第38話知らぬ間に
「ほ?」
「だから、その…結婚を大前提に、おつきあいを始めました…」
「ほへ?」
「あ、嘘じゃないですよ。告げる言葉も互いに言いました」
速報。
私の従者2人が、知らぬ間に付き合い始めていました。
「いやぁ〜、アル、ホントおめでとう」
「ここまで来るのに長かった…」
「姫さまとアルは私をなんだと思ってるんですか」
「「仕事一択のアメジスト」」
素直に、本当に素直に、アルとそう述べる。
すると、どこから取り出したのか、アメジストはダガーナイフ一本を片手に、私たちに襲いかかってきた。
「この馬鹿男。決行一年前だと言うのに」
「良いでしょ、別に」
青ざめながらどうどう、とアメジストを宥めるアル。こりゃ恐妻家になりそうだな。
「さ、それよりもどうしますか?来年の国壊しのこと」
「あぁ、それなら手ぇ廻しといた」
「「早っ」」
いやぁ、照れるなぁ〜2人に褒められたよ。
「どうやったんですか?」
「えーっとね…兄様経由で城下町の情報屋に今持ってる情報を流して、あ、全部じゃないよ?それで、それをコソコソ国民に広めてもらえるようにした。これでクーデターは起こるはずなり」
私が自信満々に言い切ると
「「…はぁ」」
「何よ」
アメジストがアルが同時に溜息をついた。
「…まだ諦めてなかったんですね、国壊し。変なところでこだわるんですから」
「姫さまには、僕たちがついてなきゃダメだね。ね?アメジスト」
「えぇ、そうね」
アメジストがふわりと笑う。
「…」
アメジストのこんなに優しく、幸せそうな笑み、見たことない。
あぁ、良かったね、アメジスト。愛する人を、愛してくれる人を、見つけれたんだ。
「(これで、心置き無く…去れる)」
そう、心の中で呟いた私の声は誰にも聞こえない。当たり前だけどね。
“その時”になったら言えないかもしれない。
だから、先に言っておくね。
ありがとう、アメジスト。
ありがとう、アルディア。
いつも側に居てくれて、ありがとう。
一週間後。
キュールの月、第20日。
今日が何の日か。別に何の日でもない。
知らぬ誰かの誕生日だか、命日だかだろう。
話が逸れた。
今日は
「行ってきます」
「行ってらっしゃいませ…姉様」
マリア姉様と色の勇者たちが、魔王討伐の旅に出る日。
アメジストとアルがつきあい始めたあの日。
アルが、アルディアが色の勇者の1人、黒の勇者であることが判明した。
黒は闇属性。使いようによっては、強大な力になるだろう。
「アル…」
「アメジスト、大丈夫。旅の予定は半年だけど。三ヶ月で帰ってくるから」
この一週間。2人の甘々っぷりが辛かった。
正直に言って、ホント、辛すぎた…ツライ。
「あ、ハレイちゃーん!」
「あ、サンディー!」
平民ながらも、優秀な成績を収めているサンディー。
サンディーは黄の勇者。黄は砂属性。これも結構強力。
「行ってらっしゃい、気をつけて帰ってきてね、サンディー」
「うん!俺ハレイちゃんのために頑張る!」
「嬉しいな」
ん?
んん?
これ、恋人同士の会話みたいじゃねぇか!
「(い、いや、違うし、私サンディーのことはそう言った意味で好きじゃないし)」
結論。
サンディーは、天然タラシ、そうだった。
なんか、五七五になった…。
「アリュート王太子殿下、ルーカス様、パラメド様、サンディー様、リジーラ様、ルキ王太子殿下、アルディア様」
《!》
「マリア姉様を…言の葉の巫女様を、どうか御護りくださいませ」
私は深くお辞儀をする。
「任せてください。巫女様は、必ずや護ります」
代表してか、アリュート王太子殿下が一歩前に出てそう述べる。
あぁ、これで安心だ。
「では、気をつけて行ってらっしゃいませ」
今度は軽くお辞儀をする。
はて、アルとアメジストは…
「これ、どうぞ…」
「僕も…はい、これ」
何やら、互いに何かを渡し合ってた…
アメジストは刺繍の施されたハンカチ。
アルディアは紫の石のペンダント。
うん。立派に恋人のやり取りですね!
我が国の送り出しの儀。
恋人ならば、ハンカチと装飾品。
家族ならば、一輪の花を交換。
友達ならば、栞を交換する。
などなど。
まぁ、つまりは
「(恋人同士の送り出しの儀、やってんのよね、2人)」
ま、微笑ましいことなんだけどね。
「…」
私の手元にあるのは、アメルの木の葉の栞。
さて、問題です。
私はこの栞を、誰に渡すでしょうか。
3
2
1
0
はい、おしまい。正解は
「サンディー」
「んー?なーに?ハレイちゃん」
「これ、アメルの木の葉で作った栞!」
「え、俺にくれんの!?」
サンディーでしたー。
「えぇ!」
「んじゃ俺も、はいどーぞ」
サンディーが投げてきたのは、透ける色ガラスで作られた栞。色は金色だ。
「ハレイちゃんの目の色。ね?」
「!ありがとう、サンディー」
あぁ、良い友達だ。つか、友達らしいことしたの、ハレイシアの人生で初めて…。
「サンディー、もう行くってよ」
「あ、待ってよ、パラメド。じゃ、またね、ハレイちゃん」
「うん、気をつけて」
サンディーに手を振ると、姉様が、ずるい!といって負けじと手を振ってきた。
「姉様も気をつけて」
「ハレイちゃんのために頑張ってくるね!」
「そこは国のために頑張ってください」
相変わらず、ツッコミどころのある姉だが、心配だ。
ぽんっ
「?」
「大丈夫。僕も護るから」
「兄様…」
頭を撫でたのは兄様だった。
「兄様も、気をつけて」
「あぁ」
それだけ言うと、馬車に乗り込んでいく。
あぁ、行ってしまうんだ。
シナリオ通りならば、誰も死なないけれど。
「ここは、痛覚も、死の概念もある、
神さま、どうか彼らに慈悲があらんことを。
本で読んだ言葉を、真似っこだけど言ってみる。
少しでも届くと良いな、私の想い。
気をつけて、頑張って、行ってらっしゃい。
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