第39話三ヶ月


「………」



暗い。



「…………」



暗い。



「……………」



暗い暗い。



「………………」



教室の雰囲気が、暗すぎる。



ただ今、建国祭が終わり一ヶ月。姉様たちが旅立ち三ヶ月。現在、キーカの月、第14日簡単に言うと、12月14日。


王立アカデミー全体の雰囲気が、暗い。



魔王との戦いがあるからか、姉様たちを心配してたのか、もしくは自分の身が不安なのか


どれかはわからない。



「話し相手がいねぇ……」



アメジストは仕事はするけど上の空。

ララちゃんとアミリアちゃんは委員会の活動で忙しそう。



よって、話し相手がいないボッチなのです。



お昼も1人。部屋でも1人。登下校も1人。



「放置プレイなのか…」



最近本気でそう思えてきた。

でもまぁ、3人はそれぞれ仕事があるんだし、仕方がないよね。



「ひっ……」

「?」

「ぅ………」



泣き声?


中庭の方からだ。前にお昼をみんなで食べた場所の方。



「っ………ふぇっ………」

「どうしましたか?」

「!」



駆け寄ってみると、そこには膝を擦りむいた男の子が泣きながら座っていた。


よく見れば膝だけでなく、腕なども怪我している。



「…あの時のお姉さん…」

「ん??」



笑顔で固まってしまう。


私は君に会ったことが無いぞー



「あ、ぼ、僕、リク。リク・シャナ。シャナ男爵家の次男坊です…ハレイシア王女殿下」

「シャナ男爵家の息子さんだったのね。それで…どこかで会ったことあるっけ?」

「えっ、と…5年前の、マリア王女殿下のお披露目パーティーで、怪我を治してもらった…リクです」



5年前?お披露目パーティー?



あぁ!



「私が聖なる癒しを発現させた時の!」

「はい!そうです!」



わぁ!すっかり男前になっちゃって!



「大きくなったね!あ、足は?足の方は大丈夫?」

「大丈夫です。後遺症も無く、健康に過ごしています。それもこれも、全て王女殿下のおかげです。ありがとうございます」



そう言って、にっこり微笑むリク君。


わぁ…美少年やわぁ…



「って、リク君!怪我!」

「あ、平気ですよ。このくらい」

「良くない良くない!」



慌ててリク君の手を握り、目を瞑る。



「治って…」

「ぁ………」



あのお披露目パーティーの日、兄様たちから入念に人前で使うなと言われてきたが、これは放って置けない。


5年ぶりの治癒だけど、大丈夫かな



「殿下。王女殿下。ハレイシア王女殿下」

「え?あ、何?」

「もう大丈夫です」



私の手を、包むようにする。

5年で人って変わるもんだなぁ…。



「(前見た時はあんなに小さくて柔らかそうだったのに、男の子らしくなっちゃって)」



クスッと笑うと、何がおかしいんですか、とリク君がムッとした顔で言ってきた。慌てて何でもないよ、と言う



「念のため、医療室行ってね」

「気が向いたら行きます」

「てい」



軽くチョップをお見舞いしてやる。


力はすごく弱くしたので、痛くはないはずだ。



「痛いですよ。ハレイシア王女殿下」

「長い」

「へ?」

「呼び方、長い」



「ハレイシア王女殿下」。うん、長すぎる。



「ハレイにしなさい」

「えっと、ハレイ王女殿下?」

「ハレイ」

「ハレイ姫?」



ハレイ姫、ねぇ…。まぁ、男爵家の子だから、身分もあるだろうし



「それでいいよ」

「わかりました。ハレイ姫」



ん?あれ?じゃあ、平民ながら、私のことを「ハレイちゃん」と呼んでいるサンディーはどうなるんだ?



「(ま、まぁ、今はいいや)」

「ハレイ姫、怪我のこと、ありがとうございました。微力だとは思いますが、何かありましたら、できる限りお助けします」

「ありがとう。リク君。リク君の方こそ、何かあったら相談してね」

「!…はい」



リク君は心底嬉しいそうに笑った。


はぁ…美少年やわぁ…



「それでは」

「気をつけてね」


「お、リク君。遅かったじゃん」

「す、すみません」

「いこーぜ」


「……………」



さて。どうやって懲らしめようか。

この国の国民をいじめるとはいい度胸だなぁ



ラストリアのお貴族様よ?













その後。一週間以内と言う制限時間を自分に付け、リク君をいじめている奴らを退学にしてやった。自力で。



「(いやぁ、証拠集め、楽しかったわ)」


フラッ


「え」



まずい。このままじゃ倒れる…!



トサッ


「君は…ハレイシア王女殿下!?」

「あ、あなたは」

「こ、これは失礼しました。ユーキ・リテモの知人の、ナノハ・ユズリと言います。アミリアお嬢様の護衛騎士です」



アミリアちゃんの…。



「助けていただきありがとうございました。ナノハさん」

「さん付けは不要です。ナノハ、と」

「ではナノハ。ユーキは良くやっていますか?」

「努力しています。何でも、最近は好きな人ができたらしくて、より一層、職務に力を入れています」



あのユーキに好きな人!?



「ゆ、ユーキに好きな人!?いったい誰ですか!」

「え、えっと、そこまでは存じ上げておらず、申し訳ありません」

「いえ、取り乱してしまい、こちらもすみません」

「い、いえいえいえ」



互いに謝り合戦が始まる。



「あ、そろそろ自分、行きますね」

「あ、はい」



お互い、少し気まずくなりながら、反対方向に向かって行く。



それにしても、あの単純バカが、好きな人か…。



「こりゃ事件ね」



というかさ、何で最近私の周りでカップルできんの?嫌がらせ?嫌がらせなのか?



まぁいいや。そう、人生はまぁいいやでできているのだ(できていません。なに突然言いだすんだ。怖えよ)。



「さ、部屋に戻りますか」



ノートに書き込もう。もう頭で整理ができなくなってきた。


やはり私は頭が弱いのだ。




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