前へ行く。



「国王陛下」

「何だ。アメジスト」





「一つ。王妃さまについて、お話がございます」





この王国が壊れるまで、後、多分、一日。

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